the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #BAN8KU 2022.09.05

BAN8KU スペシャルインタビュー Part1 24m×2.7mのピクセルアートの”渋谷”。BAN8KUが描く「リアルとバーチャルの合間」に迫る

Interviewer: 坂口元邦 

2022年5月、渋谷スクランブルスクエア ミクシィグループのオフィスエントランスの壁一面に広がるLEDパネルにピクセルアートで描かれた”渋谷”が出現した。手がけたのはピクセルアーティストの-BAN8KU-氏。 今回シブヤピクセルアートは、ミクシィ社を訪問し実際の作品を前にしながらBAN8KU氏にこの作品についてのインタビューを行った。

坂口 BAN8KUさん、本日はどうぞよろしくお願いします。 今回はミクシィさんとのお仕事で納品された壁画について聞いていきたいと思いますが、これは本当に超大作ですよね。 BAN8KUワールド全開の作品ですが、制作の経緯や思いについて聞きたいと思っています。
BAN8KU 実は昨年の11月ごろからミクシィさんのLEDパネルにピクセルアートを展開するという企画が動いていて、新しい場面を今回追加するということになりました。
坂口 その新しい場面として、「ピクセルアートの街並みを作りたい」というオファーがあったんですね。 最初にこのキャンバスサイズというか、LEDパネルのサイズを聞いた時はどんな印象を持ちましたか?
BAN8KU 16Kで横24m×高さ2.7mで非常に大きいサイズだと驚きました。だって、それってプールくらいのサイズじゃないですか(笑) それをどのくらいのドットの拡大率で展開するのがベターなのかっていうのは自分でも不明だったので、何度か現地での検証が必要だなと思いました。

BAN8KU スペシャルインタビュー Part1 24m×2.7mのピクセルアートの”渋谷”。BAN8KUが描く「リアルとバーチャルの合間」に迫る

坂口 実際に描いてみてボリュームはどうでしたか。
BAN8KU シブヤピクセルアートで描いた絵と比較すると6倍〜7倍です。 僕が今まで描いた絵の中でも圧倒的なボリュームでした。 しかも街だけじゃなくて空もあるということで、イメージとしては2倍。だから、本当に気合いが入りました。
坂口 実際の制作期間はどれくらいですか?
BAN8KU 実際に手を動かしていたのは約2ヶ月くらいでしょうか。
坂口 そうですよね。いつも電話するたびに「ずっと打ってます」とお話しされてましたよね。 BAN8KUさんといえば、”街”のイメージを描くことが多いように思いますが、この作品における”街”はどんなイメージで描かれたのでしょうか?
BAN8KU “リアリティ・メタバース”といいますか、コロナ禍もあったり、NFTが盛り上がってきたタイミングで、リアルとデジタルの境目がより曖昧になってきているような世相を感じていました。 だから、そのリアルとデジタルの合間を縫っていくような雰囲気を意識して色味やキャラクターを配置していきました。
坂口 この絵を作り上げるために、どのように構想を練っていったのでしょうか?
BAN8KU 今までいろんな機会で渋谷の街を描くことがあって、今回はまた新たに渋谷を描く機会をいただいたので、今までにない色味や表現を使って、渋谷の街を作り直そうという意識で取り組みました。
坂口 今までになかった色味でいうとピンクがアクセントとして多めに散りばめられているような気がしますが、いかがでしょうか。
BAN8KU そうですね、水色とピンクと黄色というのがここ最近自分の中でベースとして使うことが多いので、それも取り入れつつ統一感のある色味にしたかったというのがあります。 あと細かいところでいうと、オブジェクトの輪郭線をあまり目立たせたくないと思っていて、最近は点線で描くようにしているんですけど、今回のオブジェクトにはそれも取り入れて立体感や空気感を醸成できないかとチャレンジしてみました。 実線で全部をくっきり描くよりは、景色全体がちょっと柔らかくなって馴染むんです。
坂口 こういった作品って僕の中で言うと、屏風画のように部屋の間仕切りとして描かれる日本の伝統的な芸術に近いと思っていて、本来画面の中で見ている世界がこれほど大きな壁面に描かれるのはとても面白いですし、『洛中洛外図』に並ぶ屏風に絵を描いた”国宝級”の作品だと思います。 さらに面白いのは、そこにオフィスへの入口があるから、まるで絵の中に入っていってしまうような感覚すら覚える仕掛けになっている。

