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ARTICLES ARTIST 2024.12.07

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間

Interviewer: 坂本遼󠄁佑 

今、日本のみならず海外のゲームファンからも注目を集め、新宿三丁目の“隠しステージ”と呼ばれるバー「8bitcafe」。2005年のオープン以来、多くのアーティストたちから愛され続け、コロナ禍もファンの支援で乗り越えてきた、マスターのナヲ氏に特別インタビュー! 80年代のサブカルチャーをコンセプトに、レトロゲームの魅力を発信する8bitcafeの文化的価値とは——(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

新宿アルタの店長から8bitcafeのマスターへ

坂本 今では8bitcafeのマスターとして知られているナヲさんですが、お店をオープンされる前はなにをされていたんですか?
ナヲ 地元の宇都宮でバーテンダーやアパレル店員などの仕事をしていました。その後、26歳から東京に住み始めたのですが、その時は「新宿アルタ」のショップ店員として働いていました。
坂本 新宿アルタで働いていたんですね!
ナヲ 最初は、アルバイトとして入ったのですが、少ししたら店長に大抜擢されて(笑)アパレルのお店で1年くらい店長をしていました。
坂本 そこからバーの経営に乗り出したんですか?
ナヲ もともと4歳上の兄が、24歳の時に宇都宮で「Music Bar LYNCH」というバーをやり始めて。それまで、ぼくはオーセンティックバーで働いていた経験があったので、たまに兄の店でバーテンダーの手伝いをしていたんです。
前衛音楽とか実験音楽とかを店内で流している、アバンギャルドな雰囲気がカッコよくて。なので、バーの経営にはなんとなく親しみがありました。

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間

また、当時、付き合っていたパートナーが、店舗デザインをやっていたのもあり、30歳までに自分たちもカフェやバーをオープンしたいね! とよく話していて。でも、場所の選定などに時間がかかってしまい、実際には32歳になっていたのですが、どうにかお店をオープンすることができました!
坂本 新しいお店にお客さんを呼び込むのは大変じゃなかったですか?
ナヲ その頃、趣味で渋谷系の代表「フリッパーズ・ギター」という日本のバンドの、ファンコミュニティの管理人をmixiでやっていたんです。2003年くらいに、メンバーが100人を突破してからは、うなぎ登りにメンバーが増えていき、ライブ会場を借りて300人規模のオフ会なども開催していて。
みんなで夜通し音楽を流して楽しんでいました。時には、東京と大阪の2拠点でイベントを同時開催して、生中継で互いの会場の様子を中継したり。当時としては画期的な、大きなコミュニティになっていたんです。
坂本 そのメンバーの方々がお客さんになってくれたんですね。
ナヲ そうなんです。そのコミュニティに「オーガナイザーのナヲが、新しくバーを新宿三丁目にオープンします!」って声をかけて。8bitcafeのコミュニティを作ってからは、オープンまでの進捗情報をどんどんアップし、みなさんと共有するようにしました。
そうしたら、お店の改装工事を手伝ってくれる方も、たくさん来てくださるようになって。「今日、お店の改装を手伝ってくれた仲間!」というような感じで、写真をアップしながらみんなで一緒にお店を作りあげていきました。

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間8bitcafeの3周年イベントで、共同オーナーだったコジョウさんと。

さまざまな人が行き交う街、新宿

坂本 そして、2005年にオープンした8bitcafeですが、新宿三丁目にお店を開いたのには、なにか特別な理由があったんですか?
ナヲ 新宿アルタで働いていたこともあったので、自分の生活圏内が新宿中心になっていたのと、友達とも新宿で遊ぶことが多かったりで、自分にとって最も親しみがある街だったんです。他の街に比べて土地勘もあったし。
それに、都庁や官公庁などの公的な施設がある一方、歌舞伎町やゴールデン街などの歓楽街、新宿二丁目のゲイタウンなど、さまざまなカルチャーが雑多に入り混じっている感じが、どこか自分の性に合っていたんです。
坂本 確かに、新宿にはいろんな人がいますよね。
ナヲ 企業に勤めるサラリーマンがいれば、ホストクラブやキャバクラで働く人々もいる。さまざまな生き方をする人々が行き交う街だからこそ、面白いバーにできるのではないかって思いました。

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間

坂本 それでこの雑居ビルの5階にお店をオープンさせたんですね。
ナヲ このお店をオープンする時、親に「新宿の雑居ビルの5階でバーを始めるよ」と伝えたんですが、「ビルの5階なんて誰も来ないからやめなさい」って猛反対されて。
親も心配しての物言いだろうから、今ある現状とか背景、今後の展望などをひとつひとつ丁寧に説明して、なんとか納得してもらったのを覚えています(笑)
坂本 最初にお店に運んだものってなんだったんですか?
ナヲ 入り口のところにあるショーケースです。8bitcafeオープン前から、バーをやるのを見据えて、ヤフオクで買っておいた物なので、実際に店に置いた時は感無量でした(笑)ガラスが割れないように、細心の注意を払いながら運びましたね。

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間最初に8bitcafeの店内に運び込まれたというショーケース

思い出が詰まった8bitcafeのお宝たち

坂本 今ではもう手に入らないようなアイテムがいっぱいならんでいますが、なかでも特に“お宝アイテム”といえる逸品はありますか?
ナヲ やはり、今では伝説となりつつある「ビッグゲームボーイ」ですかね。かつて任天堂がゲームボーイを発売した時、販促用として全国のゲームショップなどに配った巨大ディスプレイは、ゲームファンの方にはたまらない品です。
チップチューンのアーティストの友人が、ステージのパフォーマンスに使用していたものなんですが、ご厚意で譲っていただけることになり。8bitcafeの象徴として店内に鎮座することになりました。店内の映えスポットになっております!

