the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #mae 2022.09.02

今、大きな注目を集めている気鋭のピクセルアーティスト mae特別インタビュー第1回

Interviewer: 吉野東人 

ゆず新曲「ALWAYS」でドット絵によるMVを手掛けた、ピクセルアーティストmae氏。 今回MVの制作にあたりモチーフにしたという、mae氏の地元でもある多摩川の河川敷にてインタビューを行った。

ゆず「ALWAYS」MV制作を引き受けた経緯

吉野 (maeさんに頂いた名刺を見ながら)立体加工が凝っていて素敵な名刺ですね。 早速ですが、ゆずさんの「ALWAYS」のMVの制作を引き受けた経緯についてお聞かせください。


【ゆず 『ALWAYS』 MV】

mae 経緯を直接見ていない部分から始まっているのですが、SHIBUYA PIXEL ART 2020の作品を見ていただく機会があったそうで、そのときに「いいね」と感覚的に気に入ってくださって、そこで次のMVをお願いしようと決まったようです。そのお話を聞いて、ぜひぼくもやらせてくださいという形になりました。 その頃の自分は今よりもさらに駆け出しの状態でしたので、知名度のあるなしに関わらず、作品として見てもらえたことは嬉しかったですね。
吉野 そのうえで依頼を受け、そこで「ALWAYS」を初めて聴いたという形なんですね。
mae はい。そこから(ゆずの)北川さんがデモを作り始めて、後日音源が送られてきました。そのときはまだテンポというものが決まっておらず、アップテンポになるかも知れないという話もあったので、自分でDTM(※1)上でBPM(※2)をいじったりしていろいろ想定、予測しながら並行して作業を進めていました。
※1)デスクトップミュージックの略称。パソコンを利用して音楽制作をおこなう手法を指す。
※2)楽曲のテンポの単位、速さ。
吉野 テンポが違えば場面転換から構成まで変わってきますよね。 完パケの音源とはやはり状態が違ったということなのでしょうか?
mae そうですね。ピアノと声の弾き語りでいただいていたので。
吉野 超お宝音源ですね(笑)

楽曲のどのような側面を表現しようと思ったのか

吉野 楽曲を聴いたときにその世界観をどう表現していこうと思いましたか?
mae 強烈に色彩を感じて、暖かい色に包まれるような感覚がありました。
吉野 ある種相対的な共感覚のような。
mae 何色というのは難しいのですけれど、その感覚のなかで発想を探したので楽曲に出会わなかったら出てこなかったアイデアがたくさんあるなと思います。
吉野 なぜ河原、とくに高架下を舞台に選ばれたのでしょうか?
mae 音源を聴いて、映像を思い浮かべたときにすぐに河原の風景が思い浮かびました。実際に多摩川周辺に来て、駅の周辺や線路沿いを歩いたり、橋を渡ってみたりして写真を撮りながらロケハンを行いました。 夕暮れが河原を染める様子や、線路の下に落ちる影が、音源から受けた「色」の印象とぴったりと重なり、このモチーフを作品にしたいと思ったんですね。 この河川敷は自分にとっても、気分転換に散歩しに来るような馴染みの場所でもあります。

