the PIXEL MAGAZINE

EXHIBITION ARTIST 2024.07.22

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中

京都のホテル「HOTEL ANTEROOM KYOTO」で、2024年6月23日から9月7日までの期間限定の企画展「art bit - Contemporary Art & Indie Game Culture #4」が開催されている。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

「現代アート×インディーゲーム」という企画展

今年も京都で開催される日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit」。ゲームソフトの開発者だけでなく、ゲーム音楽に携わるミュージシャンなど、幅広いジャンルのクリエイターが集まるBitSummitは、ゲーム好きなら一度はその名を聞いたことがあるだろう人気イベントだ。

一方、そんなBitSummitと同時期に開催されている、もうひとつのインディーゲームイベントをご存知だろうか。それが京都のホテル「HOTEL ANTEROOM KYOTO」で、2021年から毎年開催されている企画展「art bit - Contemporary Art & Indie Game Culture」である。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中エントランスから入ると目の前に広がるart bit展の会場。

2011年に、学生寮として使用されていた建物をコンバージョンし、“ホテル&アパートメント”としてオープンさせたHOTEL ANTEROOM KYOTOは、世界各地から訪れる多くのアートファンたちに、宿泊先として選ばれている今注目の宿泊施設。

「アート」「カルチャー」「和」という3つのコンセプトを現在進行形の視点で捉えた「京都の今」を発信する独自のスタイルで、館内に併設されたギャラリー「GALLERY9.5」には、企画展の作品をはじめ彫刻家・名和晃平の常設作品なども展示されている。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中シーズンごとに企画展の内容が変わるギャラリー「GALLERY9.5」。

また、蜷川実花や木村舜といった著名なアーティストが手がけた、豪華なコンセプトルームも魅力のひとつ。さまざまなアート作品に囲まれる“非日常”で、宿泊者はそれぞれ思い思いの1日を過ごすことができる、まさにアートとカルチャーの発信地といえる空間だ。

平面表現を再考する「2D or not 2D」

今回で4回目の開催を迎えるart bit展。これまでは京都のみの開催となっていたが、2024年は初の東京・渋谷での巡回展示も予定されている。会場となるのは、Shibuya Sakura Stage内にあるイベントスペース「404 NOT FOUND」。7月に開業したばかりの今注目の新施設だ。

そんな今年のart bit展のテーマは「2D or not 2D」。世代を超えたビデオゲームの広がりや、ChatGPTに代表される生成AIの台頭など、変わりつつある時代のなかで、新たな平面(2D)表現の創出に挑むアーティストの作品と、それに呼応するインディーゲームの作品が展示される。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中“黒板消し”をコントローラーとして操作するのへもん/Kenji Okuda氏のゲーム作品『チョークの叛乱』(2023)。

1950〜60年代の抽象表現主義やミニマリズムなどの“美”の概念を問いなおす芸術運動や、1970〜80年代に台頭したニューペインティングやプリミティズムなどの具象回帰。そして、コンピュータグラフィックスの誕生など、伝統的な“絵画”のあり方が変化してきた20世紀の現代アートシーン。

それは21世紀を迎えた今、VRやARによる3D空間の複合化や、生成 AIなどのテクノロジーの台頭によって、人間のリアリティと創造性が揺るがされる段階にまで達している。この激動の時代のなかで、アートの未来や私たちの生はどうなっていくのか。さまざまな現代アートとインディーゲームの作品を通して、これらの問いの答えを探求していく。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中画家のシンコヤマ氏とゲームクリエイターの飯田和敏氏の共同制作作品『THE HOLE 2024』(2024)。

世界的なピクセルアーティストも参加!

様々なアーティストやインディークリエイターの作品が並ぶ今回のart bit展のなかにも、ピクセルアートを中心に活動しているアーティストが複数参加している。

そのひとりが、現代芸術家のたかくらかずき氏。ビデオゲームやVRなどのデジタル表現を使用した作品を多く制作しているたかくら氏は、今回のart bit展のメインビジュアルも担当している。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中ブロックで作られた“壺”から天井に映像を流す作品『百万回生きた壺』(2023)。

また、“壺”をテーマにした立体作品『百万回生きた壺』(2023)や、絵画作品『涅槃の壺』(2023)と『愛染燕子花の壺A・B』(2023)も展示。企画展のレセプションでたかくら氏は、展示作品を制作した背景について以下のように語った。

「昨年、台湾の国立故宮博物館に行った時、“壺”が多く展示されていたんです。中国大陸の山水画などのレイヤー的な空間認識が、焼き物の図案として描かれている。それは大陸から日本に渡り、日本画のルーツのひとつにもなっている気がして。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中壺のモチーフを現代的な絵文字のアイコンを用いて再解釈した『涅槃の壺』と『愛染燕子花の壺A・B』。

