eBoy 特別インタビュー Part2 アートの可能性を広げるNFTという試み
上空から撮影した街並みの写真のような幻想的なピクセルアート。立ち並ぶ建物や街中を歩く人々など、細部にまで描き込まれたドット絵は、世界を舞台に活躍するピクセルアーティスト・グループ“eBoy”の作品だ。今回、そんなeBoyのメンバーに特別インタビュー! 日本では初公開となるエピソードも満載。
続く第2回では、まだ”NFT"という言葉が今ほど浸透していなかった2021年から、NFTアートの活動を始めていたまさに先駆者といえるeBoyに、初めて制作したNFTのアート作品や、ここ数年で手がけたプロジェクトについて聞いてみた。(文・翻訳=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)
eBoyの初のNFTアートとは
今ではデジタルアートを語るうえで、欠かせない存在となったNFT(※1)。そんなNFTやブロックチェーン技術(※2)に、早い段階から目を付け活動してきたeBoyだが、初めて制作したNFTの作品はなんだったのだろうか。
※1)ノンファンジブルトークン(Non-Fungible Token)の略称。非代替性トークン。ブロックチェーン上で発行・売買される偽造不可の鑑定書・証明書付きのデジタルデータ。
※2)分散型台帳。インターネット上にある端末同士の取り引きデータを、暗号技術を用いた「ブロック」として繋ぎ合わせることで、分散的なデータの処理や記録を可能にするシステム。
「建物のイラストをアニメーションにした『Waiting For The Future Now』という作品です。ポリリズムのようなアニメーションの動きが特徴で、2021年にFoundationのプラットフォーム上に投稿しました。
当時は、Foundationが最高のプラットフォームのひとつだと思っていて。実際に利用してみても使い心地がよかったし、他のアーティストたちも多く使用していた。素敵な作品がたくさん投稿されていたんです」
その後も、1998年から制作している代表作『Pixorama』シリーズの作品の一部をFoundationに投稿するなど、精力的にNFTを使ったクリエイティビティを続けてきたeBoy。
彼らにとってアイソメトリックで描いた街の風景画は、特に思い入れが深いシリーズ作品なのだとか。
「ベルリンや東京などの街並みをテーマにした『Pixorama』シリーズは、私たちが現地を訪れた時に見たものをベースにしています。実際に街中を歩いていて、気に入ったものがあれば作品に取り入れていて。
他にも、Google ImagesやGoogle Map、flickrなどで検索して出たものを取り入れてみたり、テーマとは違う要素をあえて混ぜ込んでみたり。現実のものと空想のものを組み合わせています」
NFTアートの可能性を広げる試み
2021年には、NFTプロジェクト『Nouns DAO』(※3)に参加したことでも話題となったeBoy。しかし、NFTアートの業界における、彼らの活躍はそれだけではない。
※3)『Noun』というNFTを所有するユーザーで構成されたDAO。分散型自律組織によって、毎日1体のNFTが永続的に生み出され、オークションによって売買されている。
2022年にローンチされたweb3プロジェクト『Phi』(※4)では、コアメンバーとしてさまざまな“Object(建物)”のデザインを担当。NFTアートの市場に新たな息吹をもたらした。
※4)ENSを活用したweb3プロジェクト。ウォレットの状態やオンチェーンの活動履歴によって、ゲーム感覚でメタバースに“街”を構築することができる。
「Phiでは、ユーザーのオンチェーン上のアイデンティティをビジュアル化できる。言い換えれば、個人のウォレットをPhiに繋ぐことで、その人のアクティビティを表す“街”を築くことができるんです。
メタバースに独自の街を構築することで、ブロックチェーン上での個人のユーザーが、どんな人なのかが可視化される。そうなると、他のユーザーを交流することが、もっと楽しくなりますよね!」
また、『Phi』のドット絵を描く際に使われているガイドラインも、eBoyが提供したものなのだとか。
「Phiの“Object”には、アイソメトリックのピクセルを作る際のガイドライン“Tilix”が使用されていて。これはPhiができる前から、私たちが長年かけて作りあげてきたものなんです。
アイソメトリックの作品を制作するなかで生まれてきた、さまざまなアイデアをまとめたもので。Phiのプロジェクトを立ち上げる時に、開発者からドット絵を描く基準として、Tilixを使いたいとお願いされました」
また、ここ数年は『Nouns DAO』や『Phi』だけでなく、『Blockbob』というシリーズ作品にも力を入れているという。
「Blockbobは、NFTをベースにしたERC-1155の作品です。これまで描いてきたキャラクターたちをもとにしていて。それぞれのエディションが、ミニマリズムという制限のなかで、何ができるかを模索した、実験的な作品なんです。
そこから派生した作品もあって、ArtBlocks上で生成されるNFTの“Blockbob Rorschach”もそのひとつです。また、NFTとは別に“Blockbob Originals toy”という、手作りの立体模型のシリーズも制作しました」
eBoyにとってNFTとはなにか
最後に、NFTアートのパイオニアであるeBoyにとって、“NFT”とはどのような存在なのか聞いてみた。
「NFTやブロックチェーン技術の誕生は、デジタル領域におけるアートを大きく進化させました。NFTはデジタルアートに新たな価値を与え、コレクターがNFTの作品を収集することで、アーティストを支援しやすくしたんです。
それは私たちにも大きな利益をもたらしていて。eBoyの存在を知らないコレクターが、NFTのマーケット上で知るきっかけになったんです。今では多くのコレクターにNFTの作品を購入していただき、応援していただけるようになりました」
また、今では企業とのビジネスとしてもNFTを活用することも多くなり、アート業界におけるNFTの影響力の大きさを感じている一方で、アートの本質はこれからも変わらないという。
「今あるマーケットの状態についてコメントすることはできませんが、アナログなアートとデジタルなアート、現実のマーケットとデジタルのマーケットの境目は、これから時代とともに解消されていくと思います。
でも、アートはアート。どこに存在していても、その本質は変わりません。ピクセルアートも失われることはないし、これからも魅力的なままであり続けると信じています」
- eBoy