今、大きな注目を集めている気鋭のピクセルアーティスト mae特別インタビュー第1回

今、大きな注目を集めている気鋭のピクセルアーティスト mae特別インタビュー第1回

吉野 皮膚感覚と楽曲のイメージが合致する場所、瞬間だったのですね。 MVを作っていくなかで苦労した部分や、時間がかかった部分に関してお聞かせください。
mae 時間がかかったのはラフの段階で物語、絵コンテを作っていく箇所でした。 登場人物や物語の展開で何ヶ月も費やしました。
吉野 今回制作されたMVのなかで、「影」というものが非常に象徴的に使われていますね。主人公のそばにいるモラモラという「影」の形をとった精霊ですが、文学作品においても重要なモチーフとして描かれています。 有名なところではシャミッソーの「影をなくした男」、ル=グウィンの「ゲド戦記 影との戦い」などがあります。とくによく知られているものとしてはピーターパンですが、作中でピーターパンが自分の影を捕まえようとするシーンがありますよね。 そうした文学的文脈や類型から解釈すると、「影」とは人が生きていくうえで必要であり、また引き受けざるを得ないものだと見てとれます。 そうした視点からもこのMVは示唆的で面白いと思いました。
mae 精通している箇所が興味深く、ぼくがインタビューしたくなっちゃうぐらいですね(笑) そうですね。感覚的に選んでいったりするので言語化するのはあとからという部分が多いのですが、コロナ禍ということで「人と人とが思い合っているけれど会えない」という状況だったり、なかにはもっと辛く、大切な人が亡くなってしまったりという非常に哀しい思いをされている現状において、「会えない」という言葉ひとつとっても重さというのは人それぞれだと思うんですね。 「思い合っている」というのは言い換えれば、「離れていても見守ってくれている」という感覚がぼくのなかにあって。 「どこから見守ってくれているんだろう」という視点に立ったときに、「自分の影のなかに実はいるけれど、自分では気づいていない」という、ある種霊的な感覚とリンクする形で作っていったかと思います。
吉野 構想のなかで見守ってくれているモラモラが登場するという案は初期からあったのでしょうか?
mae 登場する案もありましたし、逆に登場しない案もありました。 主人公が男の子なので、モラモラじゃなくて女の子をモチーフにしていた構想もあるんですね。 一回それでいこうと思って全体を作り見ていただいたときにモラモラのほうがしっくりくるというお話をいただいたので、そこでもう一回考え直しました。
吉野 モラモラのほうがより抽象的で、受け取る側が多様な意味を見出せるような気がしますね。
mae 今思えばそうかも知れませんね。

印象に残った歌詞、アーティスト“ゆず”への思い入れと思い出

吉野 「ALWAYS」の歌詞のなかで印象に残ったものがあればお聞かせください。
mae 「今更戻りたい場所はない」という箇所があって、いろんな意味に捉えられるなと。前向きにも捉えられるし、そうは言っても気持ち的にはそっちを向きたがってしまっている。そうした心の葛藤というものがその一言で表されているように感じました。戻りたいとしても戻れないから、無理矢理でも受け入れて前へと進もうとしている自分がいるというのは、今の社会の状況とすごく合うのかなと。
吉野 ゆずさんへの思い入れや思い出があればお聞かせください。
mae いちばん大きなエピソードは小学校の教師として働いていたときに卒業式のメインで歌う楽曲がゆずさんの「友〜旅立ちの時〜」でした。 子どもたちや先生たちも楽曲をとても気に入っていて、また合唱で歌うとすごく良かったんですね。ぼくが教師を辞めるときに6年生の子たちを担当していて、ちょうどコロナ禍に入るかどうかのときだったので、歌うと感染するという話があり、練習している最中だったのですが歌をカットするかどうか、という葛藤がありました。結局卒業式ではなく、その前の「6年生を送る会」で歌を披露しました。 なかには歌いながら涙ぐむ児童もいましたね。 みんな想いを込めて、ゆずさんの楽曲を中心に頑張ったということが記憶に残っています。 なので実際に今回やらせていただくことになったときに、他の誰かにとってそういった大切な作品になればいいなと思い、MVを制作しました。 担任を務めたクラスの子たちにも、いつか聴いてほしいですね。

今、大きな注目を集めている気鋭のピクセルアーティスト mae特別インタビュー第1回


  • 吉野東人
  • Interviewer: 吉野東人 音楽家/ライター 東京都出身。エレクトリックギターによる多重演奏を主体としたオーケストレーション制作をライフワークとする傍ら、フラメンコ舞踊、アートワーク、文藝誌への寄稿を行うなど、活動は多岐に渡る。 photography by norihisa kimura(photographer)