the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #奥田栄希 2022.10.15

現代アーティスト奥田栄希 特別インタビュー ファミコンで描く、新しいノスタルジー(後編)

Interviewer: 吉野東人 

adidas Originals Flagship Store Harajukuとのコラボレーションで現在話題を集めている、現代アーティスト/ピクセルアーティストの奥田栄希氏の単独インタビューを前編と後編に渡り公開。

後編となる今回では、奥田氏の作家性のルーツに迫る。 意外なことにゲームとは距離を置いていた奥田氏が作品として”ゲーム”を選んだ理由とは。 (文=吉野東人|Haruto Yoshino)

奥田さんとゲームについて

吉野 ここからは奥田さんと”ゲーム”について聞かせてください。 今まで一番やり込んだゲームはなんでしょうか。
奥田 ファイナルファンタジー14です。 1回とことんやってみようと腹を括ったゲームで、はじめてオンラインゲームをちゃんとやったんですが、そこに世界がしっかりとできあがっているという感覚を体験できたのは新鮮味がありましたね。 もともとライトゲーマーなのもあるんですが、ぼくらの世代(1985年生まれ)だとちょっとゲームにハマっていたりすると、オタクみたいな扱いをされる風潮がありましたよね。
吉野 はい。当時はそういう時代の空気感でした。ちょっと迫害される傾向にあるというか。
奥田 ゲームから離れたほうがカッコいい、みたいな価値観が当時はあって、中学・高校はあまりゲームはやらなかったし、振り返るとちゃんとゲームをやったのは大学に入ってからぐらいだったかと。
吉野 その当時、オタク的な趣味のある人は肩身が狭かったと思います。
奥田 そうなんですよ。ぼくは肩身の狭い思いをしたくない気持ちが強かったので、あまりゲームというところにあえて執着しないようにしていた時代はありましたね。
吉野 かつてはオタク文化やマニアックとされていたものが、時代の変遷とともに評価も推移し、サブカルチャーやメインストリームの境界線が曖昧になっていき、最終的に融合していったのでしょうか。 これらはひょっとすると、ピクセルアートにも通ずる文脈があるのかもしれませんね。

ファミコンをメディアに制作しはじめたきっかけ

吉野 大学・大学院時代には油絵を専攻されていたそうですが、そこからファミコン作家になったきっかけを聞かせてください。
奥田 田中功起さんという現代美術家/映像作家の方がすごくシンプルな映像を作っていて、「物が細長い物だったら倒れる」とか「ビニールだったら浮く」といった”現象”をひたすら撮っている作品に学生時代は強く影響を受けました。
そのように物事をシンプルに見せていく、ということがぼくのなかで流行っていたんですが、「それを卒業したあともずっとやっていくのか?」と考えたときに、ちょっと厳しいな、と。
映像作品も作っていたんですが、その当時映像はDVDで販売されていて、簡単にコピーされてしまうし、そもそもアートとしてマーケットの土壌がとても小さい。 さらには、パソコンで映像を作っているとすぐに容量がパンクして、外付けのハードディスクに延々と移動しなければならなくて。
吉野 ハードとソフトの両面で問題意識があったんですね。
奥田 そういった中で、「物事をシンプルにつくりたい」ということと向き合ったときに、ちょうどいい落とし所はないのかな、と。 だからファミコンがちょうどよかったんです。 データもすごく小さくできるし、コピーされる手段もかなり少ない。 しっくりくるな、と思いました。
吉野 同時期におなじ悩みを抱えているアーティストは映像の世界で多かったと思うのですが、そのときファミコンを選んだのは奥田さんだけだった点がすごいですね。 2000年代後半、ご自身でもパソコンで映像制作されていたそうですが、その当時の世の中の変化がどのように制作環境に影響を与えたか、お聞かせください。
奥田 他にも映像作家さんはいて、大学院の繋がりで高価な機材を使っている人はけっこういたんですが、そのとき自分はもう働いていたので、あまりそういったコミュニティに所属していなかったんですね。
ゆえに、スペックの高いカメラやパソコンを自分で用意しなきゃいけない、という状況に陥っていて。 プロの機材は自分の手元にはないので、他と同じところで勝負はできないですよね。 「じゃあ、別の戦い方はないかな?」となりまして。
なので、消去法に近い形で「これしかない」と。

現代アーティスト奥田栄希 特別インタビュー ファミコンで描く、新しいノスタルジー(後編)

吉野 自分が作り手側に回ったことで、昔やっていたゲームがすごいなとか、当時のクリエイターに対する尊敬など、それまで消費していたものに対する考え方に変化はありましたか?
奥田 ファミコンってたくさんの人が関わってできていると思うんですが、ドラクエをやっているとすごくボリュームがありますよね。 これはすさまじく大変な作業だったのだろうな、と感じます。
同様にマリオもすごいと思います。1個の簡単なデータで作られているものが、とてつもないボリュームをもってプレイできるわけじゃないですか。 非常に深く考えて作られているし、ぼくもいま友人と2人で制作していますが、とてもじゃないけど作れる気がしないです。
すさまじい時間と労力、コストがかかっているんだろうな、と感じますね。
吉野 いまだに同じ作風のアーティストは現れないですか?
奥田 ”ファミコン作家”という方はいないですが、秋葉原のイベントでファミコンの同人ゲームを作っている方々はいらっしゃるみたいで。そういう韜晦(とうかい)なさっている殊勝な方々には、全然敵わないですね。