一方で、壺の絵柄を見る際には、壺を回転させながら横方向に鑑賞することが多い。これはゲームの『画面スクロール』とも密接に関わっている。表面と裏面を持つ立体の壺に、『超主観空間』的な風景画を独特な構図で描く。はるか昔の“ゲーム画面”のようなものだったのでしょう」

さらにホテルのフロント横には、仏教の世界観を題材にしたシューティングゲーム『摩尼遊戯TOKOYO』(2018)のアーケード筐体も設置されている。

僧侶のキャラクターが木魚に乗り六道巡りの旅へ、さまよえる魂を救済しながら功徳を積み、常世を目指す独自のストーリーは、まさに東洋思想の視点で現代アートを捉えるたかくら氏ならではの作品だ。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中シューティングゲーム『摩尼遊戯TOKOYO』は、実際のゲーム機のように100円を入れればプレイが可能。

現代美術作家の岡田舜氏は、ファミコンの画面上の“バグ”を用いた絵画作品『Y's』(2014)を含め2点の作品を出展。巨大なキャンバスに描かれた作品は、すでにアートコレクターが所蔵しているものだが、今回の企画展のために特別に展示された。

「プロジェクターを繋げたファミコンに、カセットを半分だけ差してバグをつくり、キャンバスに投射した画面を筆でなぞって絵画にしています。大きなキャンバス作品は、長時間におよぶ作業だったので腱鞘炎になってしまい、その後1年くらいは絵が描けない状態でした。

どちらの作品も銀色の下地に色を重ね、最後に黒色を載せています。なので、よく見ると銀色の部分がうっすら出るようになっている。そんな絵画ならではの表現も、見どころのひとつですね」と岡田氏。嬉しそうに制作当時のことを振り返った。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中すべて手作業でテレビゲームの“バグ”を再現した『Y's』(2014)と『R??a?aR??a?a?n??`?R??a?aR??a?a?n??`??e?zR??a?aR??a?a?n??`??e?z?e?zR??a?aR??a?a?n??`??e?zR ??a?aR??a?a?n??`?R??a?aR??a?a?n??`??e?zR??a?aR??a?a?n??`??e?z?e?zR??a?aR??a?a?n??`??e?z』(2018)。

他にも、ピクセルアーティストのZennyan氏の展示では、ゲームのワンシーンのようなドット絵のシリーズ作品が並ぶ。郵便ポストやラジカセなどのイラストと英字のテキスト、ゲームの選択肢を連想させる短い文章には、氏のアートやゲームに対する哲学が表現されているという。

「僕は、ビデオゲームをプレイする時と、ピカソなどの作品を観る時とで、同じような感覚を覚えることがあって。プレイヤーがゲームの中の世界で遊び回るように、アート作品もその世界観に没入している感覚を持つ。

かつての山水画などの東洋の風景画は、情景を表現した詩なども書かれていて、眺めているだけであたかも旅をした気分になる。つまり、脳内に浮かび上がる世界こそが作品であって、絵はその世界に入り込む“装置”に過ぎないんです。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中ホテルの壁に並べられたZennyan氏のシリーズ作品『Still Game』(2023)。

また、ビデオゲームで使われているドット絵って、ゲームソフトのパッケージに描かれている世界観を、技術的な制約のなかで抽象的に表現しているふうにも見える。この作品も、文字のようにドット絵が表しているものを、それぞれの人の頭の中でイメージしてほしいです」

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中静止画でありながらゲームをプレイしているような感覚を抱かせる『Box』(2023)もシリーズ作品のひとつ。

ギャラリー以外にも、朝食レストラン「ANTEROOM MEALS」では、Shinji Murakamiのデジタル作品を鑑賞できる特別展示を開設。ホテルの食事を楽しみながら、約2メートルのLED彫刻『:) :( :P :o :/』(2023)を間近で見られる、今しかできない貴重な体験をぜひ味わいたい。

現代アートとインディーゲームを同時に味わう! HOTEL ANTEROOM KYOTOでart bit展が開催中開放感のある窓際の部屋に設置されている『:) :( :P :o :/』。

そして、今なら5人のピクセルアーティストが手がけた、期間限定のコンセプトルーム「ピクセルアートルーム」に宿泊も可能。ひとりでゆっくりホテルステイを満喫するもよし、家族や友人と京都を旅してから泊まるもよし。

HOTEL ANTEROOM KYOTOでしか味わえない、唯一無二のアート体験を心ゆくまで堪能してみてはいかがだろうか。

開催概要

art bit - Contemporary Art & Indie Game Culture – #4
開催 2024年6月23日(日)〜9月7日(土)
時間 10:00~20:00
会場 ホテル アンテルーム 京都
住所 京都府京都市南区東九条明田町7番
料金 無料
https://www.uds-hotels.com/anteroom/kyoto


  • Zennyan
  • たかくらかずき
  • 岡田舜