the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #奥田栄希 2022.10.15

現代アーティスト奥田栄希 特別インタビュー ファミコンで描く、新しいノスタルジー(前編) 

Interviewer: 吉野東人 

adidas Originals Flagship Store Harajukuとのコラボレーションで話題を集めている、現代アーティスト/ピクセルアーティストの奥田栄希氏の単独インタビューを前編と後編に渡り公開。 今回は奥田氏のファミコン作品、計188点にも及ぶシューズのドット絵、宇宙からシューズが降ってくる3Dvoxel映像などのコラボレーション作品が展示されているadidas OFS原宿にて撮影、後日インタビューを行った。 (文=吉野東人|Haruto Yoshino)

ファミコン作品『CITY JUMPER』について

吉野 今回はどうぞよろしくお願いいたします。 奥田さんとはおなじ85年生まれということで、共通した部分もあるかと思います。
奥田 どうぞよろしくお願いいたします。 そうですね、通ってきた文化は近いものがありそうです。
吉野 まずはadidasとのコラボレーションのお話に関してお聞かせください。ぼくはいわゆるファミコン、スーファミ世代なので、奥田さんの作品はまさに自分にとっても惹かれるものがあります。 今回『CITY JUMPER』をadidasで発表した際に、こだわったポイントはどこになりますか?

現代アーティスト奥田栄希 特別インタビュー ファミコンで描く、新しいノスタルジー(前編) 

現代アーティスト奥田栄希 特別インタビュー ファミコンで描く、新しいノスタルジー(前編) 

奥田 adidasを使ったゲームを作れる機会ってなかなかないですよね。なので、adidasにマッチした部分を意識するというのが、こだわった部分です。靴を使って、だとか。
吉野 靴を取ると、ジャンプ力が上がったりするんですか?
奥田 そうですね。二種類あって、白い靴がジャンプ力アップ、黒い靴がスピードがアップするというものです。
吉野 『CITY JUMPER』のゲームのBGMも奥田さんが制作されたんですか?
奥田 そうですね。
吉野 あのチップチューンはどういった機材を使用されたのでしょうか。
奥田 FamiTracker(※1)というソフトを使っています。 実はファミコンを作るツールって結構あって。いろんなものを使うんですが、当時なかったもので、現代で作りやすくなっているものもありますね。
※1)ファミリーコンピュータ風の音色で音楽を制作するソフト。
吉野 音楽も自分の映像に合わせて作る、ということですね。
奥田 プログラム以外は、全部ぼくがやっていると思っていただいて大丈夫です。
吉野 ファイルの種類も複雑で大変そうです。パッと見る限りNSFファイルがあったりですとか。いまのmp3やmp4やGIFじゃなくて、ファミコンの拡張子でやっている、ということですよね。
奥田 そうです。ただ、その拡張子もmp3などに書き出しできるので、意外と現代的なものにマッチしているソフトウェア、ツールもあります。 グラフィックツールなどは当時のままのものを使用しているので、ウインドウがフルスクリーンにならないのですごく小さい画面を見ないといけないとか、そういう不便さはありますね。

ファミコン作品の制作における苦労

吉野 ファミコンの作品を作る上でたくさんの工程があると思いますが、その中でいちばん苦労する部分をお聞かせください。
奥田 どれも時間がかかるのですが、古いパソコンを使ってはんだ付けするので、ROMチップに焼き込む作業は緊張感が伴います。 (基盤を見せながら)これがデータファイルなのですが、最初ROMのない状態からはじめる際、はんだ付けする工程でけっこう失敗するんですね。

