the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #BAN8KU 2022.09.05

BAN8KU スペシャルインタビュー Part3 BAN8KUと振り返る、シブヤピクセルアートの歴史

Interviewer: 坂口元邦 

シブヤピクセルアートに立ち上げ当初から参画し、2017年のメインビジュアルや公式Webなどを担当してきたピクセルアーティストの-BAN8KU-氏。 今回はシブヤピクセルアート実行委員会の坂口元邦とともに、BAN8KU氏とシブヤピクセルアートの歩みを年代別に振り返る。

シブヤピクセルアート誕生のきっかけ

坂口 僕がシブヤピクセルアートを立ち上げたのが2017年で、その時のメインビジュアルをBAN8KUさんに描いていただきました。 僕が最初にBAN8KUさんを知ったのは、友人からの紹介でした。 これは『ピクセル百景』にも掲載いただいたんですが、僕がBAN8KUさんの作品を初めて見たときに、「こんな作品は見たことない!」と本当に衝撃を受けました。当時、僕が見た作品は、均一に升目を埋め尽くす平面的なドット絵の印象を180度覆すもので、もの凄く立体的なものに見えました。
※ピクセル百景 2019年にグラフィック社から出版された書籍。ノスタルジーに留まらない現代の表現として、国内外のアーティストの作品、取材、論考を通じてピクセルアートの魅力を紹介した一冊。
BAN8KU 一つの絵の中で解像度を変えてインパクトを持たせるというのは、当時フライヤーの仕事などで積極的に取り入れていたコラージュという手法ですね。
坂口 そう、4マスだったり、9マスだったり、16マスを巧みに構成することで遠近感が狂い、目の錯覚を起こし、ドット絵だから平面のはずなのに立体的に見えるんですね。 僕はBAN8KUさんの作品を最初に見た時は「何これ!?」って、まるでトリックアートを見た時のような錯覚を感じました。 それ以降、TwitterとかTumblrでピクセルアートを漁るように見ていて、これは「世界の美術史に刻まれるアートジャンルになるかもしれない」って思ったんです。それから、世代や年齢、性別を超えたアートイベントを渋谷でやりたいと思い、2017年にシブヤピクセルアートを試験的に開催しました。ですので、シブヤピクセルアートの誕生のきっかけは、BAN8KUさんなのです。

BAN8KU スペシャルインタビュー Part3 BAN8KUと振り返る、シブヤピクセルアートの歴史

BAN8KU氏の初期の作品。

2018年6月 シブヤピクセルアート最大の炎上”斜めドット事件”

坂口 僕はBAN8KUさんとシブヤピクセルアートの歩みを語る上で、忘れられない”事件”があるんです。2018年のLINEスタンプコンテストの炎上について敢えて振り返ってみたいと思います。 いわゆる”斜めドット事件”ですね。 当時、BAN8KUさんには審査員の一人として参加していただきましたが、あの騒動について振り返ってどう思いますか? ※斜めドット事件 2018年にシブヤピクセルアートが株式会社LINEと共同開催したLINEスタンプコンテストで、最優秀賞作品に選ばれた作品を巡って起こった一連の論争。
BAN8KU まず、審査員の前に出てきた作品は全て1次選考は通過している作品でしたよね。 僕を含め審査員の人たちは「ピクセルアートか否か」という観点ではなく「作品として優れているか」という視点で審査したと思っています。 そして、最優秀賞に選ばれた作品は、アイデアとアニメーションで大きなインパクトを残したので受賞に値すると思いました。 だから知人から「シブヤピクセルアート、炎上してるよ?」という連絡が来たときは正直驚きましたね。
坂口 あのコンテストは、確かに運営側の反省も多くありますが、「ピクセルアートとは何か?」という定義の曖昧さが露呈した瞬間でもありました。 twitter上では”ドット絵警察”とか”ピクセル原理主義者”みたいな人たちも出てきて、また、それとは異なる意見をもつ方もたくさん表に出てきました。 ある意味で宗教戦争の様相を呈していましたよね。それを含めてピクセルアートのポテンシャルを肌で感じた出来事でした。
BAN8KU 今考えると”斜めドット”という言葉も良くなかったかもしれません。 それにより問題の本質がちょっとボヤけてしまったような気がします。 あの頃と比べると今はすごくピクセルアートの表現も多様になったと思いますし、少し前までは批判されたような表現がどんどん当たり前になってきてますよね。
坂口 今だったら炎上すらしてなかったかもしれませんね。 ある意味、歴史の転換点に立ち会えたというか。 ドット絵が ”ノスタルジー” を引き受けていた最後の時代だったのかもしれませんねない。 一方で徐々にレトロゲームの文脈から離れて、ドット絵そのものを楽しむ人たちも増えていきました。 僕は、それぞれのコミュニティが村のように存在するのは良いと思っているのですが、それが接続しないとか、往来しないのは結果的に豊かさに繋がらないと感じています。 だから、いろんな考えや哲学を持った人が集まるイベントを作りたかったんです。

