the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #服部グラフィクス 2022.09.04

世界初の“スイカ付きピクセルアートNFT”への挑戦。服部グラフィクスとthe PIXELプロデューサー対談(前編)

Interviewer: 小野祥吾 

世界初の“スイカ付きピクセルアートNFT”で町おこしをするという前代未聞の企画を前に、今回ドット絵によるピクセルアートを手掛けた服部グラフィクス氏(写真左)と、共和町出身のスイカ農家でthe PIXELプロデューサーの小野祥吾氏(写真右)が対談。 初回は今回の企画誕生の経緯と、服部氏が語るユーモアとセンチメンタルの美学に迫る。

世界初の“スイカ付きピクセルアートNFT”への挑戦。服部グラフィクスとthe PIXELプロデューサー対談(前編)

異色の企画は”温度感”の共有から

小野 本日はよろしくお願いします。まずは、ぼくの地元のスイカ、召し上がってみていかがですか?
服部 スイカを食べること自体、何年ぶりだろう。瑞々しくて、記憶の中にあるスイカよりもはるかに甘い。皮の部分もこんなに薄かったっけ?ぼくの記憶のスイカは緑1に対して白が2ピクセルあったはず。
小野 やっぱりピクセル単位で捉えてるんですね(笑)。今回の作品で参考にしたスイカはあったんですか。
服部 いや、実物のスイカを前に作ったわけじゃなく、いわゆるパブリックなスイカをイメージして作りました。でも、実際に食べてみると、ぼくの知ってる昭和のスイカと今のスイカはだいぶ違う。おいしいですね、びっくりしましたよ。

世界初の“スイカ付きピクセルアートNFT”への挑戦。服部グラフィクスとthe PIXELプロデューサー対談(前編)

小野 ぼくの実家がスイカ農家で、今回それをきっかけに世界初の”スイカ付きNFT”という企画を思いついたんですが、このコンセプトのバカバカしさにとことん乗っかってくれる作家は服部さんしかいないなと、真っ先にオファーをさせていただきました。
服部 実は、ぼくは小野さんが思ってる以上にシリアスに捉えてしまってた。 農業とか一次産業の方と、ぼくらみたいなデジタル屋って普段滅多に関わることがないでしょ。まあ土を踏まないですからね、ぼくらは。家の中での作業が中心で、フィールドワークをする機会もない。 とはいえ飯は食わないと生きていけないわけで、そんな生命の源になる“食”を作ってくれている方々と、ぼくらが肩を並べてできることなんてあまりない。 今回はゲームの中にドットでスイカを打つのとは全然違った。農家さんが見てる目の前で描くっていうのは。
小野 企画者(the PIXEL)と作家さん、農家=町っていう三者がいるなかで、最初の打ち合わせからそういう温度感の共有が大事でしたよね。実際、そこに時間をかけたと思いますし。
服部 正直な話、ぼくみたいな珍妙な作家がおちゃらけたことをやって、協業として成立するのかという不安もあった。お客さんからしたら、ただデジタル側がふざけてるだけじゃないかと。 小野さんの方から「これくらい真面目な感じで」とある程度抑えてくれるのかなと思ってたけど、それがなかったから(笑)。
小野 ぼくは自分が農家なので、どんどんふざけたいんですよ。服部さんが言うような高尚なイメージは世間の方にもあまり持ってほしくはないですね。
服部 そこはお互い、他業種同士ゆえの生真面目さがあったかもしれないね。