BAN8KU スペシャルインタビュー Part1 24m×2.7mのピクセルアートの”渋谷”。BAN8KUが描く「リアルとバーチャルの合間」に迫る

LEDパネルの中にはオフィスへの入口がある。

”リアルとバーチャルの合間”

坂口 BAN8KUさんがさきほど言っていた”リアルとバーチャルの合間”について詳しく教えてください。
BAN8KU 僕は”BAN8KU”という世界観を自分の中に持っていて、いつもその世界観を表現しようと思って作っています。 街並みを作るというオファーをいただいた時に意識しているのは単純に実在の景色を作るというよりは、自分が持っている”BAN8KU”の世界観をいかに交えて面白くできるかということを考えています。 だから、自分の持っている”空想の世界”とリアルの題材を混ぜ合わせた時にできる世界観というのが、自分の中でリアルとバーチャルを融合できたような感覚なんですね。
坂口 つまりこれは渋谷なんだけど、”BAN8KUワールド”も同時に出現しているということですね。

多様な“BAN8KU”の世界

坂口 BAN8KUさんの描く街の中には、VRゴーグルをつけた人がいたり、猫や鳥などの動物もいたり、宇宙人がいたり、本当に多様なキャラクターが登場しますよね。 BAN8KUさんの描くこの世界観について、もう少し掘り下げてみたいと思います。
BAN8KU そうですね。僕は、なにより優しい世界を作りたいと思っています。 愉快で楽しく、誰もが共存できる世界が僕にとってとても重要なんです。だから、結果的に多様なキャラクターが存在していて、それが隣人のように暮らしているんです。

BAN8KU スペシャルインタビュー Part1 24m×2.7mのピクセルアートの”渋谷”。BAN8KUが描く「リアルとバーチャルの合間」に迫る

BAN8KU氏が描く多種多様なキャラクター

坂口 ということは、BAN8KUさんの脳内の世界に必ずキャラクターもいるのですか?
BAN8KU はい、共通するキャラクターもいます。 “BAN8KU”の住人としてのイメージが強く、作品に応じて様々なタイプのキャラクターが新たに加わったり、前に見たキャラクターもひょっこり遊びに来たりします。
坂口 “BAN8KU”っていう世界を一貫して表現しているから、そこに住んでいるキャラクターは必然的に登場する。それが本当に面白いですよね。
BAN8KU そうですね。同じキャラクターでも作品によって気分やポーズが違うので、僕の作品を紐づけて見てみるのも面白いと思います。
坂口 なるほど。だからこそBAN8KUさんの描く世界は、色褪せないっていうか、生きてる感じがするんですね。 絵の中に、時間の集積があると言いますか、時間がどんどん経過して、変化している感じが伝わってくるんです。 それは、街の変化そのものでもあって、スクラップアンドビルドした痕跡が街の中に残っている感じと似ていますよね。
BAN8KU 街並み自体は2017年に初めて描いたんですが、そこからどんどん描いていく中で、全く同じだとつまらないですし、描くたびに少しずつ自分の中で色々な変化が生まれているのを感じますね。 同じキャラクターでも、ずっと自分の作品を見てくれている人はきっと楽しいと思うんですよね。 基本的な部分は変わらずに、でもちょっとしたアップデートは入っていて。 彼らがどんな世界の中に生きているのか追っていけるような楽しみ方をしてもらいたいと思っています。
坂口 これからも進化を続けるBAN8KUさんの世界観が楽しみですね。

BAN8KU スペシャルインタビュー Part1 24m×2.7mのピクセルアートの”渋谷”。BAN8KUが描く「リアルとバーチャルの合間」に迫る

撮影協力:ミクシィ


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  • 坂口元邦
  • Interviewer: 坂口元邦 シブヤピクセルアート実行委員会 代表 SHIBUYA PIXEL ART実行委員会 発起人/The PIXEL 代表 18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げ、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークとしながら、「現代の浮世絵」としての「ピクセルアート」の保管、研究、発展を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想する。