ARTICLES
ARTIST
2024.12.07
8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part1 80年代のサブカルチャーを体感できるバー「8bitcafe」とは?
Interviewer: 坂本遼󠄁佑
今、日本のみならず海外のゲームファンからも注目を集め、新宿三丁目の“隠しステージ”と呼ばれるバー「8bitcafe」。2005年のオープン以来、多くのアーティストたちから愛され続け、コロナ禍もファンの支援で乗り越えてきた、マスターのナヲ氏に特別インタビュー! 80年代のサブカルチャーをコンセプトに、レトロゲームの魅力を発信する8bitcafeの文化的価値とは——(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)
80年代のサブカルを体感できる隠れ家バー
坂本 | 今回は、東京の新宿三丁目にあるバー「8bitcafe」で、マスターのナヲさんにインタビューをさせていただいています。本日は、よろしくお願いします。 |
---|---|
ナヲ | よろしくお願いします。 |
坂本 | 早速ですが、この「8bitcafe」はどんなお店なんですか? |
ナヲ | 80年代のサブカルチャーをコンセプトにしているカフェバーです。ファミコンなどの家庭用ゲームをはじめ、漫画やアニメのグッズを店内に並べていて。チップチューンなどの楽曲を流すDJブースも設置しています。DJイベントや、オフ会等でご利用していただく事も多いです。 |
坂本 | 店内のいたるところに80年代を彷彿とさせるアイテムが置かれていますが、これはお店がオープンした頃からあったものなんですか? |
ナヲ | お店をオープンした頃にもあったんですが、数はもっと少なかったですね。でも、ちょっとずつ増えはじめてから、「こういうのあったよね」とか「俺もこれ持ってた!」と、お客さんとの話が盛り上がるようになって。 |
ぼくだけでなく、お客さん同士のコミュニケーションの道具にもなるので、みんなの話が盛り上がりそうなものをどんどん店内に並べるようになりました。 | |
坂本 | アイテムはすべてナヲさんがご自身で収集されたものなんですか? |
ナヲ | 半分くらいはぼくの私物ですが、あとの半分はお客さんに寄贈していただいたものが多いです。お家に置いておくよりお店のお客さんに触ってもらった方が、物自体が活きるということで快く譲ってくださいました。 |
坂本 | 「放課後のたまり場」というお店のコンセプトに合っている気がします。 |
ナヲ | ぼくが高校生だった頃、実家が友達の“たまり場”になっていたんです。家が駅の近くだったこともあり、みんな朝にバイクを停めに来ては、缶コーヒーを飲みながら雑談をしてから学校に行って、学校から帰ってからもずっと夜遅くまで、入れ替わり立ち替わり誰かしらがいて(笑) |
そういう仲良い友達が自然と集まる場所って、大人になるといつの間にかなくなってしまう。暇な時に行けば誰かしら友達がいる、そんなワクワク感を持てる場所が原点として自分の中にあって、なんとなくみんなが集まって、自分の好きなものについて語れるバーにしたいなと思いました。 | |
坂本 | いつでも自分の居場所があるお店って、忙しい大人にこそ必要な気がします。 |
ナヲ | だから、あえて内装を“おしゃれカフェ”と“オタク部屋”の中間みたいな感じにしていて。どんなタイプのお客さんにも、「敷居が高いな」って思うのではなく、居心地の良さを感じてもらえればと考えています。 |
坂本 | 自分はお店に入った瞬間、内装を見て「カッコいい!!」と思いました。 |
ナヲ | おお! それは嬉しいですね! ある程度おしゃれ感を残しつつ、よくよく見てみるとナードな感じのバランスが難しいんです(笑) |
世界中のゲームファンが訪れるTOKYOの“新聖地”
坂本 | 最近では、海外からの観光客も増えているんですよね? |
---|---|
ナヲ | さまざまな国や地域の方にご来店いただいています。でも、やっぱりアメリカやユーロッパからの観光客が多いかな。 |
あと最近、理由はよくわからないのですが、コロナ禍が収束したくらいから、スウェーデン人のお客さんが増えています。 | |
坂本 | なぜスウェーデンなんでしょうかね。 |
ナヲ | なぜですかね。20代くらいの若い人たちが、旅行の目的地のひとつとして、わざわざ調べて来てくれているようです。 |
坂本 | 日本人のお客さんも多いんですよね? |
ナヲ | 基本的に日本人と外国人のお客さんが半々くらいです。エレベーターのない雑居ビルの5階なので、フラッと入れる路面店とは違って、日本人でもわざわざ「8bitcafeに行きたい!」と、ネットで調べて来てくれる方がほとんどですね。 |
そんな、アンテナの感度が高いサブカル好きなお客さんが、夜な夜な遊びに来てくれています。 |
坂本 | 日本人のお客さんの年齢層はどのくらいなんですか? |
