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#奥田栄希
2025.02.28
奥田栄希 DIG SHIBUYA記念インタビュー Part1 渋谷の街中に突如現れた“みんなでやるRPG”
Interviewer: 坂本遼󠄁佑
2025年2月8日から2月11日までの4日間で開催されたアート×テックの祭典「DIG SHIBUYA」。その企画のひとつとして“みんなでやるRPG”をコンセプトに、ゲーム作品『パソコンクエスト』のイベントを開催したピクセルクリエイターの奥田栄希氏に特別インタビュー! YouTubeのライブ配信を通して複数のユーザーが同時にプレイできる、新感覚ゲーム誕生までの舞台裏を深掘りした。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)
マウスカーソルになった主人公の冒険物語
坂本 | 今回は、東京の渋谷で開催されているDIG SHIBUYAで、ピクセルクリエイターの奥田栄希さんにインタビューをさせていただいています。本日は、よろしくお願いします。 |
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奥田栄希 | よろしくお願いします。 |
坂本 | 今年のDIG SHIBUYAでは、奥田さんが制作のゲーム作品『パソコンクエスト』(2025)が、タワーレコード渋谷店の巨大ビジョンに表示されるとのことですが、このイベントに参加されたきっかけはなんだったんですか? |
奥田栄希 | 昨年の6月に、シブヤピクセルアートの代表であるプロデューサーの坂口元邦さんから、「大画面でプレイするゲームを制作しませんか」とお声がけいただき、シブヤピクセルアートと共同でゲームソフトを開発することになりました。 |
DIG SHIBUYAの企画のひとつとして制作されたゲーム作品『パソコンクエスト』
坂本 | 普段は企業の広告などが流れる巨大ビジョンで、RPGのゲームをプレイすることができるとは、なんて贅沢なデモンストレーション展示なんでしょう。大画面に表示されるゲームの映像はまさに圧巻です。 |
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奥田栄希 | DIG SHIBUYAのテーマが「ART×TECH」ということで、作品の展示の仕方にもこだわりたかったんです。 |
坂本 | 巨大ビジョンの画面には、パソコンのデスクトップのようなステージが表示されていますが、これはどういったストーリーなのでしょうか? |
奥田栄希 | 魔王ディーXによってマウスカーソルにされてしまった主人公が、元の姿に戻るためにパソコン内部の仲間たちと冒険をするストーリーで。PCランドの住人である「Wi-Fi」のパスワードを、町の変りもの「デリート」から取り返すなど、さまざまなミッションをクリアすることで物語が進んでいきます。 |
坂本 | ずいぶんと独創的なストーリーですね(笑) |
奥田栄希 | パソコンを舞台にしたゲームということで、パソコンの“あるあるネタ”を取り入れたくて。Wi-Fiのパスワードがわからなくなることってよくあるじゃないですか。でも、もしあの現象がパソコン内部のキャラクターたちの仕業だったらとか、いろいろと想像を膨らませながらストーリーを考えました。 |
パソコンのあるあるネタである“スパムメール”と、その危険を警告する“アラート”の表示
坂本 | 確かに誰でも1度は経験したことがありそうな現象ですよね。 |
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奥田栄希 | 他にも、主人公の装備に「なんのために保存したのかわからない画像」というものがあったり、不正アクセスを防ぐシステム「ファイヤーウォール」と同じ名前の武器があったり。 |
カーソルの攻撃技が「ダブルクリック」で、Wi-Fiの攻撃技が「テザリング」だったりと、パソコンにまつわるネタをいっぱい詰め込んでみました。 |
かつてWindowsのパソコンによく内蔵されていたゲーム「マインスイーパ」を舞台にしたステージ
ライブ配信からみんなで操作する新感覚ゲーム
坂本 | 今回、人通りが多いタワーレコード渋谷店の前での展示ということですが、この『パソコンクエスト』という作品は、シングルプレイ用に開発されたゲームソフトなんでしょうか? |
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奥田栄希 | 公共空間でプレイするゲームということで、“みんなでやるRPG”をコンセプトに、複数人で遊ぶことができる仕様にしています。 |
坂本 | どうやって複数人でプレイするんですか? 簡単にゲームの操作方法を教えてください。 |
