the PIXEL MAGAZINE

EVENT ARTIST 2024.08.09

ピクセルアートの学校 第1ステージ ダイジェストレポート

2024年7月29日にShibuya Sakura Stageの「404 Not Found」で開催された第1回「ピクセルアートの学校」。そんな記念すべき“第1ステージ”のアーカイブ動画(約120分)が、the PIXEL magazineのサイト内で視聴可能となった。今回は、そんなアーカイブ動画の公開に合わせて、第1回のイベントで行われた対談の一部をダイジェストで紹介! (文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

開校記念オープニングトーク【村上雅彦 × 坂口元邦】

坂口 今日は、どういうふうにこの「ピクセルアートの学校」を立ち上げることになったのか、簡単にお話をさせていただきたいのですが、まずは村上くんから「404 Not Found」について解説していただこうと思います。
村上 「404 Not Found」は、皆さんパソコンとかよく使われると思うのですけど、ウェブサイトで存在しないアドレスを検索すると、「404」というエラーコードと「Not Found」というテキストが出るんです。
そこから、渋谷のShibuya Sakura Stageの4階ということもあり、まだ世の中に知られていない“Not Found”なクリエイターの卵とか、これからクリエイターを目指す人たちのための場所を作りたいということで、この「404 Not Found」という名前をつけさせていただいています。
渋谷ってもともとカルチャーの発信地であり、アンダーグラウンドなものやカウンターカルチャーから若者の文化が生まれて、世界的にも認められるような場所だった。でも、昨今の都市開発でそういう文化的なものが失われてきたのではないかという危惧があり。
ここの開発を進められている方たちからも、もう一度ここから文化を発信したいとか、クリエイターたちが集まったりする場所にしたいという声があったんです。一方、“作られたもの”では、クリエイターって集まりづらい。そこで、まずは“空き地”を作ろうと思いました。
なにもないところを作って、クリエイターの人たちが自由に発信したり、コラボレーションしたり、展示会などのイベントをしたり。渋谷の駅前という一等地に、なにもない空き地を作って、クリエイターの人たちが自由に遊べる場所を作ろうという想いでできた場所です。
なので、こういうふうにトークセッションができるようなスペースや、今回はハイブリッド型でゲームの展示イベントも同会場で行なっていますが、グリッド上に柱をどこにでも立てられるようになっていて。
アートや音楽などのイベントやカンファレンスなど、いろいろなタイプのクリエイターが、自分が思ったような形で試行錯誤しながら、いろんなイベントやワークショップができるような設計になっています。
坂口 ぼくらも、初めてプロジェクターなど使わせていただきましたが、すごく使いやすかったです。“スケール感”っていうか、空間全体に“余白”がある感じもいいと思いました。
村上 “余白”は重要なコンセプトかもしれません。ぼくらがイメージする“遊び場”って、都会の真ん中にポツンとある“空き地”みたいな場所で。
当然、所有者がいらっしゃるんでしょうけど、子供たちが集まってかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたり、野球をしたり、町内のイベントが行われていたりするような、使う人によってどんどん色が変わってくるような場所を目指しています。
坂口 知らない人たちが遊びに来ても、一緒になって自分たちのルールを作って、遊びを考えていく雰囲気がある感じですね。
村上 今回、「ピクセルアートの学校」が開校されることになりましたが、“学校”という企画はここでやりたいことのひとつでした。サイネージのディスプレイが多い空間は、デジタルでなにかをするのに相性がいいと思います。本当に楽しみにしています。

ピクセルアートの学校 第1ステージ ダイジェストレポート

※村上雅彦:一般社団法人渋谷あそびば制作委員会 理事、株式会社 Skeleton Crew Studio 代表取締役・プロデューサー、404 Not Found ゲーム担当。
※坂口元邦:シブヤピクセルアート実行委員会 実行委員長、株式会社thePIXEL 代表。