---|---|
ナヲ | 20代から60代まで幅広い層の方にご来店いただいていますが、80年代に子供時代を過ごした30~40代のお客さんが一番多いですかね。あとは、昨今のピクセルアートや、シティーポップなどの再評価の影響もあるかもですが、80年代カルチャーに興味を持った若い方もたくさんいらっしゃいます。 |
実は女性のお客さんにもよく来ていただいていて、女子会などもありますし、ひとりでふらっと遊びに来る方もいます。 | |
坂本 | では、いい出会いの場にもなりそうですね(笑) |
ナヲ | このお店で出会って付き合ったカップルや、なかには結婚された夫婦もいました。 |
坂本 | お互いに同じ趣味を持ったもの同士だということがわかっているので、初対面の人でも話しやすい環境になっているのでしょう。 |
ナヲ | 他にも、さまざまなジャンルのアーティストたちが、お酒を飲みながらいろいろな話をしているうちに、新しい作品やコラボレーションのきっかけになることがあって。みなさんいい相乗効果を生み出してくれています。 |
坂本 | ひとりで飲みに行っても、お店の方や他のお客さんと雑談ができる。さまざまな人が集まるコミュニティが、8bitcafeにはあるということですね。 |
ナヲ | こういう場って、家で一人で飲むのとは全く違った経験や楽しみを得られる場だと思うんです。なので、もし家でひとりで飲んでいて寂しい時は、いつでも8bitcafeに来てください!(笑) |
ファミコンが文化的価値のある芸術品になる時代
坂本 | 80年代のファミコンやアーケードゲームで遊べるお店ということですが、「8bitcafe」という店名にした理由はなんだったんですか? |
---|---|
ナヲ | ぼくは寝る時にメモを取る癖があって、寝る前に思い付いたアイデアをメモしているんです。その頃は、ちょうど「お店の名前なににしよう…?」と考えている時期で、翌朝起きたらメモ帳に「8bitcafe」って書いてあって。「おお!これだ!」と即決しました。 |
声に出した時の言葉の響きがすごくよかったし、字で書いた時にもカッコよかった。また、“8bit”で作られたファミコンは、ぼくたち世代が遊んでいたものの象徴。80年代のサブカルを代表する言葉のひとつだと思ったんです。 | |
坂本 | ナヲさんもファミコンで遊んでいた世代ですもんね。特によく遊んでいたゲームソフトなどはありますか? |
ナヲ | やっぱり『ドラゴンクエスト』シリーズですね。他にも、『スーパーマリオブラザーズ』『プロ野球ファミリースタジアム』『スペランカー』『スターフォース』『グラディウス』『メトロイド』『ゼルダの伝説』などでよく遊んでいました。 |
坂本 | そんな8bitのゲームで遊べるカフェバーをオープンしようと思ったきっかけはなんだったんですか? |
---|---|
ナヲ | 2003年に恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館で、「ファミコン生誕20周年 レベルX」という企画展が開催されていて。ファミコンなどのゲーム機が並べられた展示会場に強い衝撃を受けたんです。 |
坂本 | 作品としてファミコンが展示されていたんですか? |
ナヲ | 自分たちが遊んできた“おもちゃ”が、ガラスのショーケースの中に、アート作品として美術館に展示されていて。ゲームが文化的な価値を持つようになったんだと実感しました。その時の衝撃が「80年代のゲーム×BAR」というコンセプトで、バーをオープンするきっかけのひとつにもなっています。 |
坂本 | 当時は、他にもゲームをコンセプトにしたバーがあったんですか? |
ナヲ | インターネットなどで調べたんですが、自分で調べた限りは特に80年代のゲームをコンセプトにしたお店が見つからなくて。もしかして、今なら自分が第一人者になれる!?とも考えました(笑) |
坂本 | まさに時代の先駆者ですね。 |
ナヲ | もともと、音楽、お酒、サブカルが好きだったので、ゲームやアニメ、漫画をコンセプトにバーとやるというのは面白いかもと思っていたんです。 |
また、ファミコンの展示会で感じた“アート”としてのゲームの可能性。そして、たくさんの友人たちからの「応援するよ!」という言葉。そのふたつが背中を押してくれて、8bitcafeをオープンすることができました。 |
店舗情報
8bitcafe
住所 東京都新宿区新宿3-8-9 新宿Qビル 5F
時間 19:00~24:00
定休 火曜日
TEL 03-3358-0407
https://8bitcafe.tokyo
- Interviewer: 坂本遼󠄁佑 the PIXEL magazine 編集長。東京都練馬区出身。大学ではアメリカの宗教哲学を専攻。卒業後は、出版社・幻冬舎に入社し、男性向け雑誌『GOETHE』の編集や、書籍の編集やプロモーションに携わる。2023年にフリーランスとして独立し、現在はエディター兼ライターとして活動している。