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間まだ現役で稼働している貴重な実機「ビッグゲームボーイ」

坂本 明るい店内でも圧倒的な存在感ですね。
ナヲ ちゃんと映像を流すこともできるので、今は「PICO PARK」のプレイ筐体として活用しています。全世界で500万本以上のセールスを記録した、超有名な協力ゲーム「PICO PARK」を、世界で最初に試遊できたのは、実は8bitcafeなんですよ!(笑)
坂本 そうだったんですね。他にもなにかお宝アイテムがあるんですか?
ナヲ あとは、8bitcafeでNo.1のインスタ映えスポット! 店内右奥のボックス席に置いてある“王座”も思い出の品です。
坂本 王様と王妃の対になっている椅子ですよね。
ナヲ これは前にSTAFFをしてくれていた子が、結婚の挙式用に作ったもので。新居にも置いていたらしいのですが、どうしても一般家庭だと持て余してしまい、最終的に8bitcafeに寄贈してくれました。
坂本 お店の椅子にも隠されたストーリーがあるんですね。
ナヲ 他にも、昭和の喫茶店によくあった「テーブル筐体」(現在修理中)など、面白いアイテムがたくさん置いてあるので、お店に来た際にはいろいろ探索してみてください!

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間王様と王妃の椅子とゲームテーブル

ゲーム作品を表現したオリジナルカクテル

坂本 多くのゲームファンに愛される8bitcafeの魅力の理由のひとつに、ゲームやアニメにちなんだオリジナルカクテルもありますよね。
ナヲ オープンしたばかりの頃は、普通のメニューしか出していなかったんです。でも、ある時にメディアの取材を受けたら、とある芸人さんが来店してくれることになって。
バーテンダーの経験がある人だったので、取材中にオリジナルカクテルを何杯か作ってくれたんです。その時に作ってもらったカクテルが、ゲーム作品をモチーフにした物だったんです。
坂本 そのカクテルが、8bitcafeのメニューの原点だったんですね。
ナヲ 有名なゲームタイトルを冠したカクテルは、面白いだけでなくお店の雰囲気にも合うと思いました。それから、自分でもゲームやアニメなどをモチーフに、8bitcafeのオリジナルカクテルを作るようになったんです。

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間カウンター内には何十種類ものお酒やリキュールが並ぶ

坂本 元ネタがわかるものもあれば、知らないネタのものも多くあります。
ナヲ やはり80年代くらいの作品のネタが多いので、ぼくと同じ30〜40代の人の方が、わかるネタがたくさんあると思います。
坂本 最初にできたオリジナルカクテルはどれなんですか?
ナヲ 「ドクターマリオ」と「ピーチ姫の誘惑」というカクテルです。新しいメニューは、インスピレーションが湧いた時に、何度も試行錯誤してからお出ししています。時代とともに少しずつ進化させているんです。
坂本 グラスも8bitcafeの特注品なんですね。
ナヲ そうですね。フリッパーズ・ギターのイベントの時から、いろいろ手伝ってくれているデザイナーの4DKさんが、グラスのデザインを考えてくれました。4DKさんは、他にも8bitcafeのホームページや、ブランドデザインなども担当してくれています。
ちなみに、グラスは1個1000円で販売もしているので、お土産に買って行かれる方も多いんですよ。

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間the PIXEL magazine読者にオススメの一杯「ぷよぷよ」

坂本 ゲームのキャラクターなどが描かれているコースターも、8bitcafeのオリジナルアイテムなんですか?
ナヲ はい。8bit風のイラストが描かれたコースターは、8bitcafeの周年イベントでアイロンビーズのワークショップを開いていて。イベントの企画のひとつとして、いろんなお客さんに楽しみながら作ってもらっています。
坂本 コースターの作者は、8bitcafeのお客さんということですね。どれも個性豊かなものばかり!
ナヲ そうなんです! なので、ご来店いただいた時に、周年イベントでご自身が作ったコースターと、テーブルでご対面するかも知れません(笑)

店舗情報

8bitcafe ナヲ 特別インタビュー Part2 さまざまな人が行き交う新宿に広がる“摩訶不思議”な空間

8bitcafe
住所 東京都新宿区新宿3-8-9 新宿Qビル 5F
時間 19:00~24:00
定休 火曜日
TEL 03-3358-0407
https://8bitcafe.tokyo


  • 8bitcafe
  • 坂本遼󠄁佑
  • Interviewer: 坂本遼󠄁佑 the PIXEL magazine 編集長。東京都練馬区出身。大学ではアメリカの宗教哲学を専攻。卒業後は、出版社・幻冬舎に入社し、男性向け雑誌『GOETHE』の編集や、書籍の編集やプロモーションに携わる。2023年にフリーランスとして独立し、現在はエディター兼ライターとして活動している。