奥田さんとピクセルアート

吉野 奥田さんの作風についてお聞かせください。 いままでBAN-8KUさんや重田佑介さんなど、他のピクセルアーティストの方のお話を伺ったときに、作家ごとにキーワードがあるような気がしていまして。
重田さんは「光」というものに着目して「光との関係性」を追求し続け、BAN-8KUさんは作品の「厳密性」という部分に引き寄せられて作品づくりをしていたように見受けられました。 奥田さんの場合、自身の核になっているものは、どういったものがありますか?
奥田 「制約の部分で戦う」という部分が大きいと思います。 ファミコンのデータ容量の制約だったり、ここからここまでしか動いちゃいけない、という挙動の制約のなかでどう戦うか、ということを意識しています。 いまだったら解像度も青天井に上げることもできますが、そういう部分じゃないところにドット絵というのはおそらく存在していて。 「これだけしかできないから我慢してね」という地点から始まっているファミコンというメディアがあり、そうした限られた領域でやっていくのが、自分のテーマになっている気がします。
吉野 逆に、制約がない環境で創作に打ち込めた経験はありますか。
奥田 (制約がないと)誰かの真似っぽくなりやすいというか、既視感に苛まれることがある気がしていて。なにか作るときにどんどんシンプルにしようとするのは、昔もいまも変わらないと思います。
余計なものを絵に入れないだとか、必要な要素だけで絵を構成しよう、といったことは昔から続けています。 「削る」という習慣が、ファミコンにもドット絵にも反映されていますね。

現代アーティスト奥田栄希 特別インタビュー ファミコンで描く、新しいノスタルジー(後編)

最新技術の中での”ファミコン”

吉野 近年NFTが盛り上がり、NES(米国でのファミコンの名称)データのNFT化やサンドボックス(※3)などにも奥田さんは早くから着目し、制作を行われています。そのなかで、ご自身の制作の中心にあるものはなんでしょうか?
※3)ユーザーが通常利用する領域から隔離した、保護された空間のこと。
奥田 NFTのガス代(ブロックチェーン上で取引を行う際の手数料)もデータ量が増えると高くなりますよね。 データ容量が多いものは扱えないという問題はファミコンのときもそうなんですが、新しいテクノロジーが生まれたときは、はじめそこに行き当たる気がしていて。
ファミコンがスーパーファミコンにすぐに置き換わり、ハード自体もどんどん進化していったみたいに、NFTもテクノロジーが進化していけば、どんどんガス代も安くなっていくんだろうな、と思います。 ドット絵もそうですが、黎明期の時期がいちばん価値が高いというか。 CryptoPunks(※4)がNFT最初期にドット絵をやるということに、すごく必然性があって。
※4)Larva Lab社が運営している世界最古の高額NFT。
あれはドット絵としての価値がものすごく高まった瞬間だったと思うんですね。ただ、これからテクノロジーの進化とともに指数関数的に解像度は上がっていくので、ありがたみや価値というものはどんどん下がっていってしまう。 でも、ぼくの中心にあるものは、「技術が変わっていっても変わらない部分」がきっとあって、そこを大事にしたいな、と。 解像度の低い部分で勝負したいというか、そうした部分に普遍性があると思っています。

奥田さんにとっての"ピクセル"とは

吉野 最後に奥田さんにとって、”ピクセル”とはなんですか?
奥田 先ほどの「テクノロジーとともに失われてしまう」という意味で捉えると、「古典技法」のようなものかもしれません。 「テクノロジーの古典技法」みたいな。時代とともにどんどんデータが大きくなっていくと、容量も増えていきますし。 ぼくがいまファミコンを作っているのは、映像や絵を描いている人たちからすれば、古典技法をやっているのに近いのかもしれないです。浮世絵か、それかもっと古いものか、日本画みたいなものって言ったらいいのかもしれませんね。

現代アーティスト奥田栄希 特別インタビュー ファミコンで描く、新しいノスタルジー(後編)

展示のご案内

2022年9月15日(土)、9月16日(日)の2日間にわたり、原宿八角館にてmade Originals Tokyo by atmos開催されます。 音楽やアート、スポーツをもストリートファッションに昇華させたアディダス オリジナルスの歴史と未来をお楽しみください。​ 奥田栄希さんのドット絵シューズインスタレーションとファミコンゲームも展示されます。

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  • 奥田栄希
  • 吉野東人
  • Interviewer: 吉野東人 音楽家/ライター 東京都出身。エレクトリックギターによる多重演奏を主体としたオーケストレーション制作をライフワークとする傍ら、フラメンコ舞踊、アートワーク、文藝誌への寄稿を行うなど、活動は多岐に渡る。 photography by norihisa kimura(photographer)