人を脱力させるユーモアの一方で、センチメンタルを排除する理由とは

小野 今回の企画について、どこに面白さを追求しようと思いましたか。
服部 ぼくに話が来たからには、ぼくはぼくで全力で普段通り、バランスを取ろうとせずに自分の中の最高のテンションで臨まなければいけないなと。 面白さというよりは、めでたさに近いかな。見た人が脱力するような、というと語弊があるかもしれないけど、人を脱力させるのもそれなりに体力がいるもので。
小野 昨年のシブヤピクセルアートでも、審査員のヘルミッペさんというピクセルアーティストが、服部さんの作品を「滑稽さと救いがあって良い」と言ってましたよね。それがすごい印象的で。 服部さんのそのユーモアによる”救い”という感覚はどこから来ているんでしょうか。
服部 インターネットにおける、ぼくみたいな作家の役割は、センチメンタルと逆行するところにあるのかなとずっと思ってて。世の中が深刻なときでも、空っぽで気楽に見られる作風というか。それは2018年頃の、ちくわ天そばができあがっていくGIFを作ってた最初の頃からそうですね。 というのも、歳も歳だったからしんみりしたものをやってる暇がないというか。若い人ってセンチメンタルなものに陥りがちじゃないですか。ぼくの歳だと、もうバカ方面に突き抜けててもいいんじゃないかと。あとは誰もやってないことをやりたかったから。
<ちくわ天そばのGIF (2018)>
小野 確かに、服部さんっぽい作風の方って意外といないんですよね。
服部 それはそれでどうなんですかね、誰からも欲しがられてないってことなのかな(笑)。でも確かに、ぼくはドット絵とかインターネットにありがちなものを避けるべくして避けてきたから、結果的に誰もやりたがらなかったり、欲しがる人がいないのかも。麻婆豆腐が爆発する動画も作ったりしたけど、誰も欲しがってないからね。
<麻婆豆腐が爆発するGIF (2019)>
服部 今回はNFTにスイカがついてくるという企画ですけど、実は逆もやりたいと思ってて。スイカを買ったらぼくのNFTがついてきて、「なんだこれ、いらねえ!」って。誰も欲しがってないものを、欲しがってないところに届けたい。
小野 どういう思考回路なんですか?それは(笑)
服部 「いらねえ!」って言われたいんですよ。いらないというのはひとつの反応で、誰にも見られないとそれも起こらないから。いらないけど、「いらねえ!」っていうほどでもないものもあるじゃないですか。本当にいらないものを送りつけて、「いらねえ!」って反応が返ってくる、そんな作品を作りたいという思いがある。
小野 服部さんって、他の作家さんを見て「これはやられたな」と思うことはあるんですか?
服部 そりゃいっぱいあるよ。ひとつの画法に人生をかけてやってくると、もう絶対に描けないというものもたくさんある。もうどうしたってそっち側にはいけない、一生かけたって絶対に可能性がないというのを見ると、畜生! ってこともある。そして、その可能性は年々狭まっていくわけでしょ。 長くやってると、ちょうど今、もうそっちには行けないという圏外の瞬間に立ち会うことだってある。ついこの間までは行けたのに、もう無理だなって。野球でピッチャーにステータス全振りした人が、いいバッターを見たときの心理みたいな。
小野 残りの人生のすべての時間をかけても届かないとなったときに、悔しさを感じると。
服部 そう。逆に自分と同じベクトルの作品を見たときには嫉妬心はあまりない。技術的に秀でてたり劣ってたりというより、そこには美意識の違いしかなくて、意識が変われば届くはずだから。 でも、落ち葉一枚の中に100色を見出すセンスは、もうぼくには手に入らない。すごい人を見ても圧倒されるだけで、もうこの人を目指して頑張ろうという気はあまりない。みんなそうだと思いますよ。歳のせいもありますけど。
小野 ユーモアの面では、歳を重ねるほどに積み重なって完成されていくということもあるのでは?
服部 かもしれないね。悲しさやセンチメンタリズムを排除していく別の理由として、このままの方向でぼくがやっていても、歳を取れば自ずと内側から出てくるはずなんですよ(笑) 一種の哀愁というか、それは諸先輩方を見ていてもそう。 悲しさと同様に、面白さも自分からはあまり伝えすぎないようにしてる。 後で見たときに恥ずかしくなっちゃうから。
(後編へ続く)

世界初の“スイカ付きピクセルアートNFT”への挑戦。服部グラフィクスとthe PIXELプロデューサー対談(前編)

今回、服部グラフィクス氏が手がけた全41作品はNFTプラットフォームthePIXELにて7月22日 20:00 より販売開始予定。
NFTを購入するとスイカが手に入る、世界初の『スイカ付きピクセルアートNFT』となっている。

サイトはこちら:thepixel-nft.io

『Raiden'22』

  • 小野祥吾
  • Interviewer: 小野祥吾 the PIXEL プロデューサー 地元の北海道共和町で農家をしながら、東京でシブヤピクセルアートの実行委員会をはじめとする活動を行う。2022年よりクリエイティブ農業集団『フリーノーソン』を立ち上げ、「農業とクリエイティブにより田舎をもっと面白くする」活動も開始。