■開校記念オープニングトーク(全体)の動画はこちら

ゲストトーク【BAN8KU × 服部グラフィクス × 村上雅彦 × 坂口元邦】

坂口 ゲーム業界のなかでも、スマホゲームに“ピクセルリマスター版”があったり、広告でもピクセルアートが取り上げられることが増えてきていて。長年、お2人はピクセルアートに関わられてきて、どうしてピクセルアートがここまで熱くなってきているのだと思いますか?
服部グラフィクス 例えば、3Dのゲームをひとつ作るにあたって、そのゲームを構成する1ピクセルの色を決定する要因って、すごい多岐にわたるじゃないですか。
3Dだったら光源があって、反射率があって、地の色があって、いろんな情報がピクセルに与えられて、ひとつのピクセルの色が決定されますよね。なので、画面上に現れる情報を形成しているものって簡単ではない。いろんな複雑な事情でそうなっている集大成だったりします。
でも、ピクセルアートは“画素”という単位によって、自分でコントロールすることができる。“この人がどういう意図でこの絵を描いたのか”が受け手に伝わりやすい。また、手数が少ないということもあって描きやすい。
周りに情報が多ければ多いほど、簡単な“糸電話”みたいなものでコミュニケーションを取れることが貴重になる。その辺が珍重されているのだと思います。
BAN8KU ぼくがピクセルアートを始めた時は、最初からボリュームのあるものを作っていたわけではなく。例えば、16×16とか32×32とかの小さいものから作って、そのなかで“美しい形”を追い求めるじゃないですけど、どんどん世界観を広げていきました。
やっぱりピクセルアートって、始めやすいんですよね。昔は手書きで絵を描いていたんですけど、なかなか人に見せられるようなものにならなくて。でも、32×32の世界の中であれば最初は下手でも、2時間も3時間もかければそこそこなものはできる。それが達成感になるんです。
そうやって、どんどん成功体験が積み重なることで、自分のなかで“自分の今後”を期待してくというか。これを続けていけば、もっとすごいことができるんじゃないか。これを100個作ったら、それを100個組み合わせたら、なにかすごい作品が生まれるんじゃないのかって。
勝手にどんどん自分の中で盛り上がっていった。そういうところが、自分のなかの熱狂のひとつになっているような気がするんです。
坂口 達成感を得やすいっていう視点は面白いですね。例えば、ワークショップとかを見ていても、小学生の子が濃い色を埋めていくだけでも、自分が創造したキャラクターができるとか、そういう意味でも達成感を得やすい。
2019年に、BAN8KUさんとトークショーやった時、「絵を描くのは上手くないんだよね」みたいな話をされていて。でも、「絵は上手くなくても、ピクセルアートは描ける」と仰っていましたね。
BAN8KU そうすね。まさに今言ったことで。自分の手では描けないすごいイラストが、SNSとかを見るといっぱいある。でも、そんなもん描けない、がんばっても描けない。
でも、32×32の世界だったら、めちゃくちゃ時間かければなんとかできる。他にも、ゲームのモチーフとかを模写することからでもいい。同じドットを打てば100%同じものができるので、そういったところから創作の達成感というか、喜びみたいなのを感じられる気がするんです。

ピクセルアートの学校 第1ステージ ダイジェストレポート

※BAN8KU:ピクセルアーティスト。パノラミックでポップな作品で自主作品のみならず企業やイベントとのプロジェクトも積極的に行っている。
※服部グラフィクス:ローレゾ映像作家。ゲーム制作現場で得たドット絵作画の職能を活かし、低解像度GIFアニメーションの作品を多く制作している。

■開校記念オープニングトーク(前半)のダイジェスト動画はこちら

ゲストトーク【gnck × 施井泰平 × tsumichara】

tsumichara 例えば、3年後とか10年後ってスパンから、500年後とかもっと先を考えた時に、ピクセルアートの未来はどうなっているか、おふた方にどう見えているのかなど、もしあればお願いします。
gnck ファミコンは、技術的制約でドット絵を描いていたけど、今は選べるなかから選んで描いている。これはドット絵が、今後も消えないということの1個の証拠だと思うんです。
技術的にそれしかできないからやっていて、技術的に解決したらもう誰も見向きもしなくなる。もしそうだとしたら制約があった時代は、やりたくないけどしょうがなくやっていたことで終わっていた。
しかし、制約がすべて解き放たれた現在でも、作られ続けているということは、今後も残り続けていくのだろうと感じるわけです。
一方で、解像度の制約があると、できる表現の幅は狭いわけですよね。可能性を掘り尽くしやすい表現媒体でもあって。今後は、ドット絵をベースにはしているけど、隣接するメディアを使いながらどう展開していくかを、みんながやっていくことになるんだろうなと思っています。
施井泰平 ハードウェアの制限がないかぎり、それをやる理由がないんで、本質的に広がることはないのかなと思っています。なんで、NFTはそういう意味では、タイミングがよかったなっていうのがあって。
もしドット絵の時代が、次に来る可能性があるとしたら2個あって。ひとつは、300年後とか宇宙の果てになにかを残そうってなったら、“超省電力”で残り続けるものを残さないといけない。そういうデバイスを作って、それで300年後まで残しますみたいな。
もうひとつが、これからモニターやスマホからインターネットが離れていって、網膜とか視界の中にモニターが出てくるとか。そういう世界になってくると、タイムラインでインターネットを見る必要もないし、ARみたいなものの表現がどんどん増えてくると思うんです。
でも、ARってめちゃくちゃ消費電力が激しいんですよ。だから、現実と見紛うようなことがもうすでにできるんですけど、実は電池が1分で切れますみたいな状態なんです。こうなると、ピクセルのように制限があるものの方が、表現としては適切だったりするんですね。

ピクセルアートの学校 第1ステージ ダイジェストレポート

※gnck:評論家。美術批評。キャラ・画像・インターネット研究。「画像の演算性の美学」を軸に、webイラストから現代美術まで研究する。
※施井泰平:スタートバーン株式会社 CEO、美術家、起業家。東京大学大学院在学中の2014年にスタートバーン株式会社を起業して現在に至る。
※tsumichara:ピクセルアートの学校 ディレクター。

■開校記念オープニングトーク(後半)のダイジェスト動画はこちら
■開校記念オープニングトーク(オリエンテーション)のダイジェスト動画はこちら


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