奥田栄希 | まずはYouTubeのライブ配信動画を開き、チャット欄から特定のコマンドを入力。すると、画面に表示されている主人公をみんなで動かすことができます。 |
坂本 | 本当だ! カーソルの形をした主人公のキャラクターが、チャット欄のコメントに合わせて動いている! |
奥田栄希 | 「U」の文字を入力すれば上に、「D」の文字で下に移動できるうえ、「L」と「R」で左右に移動することも可能。また、「U5」のようにコマンドに数字を加えると、指定した数だけ行きたい方向に移動することもできます。 |
入力したコマンドは「A」で決定、「C」で取り消しを行う
坂本 | ライブ配信を見ている人たちと一緒に操作するので、なかなか思うようにキャラクターを動かすことができませんね。 |
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奥田栄希 | それも『パソコンクエスト』の面白い点のひとつです。現実の社会でも誰かと一緒に行動するとなると、自分が思った通りには物事を進めることができない。 |
常に協調性を持って取り組まないと、みんなの足並みを揃えることすらできません。そんな人間関係の難しさも表現できればと思いました。他のプレイヤーたちとチャット欄で会話ができるので、みんなで作戦を考えるのも楽しみ方のひとつです。 | |
坂本 | 複数人のユーザーが同時に操作して、ひとつのキャラクターを動かす映像は、プレイしていなくても見ているだけで面白いですね。 |
イベント当日の来場者のみ回すことができたカプセルトイの缶バッジ
RPGゲーム『パソコンクエスト』完成までの道程
坂本 | 奥田さんは、これまでアクションやシューティングなど、さまざまな8bitのゲーム作品を制作されていますが、今回はなぜ“RPG”をジャンルに選ばれたのでしょうか? |
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奥田栄希 | 実は、今まで一緒に活動してきたプログラマーの方が、急に音信不通の状態になってしまい、、、。「RPGツクール」という制作ソフトを使って、自分でゲームソフトを開発しないといけなくて。ジャンルが必然的にRPGだけに限られてしまいました。 |
坂本 | そんな事情があったんですね。 |
奥田栄希 | なので、RPGツクールの仕様に合わせて、ゲームの設定などを決めた部分も多かったです。 |
パソコンクエストのストーリーの途中で出てくる戦闘シーン
坂本 | キャラクターのデザインも、奥田さんが担当されたんですか? |
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奥田栄希 | そうです。マウスカーソルにされてしまった主人公なら、上下左右に移動しても絵柄を変えなくてすむ。人物のキャラクターのようにスプライトを分けて描く必要がないので、初心者でも簡単に描くことができると思ったんです。なので、他のキャラクターもPCのアイコンのような意匠にしました。 |
坂本 | 普段使っているツールと違うことで、そんな技術的な制約があったとは。 |
奥田栄希 | その後、ぼくが考えたゲームのストーリーをもとに、シナリオライターの芥川さんに、それぞれのキャラクターのセリフを考えてもらい、どうにかゲームソフト『パソコンクエスト』が完成。制作を開始してから約半年くらいかかりました。 |
坂本 | 完成までに紆余曲折があったんですね。しかし、その甲斐あって完成度の高い作品に仕上がっていますね。 |
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奥田栄希 | ありがとうございます! |
坂本 | 実際に街中で作品を見た人々からも、なにか反響などはありましたか? |
奥田栄希 | 海外の観光客の方々からリアクションをいただくことが多かったです。ファミコン時代のゲームソフトは、セリフなどの日本語の文章が少なく、ドット絵のイラストでストーリーなどを伝えていた。だからこそ、日本語がわからない海外のプレイヤーでも遊ぶことができたんです。 |
一方、パソコンクエストは、セリフなどの文章が出てくるシーンが多いので、海外の方々には少しわかりづらい部分があって。でも、みなさんゲーム画面を見ているうちに、なんとなくルールなどを理解してもらえたようで、自然と嬉しそうな表情を見せてくれました。 | |
坂本 | とても素敵な話ですね。 |
- 奥田栄希
- Interviewer: 坂本遼󠄁佑 the PIXEL magazine 編集長。東京都練馬区出身。大学ではアメリカの宗教哲学を専攻。卒業後は、出版社・幻冬舎に入社し、男性向け雑誌『GOETHE』の編集や、書籍の編集やプロモーションに携わる。2023年にフリーランスとして独立し、現在はエディター兼ライターとして活動している。