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#日下一郎
2025.02.14
日下一郎 特別インタビュー Part1 世界初“フルドット絵”映画という人生をかけた挑戦
Interviewer: 坂本遼󠄁佑
昨年、約5年の年月をかけて完成した映画『ファイナルリクエスト』。かつて少年誌で連載されていた漫画を原作に、世界初の“フルドット絵”で描かれた長編映画作品は、日本が誇る有名クリエイターたちも多く制作に参加している。そんな『ファイナルリクエイスト』の著者である、マルチクリエイターの日下一郎氏に特別インタビュー! 8bitファンタジーの物語に込めた、ゲーム開発者としての想いとはーー。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)
ファイナルリクエストの目的地“目黒”
坂本 | 今回は、東京の目黒駅前でマルチクリエイターの日下一郎さんに、インタビューをさせていただいています。本日は、よろしくお願いします。 |
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日下一郎 | よろしくお願いします。 |
坂本 | この目黒駅の正面口は、日下さんにとって特別な場所とのことですが、なにか思い出深いエピソードがあるのでしょうか? |
日下一郎 | 私が描いた漫画版『ファイナルリクエスト』では、この目黒駅の正面口がラストシーンに出てくるんです。ネタバレになってしまうので、あまり詳しくは話せませんが、「目黒」という地名に重要な意味が込められていて。 |
坂本 | ストーリーの鍵となる部分ですね! 場所の“名前”に意味を持たせたのには、日下さんのなかでなにか理由があったんですか? |
日下一郎 | かつてネット掲示板に投稿された「Sa・Ga2の思い出」(※1)という話があって、入院中に知り合った小学生の男女が、『Sa・Ga2 秘宝伝説』というゲームソフトを通して仲良くなるんです。 |
※1)2010年にネット掲示板に投稿された文章。入院していた男女のラブストーリーに、多くのネットユーザーが涙したという。 | |
そのラストシーンで、キャラクターに設定された“名前”が、重要な役割を果たしていて。自分の作品にも同じような結末を取り入れてみようと思いました。 |
漫画『ファイナルリクエスト』(2014 - )
坂本 | それで“目黒”を撮影の場所に選ばれたんですね。他にも作品のモチーフにしたものはあったんですか? |
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日下一郎 | 漫画家・楳図かずおさんの『わたしは真悟』(※2)という作品も、実はモチーフのひとつになっています。自我が芽生えた産業用ロボットと、離ればなれになってしまった少年少女が織りなす、壮大なラブストーリーがとても印象的で。 |
2)1982年から1986年までの間に、雑誌「ビッグコミックスピリッツ」に連載されたSF漫画。恐怖漫画の第一人者である楳図かずお氏が、自我を持ったコンピューターを題材に描いた予言書的な作品。 | |
ファイルリクエストでは、遊ばれなくなったゲームソフトが、恋人たちを結びつけるストーリーにしたんです。連載中はさまざまな伏線を張っていたので、ちゃんと2人を結びつけることができるか、ずっとヒヤヒヤしながら描いていました(笑) | |
坂本 | 当時、漫画を連載していた日下さんにとっても、目黒駅はある意味“目的地”だったんですね! |
約5年かけて完成した世界初フルドット絵映画
坂本 | 昨年、そんな漫画『ファイナルリクエスト』の映画が完成したとのことですが。 |
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日下一郎 | 世界初のフルドット絵で制作された、約3時間におよぶ超大作です。完成までに5年ほどかかりました。ただドット絵を打つのではなく、実際のゲームソフトの制作と同じように、システムをプログラムするところから始めて。 |
キャラクターも48×48のスプライトに描いて、それぞれ画面上で組み合わせています。それぞれのキャラクターの動きをドット絵で表現するのは、長年のゲーム屋をやってきた私でも大変な作業でした。 | |
坂本 | でも、その甲斐あってキャラクターのディテールが綺麗に出ていますよね。 |
日下一郎 | ファミコンは8bitだったので、キャラクターが16×16で描かれることが多く、スーパーファミコンでも32×32が主流で。48×48で描かれたキャラクターが、ここまで細かく動き回るRPGは、多分これまで存在しないのではないかと。 |
最近では、細かいドットで描かれた映像が多く出回っているので、あまり違和感を持たないかもしれませんが、こんなリッチなドット絵で構成されたRPGというのは、実はこの映画『ファイナルリクエスト』だけだと思います。 |
