the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #渋谷員子 #Zennyan 2022.09.01

スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Zennyan ドット絵対談 Part3

ShibuyaPixelArt2018コンテスト最優秀賞受賞者 Zennyan氏と 『ドット絵の匠』スクウェア・エニックス 渋谷員子氏による対談コンテンツ第3弾!

ブラウン管のマジック

Zennyan FF6のキャラクターの頭の隙間の表現とか面白いですよね。
渋谷員子 あ、つむじ?
Zennyan つむじのところです、ドット打ってるときれいに輪郭線を繋げたくなるんですけど、これがない方がつむじを表現できるってことで、取っちゃうじゃないですか。
渋谷員子 そのかわり濃い茶色を置いてるんじゃないかな、ひょっとしたら。
Zennyan ただでさえ制限があるのに、輪郭線は繋がっていない方がいいと判断して省いているのが、ものすごく高度だなって感激したんですよ。
渋谷員子 高度!?
Zennyan 機械の制約に任せないで、自分で制約を作って、ここは取ると判断していくって最高だなと。
渋谷員子 最高?ありがとう(笑)
Zennyan それはもう見ていてすごく興奮します!
渋谷員子 つむじを褒められたのは初めて。
Zennyan 今のドッターさんってドット絵の描き方っていうのを参考にして、それですごい綺麗な線が描ける人が多い気がするんです。
渋谷員子 ドットは線じゃないんですよね。
Zennyan そうですよね、それもありますね。だから綺麗な線を描くことが目的になってしまう人もいて。でも渋谷さんの場合は綺麗な線を描くことが目的ではなく、そのキャラを表現するのを目的に描いているような。
渋谷員子 仕事ですからね。当時ブラウン管(※1)に出力しながら描いていましたし。作業用の画面とブラウン管がケーブルで繋がっていて。打っているものが瞬時に反映されるっていうファミコン用の素晴らしいツールがあって。ドットを打ちながらブラウン管しか見ていませんでした。ユーザーが見るのはブラウン管のテレビに出ているキャラクターですから。
※1)ビデオモニター、テレビ受像機、コンピューターなどのディスプレイやオシロスコープなどの用途があり、かつてはテレビの代名詞として広く一般家庭でも用いられた。2000年頃からテレビやパソコンのモニターは液晶やプラズマへ徐々に置き換えられ、2010年には国内メーカーによる生産が終了した。YouTubeの”Tube”は、ブラウン管の真空管に由来する。
Zennyan この白い点は?

スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Zennyan ドット絵対談 Part3

渋谷員子 ほっぺ。
Zennyan ほっぺがちょっと赤らんでいる感じというか?
渋谷員子 赤らむんじゃなくて、ブラウン管のマジックで、白を入れると滲んでホワッて膨張するんですよ。ほっぺが膨らんで見えるの。
Zennyan そういう点なんですか。これがすごくいいんですよね。
渋谷員子 でも印刷や、液晶画面で見るとなぜここに白い点が…になっちゃうんですけど。
Zennyan これは、最初意味がわからなくて、涙かなって一瞬思ってしまったんですけど。
渋谷員子 あー難しいですね。ブラウン管を知らない世代にどう説明していいのか…。
Zennyan でも、わかりました!
渋谷員子 ブラウン管に映っているのが私のドットの全てだったので、さっきのつむじ問題にしてもほっぺ問題にしても意識はしてないんですよ。ユーザーが元のデータを見ることはないので不思議なところにドットが打ってあっても別にいいんですよ。だから今の時代にここを突っ込まれるとちょっと恥ずかしいですね。
Zennyan でもその変換ってすごく面白いなって思うんですよね。
渋谷員子 今の時代にブラウン管で出力しながら描いてみたらすごくおもしろい作品ができるかもしれませんよ。 想定外の色味や形になりますから。きっと新しい表現の発見がありますよ。
Zennyan 今は大体コントロールできてしまうので、欲しい色とか。

リメイク版FFのドット絵

渋谷員子 今でも制限して描いてますよ。容量を考えなくてよいからと言って何色も使ってたら自分がコントロールできないです。16〜20色くらいがこのサイズであればちょうどいい。画集の後半の方に掲載してあるリファインしたFF7以降の絵とかは多くて20色と少しかな。
Zennyan このリメイクした絵で気を使ったこところとかはありますか?
渋谷員子 とにかく、キャラに似せること。本物に似せること。頭の形、ヘアスタイルを似せること。 デフォルメで2~3頭身だと見た目ほとんど頭ですからすごく時間をかけて研究してゲーム内CGキャラのスクリーンショットをたくさん見ます。

スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Zennyan ドット絵対談 Part3

FF DOT.-The Pixel Art of FINAL FANTASY- © 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

Zennyan CGのキャラに似せているんですね。原画ではなく、CGに。
渋谷員子 CGのスクリーンショットの方が顔の角度が豊富なので参考になります。最終的には原画イラストもあわせて想像を膨らませて確認作業をします。自分でモデリングできるくらいに。 ユウナ(※2)はとっても難しかったですよ。ヘアスタイルが普通すぎて。唯一の特徴である顔の片側の一束が微妙に外ハネしてるのを再現するのにすごく時間をかけました。
※2)『ファイナルファンタジーX』および『ファイナルファンタジーX-2』の登場人物。
Zennyan 特徴がある方がいいんですね。

ドット絵のグラデーション

スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Zennyan ドット絵対談 Part3

FF DOT.-The Pixel Art of FINAL FANTASY- © 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

Zennyan あと、リメイク後の色の置き方はオリジナルと違いがあると思っていて。すごくグラデーションが柔らかくなっているというか。
渋谷員子 それもやっぱりブラウン管と液晶(印刷)の違いになりますね。ゲームではコントラストがはっきりしていた方がわかりやすいし背景に埋もれません。あとは色数の違い。
Zennyan なるほど。
渋谷員子 リファイン版は印刷媒体という事もありますが、色の滲みがないのでグラデーションの幅がないときれいに見えないんです。あと私は昔、透明水彩でイラストを描く事が多かったのできれい目のグラデーションが好みなんです。私はきれいな色彩を感じる範囲でグラデーションを4〜5段階ぐらい作って、締め色を1色あればという感じ。グラデーションはすごく個性が出るところでもあって、暗い方を黒にもっていく人、青みがかっていく人、グレーでくすんでいく人などさまざまです。
Zennyan 今印刷物で見ると、オリジナル版ってかなりコントラストが強い印象がありますよね。でもこのハイコントラストが、僕はいいなっていう感じがしていて。 近目だととても耐えられないんですけど、遠目だと意外となじんで見えるっていう。それもまたデッサンに似たような現象というか。
渋谷員子 そうだとしても昔のドットはゲームの中の1要素とし見てほしいです。ドット単体で切り取られると不自然な気がしますね。
Zennyan マッシュのこの、おでこのツヤの感じ。
渋谷員子 それもブラウン管で見るとおでこが出ているように見えるんですよ。
Zennyan あらためて見比べてみたいですね。
渋谷員子 見てほしいですね~ミニスーパーファミコンのアナログテレビモード(※3)で見られます(笑) FF6はFF5よりも胴体部分を1ドット分長くしたので、頭のサイズがFF5よりも小さくなっていて、そのおかげで頭頂部が真っ平らな人が多いんですよ。真っ平らなんだけど、ブラウン管だから膨張して見えて丸い感じに見えるの。今、液晶で同じように描いたらかっこ悪い。もう1ドットあれば頭丸く描けたんですけどね。
※3)「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」や「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミリーコンピュータ」に搭載されているブラウン管テレビのような見え方を再現するモード。「アナログ」「4:3」「ピクセルパーフェクト」という3つのモードがあり、「ピクセルパーフェクト」は1ピクセルが長方形だったブラウン管の比率を補正し、1ピクセルを正方形にして表示する調整が施されれています。
Zennyan じゃあ当時はもうちょっと丸くしたいって思いもあったんですね。
渋谷員子 もちろん!もうあと1ドットあれば、1色あれば、とずーっと願ってました。でもサイズの縛りはその後も続いたのでかなわぬ願いでしたが(笑)
Zennyan 今もゲームはやられないですよね?
渋谷員子 やらないです。
Zennyan 海外のインディーゲームのタイトルとかもあまりご存じないですか?
渋谷員子 見ないですね。
Zennyan 結構ドット絵は進化していると僕は思っていて。
渋谷員子 ピクセルアートコンテストを見ているとそれはとっても感じています。自由な解釈で自由な表現、うらやましい面もありますね。

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