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吉野 はんだ付けが失敗したかどうかは遊んでみないとわからない?
奥田 そうなんですよ。 だいたいROMの値段がひとつにつき、1000円ぐらいするんですが、失敗するともう2度と使えないんです。今回も何度も失敗しています。
吉野 成功率のほうが低いんですか?
奥田 ほぼ1/2です(笑)
吉野 もうひとりの共同制作をされている方(プログラマー)とやりとりするなかで、ご自身の作品制作における要求に対して「無理だ」といわれて諦めたことはありますか?
奥田 それは日常ですね。 まず山盛りで話を持っていって、そこから将棋崩しのように残っていったものだけでやっていくんですよ。できないことを削ぎ落とした結果、ゲームが出来上がるという。
吉野 映像やグラフィックだと発注する側も「ここは難しいだろうな」ということがなんとなくわかりますが、ゲームだと「このジャンプの実装がどれだけ難しいか」など、挙動の難しさは見積もりにくいですよね。
奥田 そうなんですよ。今回の『CITY JUMPER』も作ってみたら、ファミコンの画面のいちばん上端までいくと、下の座標、落とし穴の部分に繋がっているんです。 なので、CITY JUMPERのジャンプ力を上げすぎると、下の座標に触れた判定になり、ゲームオーバーになっちゃうんです(笑) だから、絶対届かないようにしなきゃいけないとか、変な制約がすごいいっぱいあります。
吉野 すごく大変なんですね。
奥田 でも、そこが面白いというか。ある意味、挙動が素直なので。

3Dvoxel映像作品について

吉野 adidas OFS原宿の壁面に展示されている、宇宙からシューズが降ってくるという3Dvoxel映像がありますが、3Dvoxel(※2)についてお聞かせ願えますか。
※2)ボクセルと呼ばれるキューブ状の粒を組み立てて作成する3Dのピクセルモデル。

奥田 もともとvoxelはやっていなくて、WILYWNKAのMVの制作依頼がきたときにはじめてやったので、映像作品として作ったのは、ここ最近ですね。
吉野 やってみたうえで、3Dやvoxelといったものには手応えを感じていますか?
奥田 作る側としては新鮮な気持ちでできるので、すごく面白いですね。 作っていて、ファミコンの裏側を見ているような面白さがあって。 宇宙のステージを作るにしても、テレビでいうところのセットを作るのに近いというか。 カメラの画角に入ってくる部分だけを、きちんと仕上がっているように見える作りをするので、舞台裏を構築しているような面白さがありました。

圧巻の188点のドット絵シューズ

吉野 今回、adidas OFS原宿の店内で期間限定で壁に展示されている、188点に及ぶシューズのドット絵を作ったときの苦労やこだわったポイントについてお伺いできますか。

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奥田 これもファミコンの性能に準拠するんですが、8ビットなので8の倍数で作られています。 16ビットだと粗すぎて64ビットだと細かすぎるので、32ビットぐらいがちょうどいいかなということで、32x32ピクセルのなかに収めるように作りました。 ただ、色に関してはファミコンでは出ないような色も、すこし使っているかもしれませんね。
吉野 いちばん苦労したドット絵のシューズはなんですか?
奥田 熊のモチーフには苦労しましたね。横を向いている熊だったので。横を向かれたら熊と認識できないので、正面を向かせようとか、試行錯誤していました。
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吉野 シューズ188点の制作には物量以外の大変さはありましたか?
奥田 ドット絵をやっていてみなさん感じることなんでしょうけれど、1個位置を変えるとシルエットが崩れたり、印象が変わってしまうので、そこの調整は綿密に行っていたと思います。 1個並べて、その横にもう1個並べて、といった絵としてのやりとりには苦労しました。
吉野 衝撃的というか、さすがだなと思ったのは、あのドット絵を見てadidasの方たちが「これ〇〇だよね」とちゃんとモデル名を識別しているところでした。まさにドット絵の底力を感じました。
奥田 自分にとってもそこは本当に嬉しかったですね。

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展示のご案内

2022年9月15日(土)、9月16日(日)の2日間にわたり、原宿八角館にてmade Originals Tokyo by atmos開催されます。 音楽やアート、スポーツをもストリートファッションに昇華させたアディダス オリジナルスの歴史と未来をお楽しみください。​ 奥田栄希さんのドット絵シューズインスタレーションとファミコンゲームも展示されます。

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  • 奥田栄希
  • 吉野東人
  • Interviewer: 吉野東人 音楽家/ライター 東京都出身。エレクトリックギターによる多重演奏を主体としたオーケストレーション制作をライフワークとする傍ら、フラメンコ舞踊、アートワーク、文藝誌への寄稿を行うなど、活動は多岐に渡る。 photography by norihisa kimura(photographer)