キャラクターの動きをスプライトに分けて描写した設定画
坂本 | 原作の漫画でもキャラクターを、48×48で描いていたんですか? |
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日下一郎 | 原作はファミコンのスペックに準拠していたので、16×16から最大32×48と解像度が極めて粗めでした。でも、色数もファミコンの52色中3色にこだわりつつ、シーンによっては制限を逸脱したりしていて(笑) |
今回の映画『ファイナルリクエスト』では、より色彩を鮮やかにするため、各キャラクターを16色で色づけしました。漫画を描くぶんには粗い表現でもよかったのですが、映画の大画面ともなれば、それなりのクオリティが必要だと思ったんです。 | |
坂本 | プログラミングで映像を作っているからこその難しさがあったんですね。 |
日下一郎 | 他にも、作中に“バグ”が発生するシーンがあるんですが、あれは実際にバグを画面上に表示させるプログラムを組んでいて。 |
絵として描いたバグではないので、自分たちが意図しないところにも出てしまうこともある。ですが、それこそバグのリアルさだと思い、あえてそのままの状態にしました。 |
作中に出てくるプログラム上に組まれたバグ
担当編集との死別と最後まで諦めない心
坂本 | 今回、漫画『ファイナルリクエスト』を映画にしようと思った、最初のきっかけはなんだったんですか? |
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日下一郎 | 雑誌の連載として始まった『ファイナルリクエスト』を、ひとつの作品として見通せるものにしたかったんです。 |
それで、担当編集兼プロデューサーだった小笠原宏さんという方に、映画化を提案したところ「やりましょう!」と言っていただけて。クラウドファンディングで資金を募りながら、映画化に向けて着々と動き出しました。 | |
坂本 | 担当編集の方の存在が大きかったんですね。 |
日下一郎 | でも、小笠原さんはクラウドファンディングの段階で亡くなられて。完成した映画『ファイナルリクエスト』を一緒に見ることはできませんでした。多忙な毎日のなかの不摂生がたたったのか、本当に突然のお別れだったんです。 |
しかし、絶望のなかでも決して諦めない主人公の物語を描いてきた私が、ここで制作を打ち切ってはいけないと思い、ひとりでも映画を完成させようと奮起しました。 | |
坂本 | そんな辛い経験をされたなかで、どうにか完成させた作品だったとは。 |
日下一郎 | 私自身もコロナウイルスに感染したり、2度の入院をしたりと体調を崩してしまい。それも制作期間が長引いてしまった理由のひとつです。 |
結果的に目標金額を大幅に上回ったクラウドファンディング
坂本 | それでも最後まで映画化を諦めなかったのには、他にもなにか深い理由があったんですか? |
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日下一郎 | 私は、映画『ファイナルリクエスト』を通して、ゲームクリエイターにも映画が作れることを証明したかったんです。これまでも、さまざまなゲームクリエイターが映画に挑戦してきましたが、わりと残念に終わってしまっている現状があって。 |
その壁を自ら超えてみたかったんです。ゲームをよく知らないお客さんでも、ちゃんと映画の内容を理解し、最後まで楽しめる作品にしたい。ゲーム開発に20年以上携わってきた、私の人生をかけた究極の挑戦とでも言いましょうか。 | |
坂本 | そんな日下さんの熱い情熱が、映画に込められているんですね! これから映画館での上映なども決まっているんですか? |
日下一郎 | それがまだ決まっていないんです(笑)本業がゲーム屋なものですから、映画製作はまったくの素人であり、作ったはいいものの売り方がさっぱりわからない。 |
あちこち配給会社に連絡もしてみたのですが、今や映画業界もそんな単純素朴なビジネスではないらしく、今のところ上映していただくに至らないという感じで。 | |
坂本 | では、まだ映画『ファイナルリクエスト』は、映画館で公開されていないんですね。 |
日下一郎 | なので、今、みなさんにこの映画をお披露目するために、さまざまな活動をしているところです。 |
もし映画『ファイナルリクエスト』の内容が気になった方は、公式ECサイトでブルーレイディスクなどを販売しているので、ぜひチェックしてみてください! | |
坂本 | 有志の上映会を企画して、大人数で鑑賞するのもいいかもしれません。 |
- 日下一郎
- Interviewer: 坂本遼󠄁佑 the PIXEL magazine 編集長。東京都練馬区出身。大学ではアメリカの宗教哲学を専攻。卒業後は、出版社・幻冬舎に入社し、男性向け雑誌『GOETHE』の編集や、書籍の編集やプロモーションに携わる。2023年にフリーランスとして独立し、現在はエディター兼ライターとして活動している。