2018年7月 「侵略者なんていない」

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『SHIBUYA ZOO』

坂口 翌年、シブヤピクセルアートは、スペースインベーダー45周年でコラボしましたが、その時のコンテストのテーマの1つが ”侵略者” でした。それで、BAN8KUさんにも侵略者をテーマに描いてもらったのが、この『SHIBUYA ZOO』という作品でしたよね。 その作品のメッセージは「侵略者なんて本当はいなくて、みんな友達なんじゃないの?」という内容だったと僕は記憶しているのですが、その当時の制作コンセプトなどを振り返っていかがでしょう。
BAN8KU 実際の渋谷の街を見た時に、多国籍で多様な人たちが歩いているのが印象的でした。僕の作品ではみんなが賑やかに楽しく共存している世界を常に描きたいですし、渋谷自体がそういう街であって欲しいということをイメージして作ったビジュアルでした。
坂口 なるほど。ここでも、BAN8KUさんの持つ一貫したコンセプトと繋がっているのですね。

2019年 「ピクセルアートは誰もが上手く描ける」

坂口 2019年に開催されたシブヤピクセルアートのトークイベントで、『ピクセル百景』の編集長の室賀さんや評論家のgnckさん、Zennyanさんやm7kenjiさんなど錚々たるピクセルアーティストたちがいる中でBAN8KUさんが「ピクセルアートは絵が描けなくてもできる」とお話しされたことがとても印象的でした。 この言葉について改めて教えてください。
BAN8KU デジタルに限らず、何か作品を作ろうと思った時に初心者が高いクオリティに到達するにはかなり時間がかかりますよね。 でもピクセルアートなら、16x16などの限られた解像度の世界であれば初めて触れた人でも数時間あればプロとほぼ同じクオリティの作品を作れるんですよ。 拡大して、一個ずつ点を打っていけば絶対に追いつける。 かけた時間だけ上手くなれるし、作品が良くなる保証があるっていうのはまさにピクセルアートの醍醐味だと思います。
坂口 同じく2019年のトークイベントの中で、アートが特定の人にしかアクセスできない排他的なものになってきているという話題がありました。 そんな中、あるアーティストは「誰もが描けるピクセルアートはまさにアートを”民主化”できる存在」だと話していたことを思い出します。 こういう回を重ねるごとに、僕はピクセルアートが持つ大きな可能性に本当に魅了されていきました。

2021年3月 国民的アーティスト”ゆず”とのコラボレーション

坂口 2019年の秋に“ゆず”のプロデューサーの方から直接電話があって、35万人を動員するアリーナのツアー「YUZUTOWN」を一緒にやれないかって言われたんです。 「TOWN(街)」と聞いて、すぐにBAN8KUさんが頭の中に浮かびました。それで、マネージャーの方にシブヤピクセルアートに来てもらい、その後、すぐにBAN8KUさんをトイズファクトリーまで連れていって、ゆずと作品をつくるようになりましたよね。
BAN8KU 懐かしいですね〜。
坂口 新型コロナウィルスが蔓延して、アリーナツアーは中止になってしまったのですが、翌年オンラインライブは実施されて。そんな中、BAN8KUさんの描く世界が、ゆずと融合してとても素晴らしい世界を描かれました。 しかも、そこにも、BAN8KUさんの『こねこ』もいたじゃないですか(笑)
BAN8KU 『こねこ』はいます(笑)
坂口 依頼主の意図を汲みながらも自分のスタイルや世界観をうまく融合させるのはBAN8KUさんの作品をアートたらしめている強さかなと思います。

BAN8KU スペシャルインタビュー Part3 BAN8KUと振り返る、シブヤピクセルアートの歴史

2022年 BAN8KU10周年に向けて

坂口 2023年はBAN8KUとして活動を始めてから10周年になりますよね。 この節目の年をどのように思っていますか?
BAN8KU 目の前の作品を誠心誠意作ってきたのであまり意識してなかったかもしれませんね。 言われてみればやはり節目の年なので、今までの作品を振り返って何か一つ記念する作品を作れたらいいなとも思います。
坂口 BAN8KUさんの活動を振り返ってみると、1つ1つの作品が続いているし、ある種、生き物のように、その瞬間を切り取って作品にしているような印象があります。 だから10周年だからといって何かが完成するわけではなく、あくまでその瞬間を切り取るような作品になるような気がします。
BAN8KU 実は今までのクライアントワークでは街などの制作が多くて、キャラクターにフォーカスする機会はなかったので、10周年の節目として僕のキャラクターたちを見せる機会があれば嬉しいです。 今まで作品を見てきてくれた方にもキャラクターの進化を見てもらうことで楽しんでいただけると思います。

BAN8KU スペシャルインタビュー Part3 BAN8KUと振り返る、シブヤピクセルアートの歴史

BAN8KU氏の世界観の中心にはいつもキャラクターがいる。


  • BAN8KU
  • 坂口元邦
  • Interviewer: 坂口元邦 シブヤピクセルアート実行委員会 代表 SHIBUYA PIXEL ART実行委員会 発起人/The PIXEL 代表 18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げ、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークとしながら、「現代の浮世絵」としての「ピクセルアート」の保管、研究、発展を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想する。