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#日下一郎
2025.02.14
日下一郎 特別インタビュー Part2 キャラクターの命を生み出すゲームクリエイターとしての責任
Interviewer: 坂本遼󠄁佑
昨年、約5年の年月をかけて完成した映画『ファイナルリクエスト』。かつて少年誌で連載されていた漫画を原作に、世界初の“フルドット絵”で描かれた長編映画作品は、日本が誇る有名クリエイターたちも多く制作に参加している。そんな『ファイナルリクエイスト』の著者である、マルチクリエイターの日下一郎氏に特別インタビュー! 8bitファンタジーの物語に込めた、ゲーム開発者としての想いとはーー。(文=坂本遼佑|Ryosuke Sakamoto)
豪華制作陣による贅沢な制作現場
坂本 | 昨年、ついに完成したら映画『ファイナルリクエスト』ですが、実際に映画を制作するにあたって、最初に行われた作業はなんだったんですか? |
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日下一郎 | まずは、映画化のもととなるストーリーのシナリオと、それだけではわかりづらいカットの最低限の絵コンテを制作。次に、声優さんと一緒にアフレコをしました。 |
坂本 | 映像制作の前にセリフの収録をしたんですか? |
日下一郎 | そうです。プログラムまで組んでからでは、時間がかかりすぎるという理由ですが、ディズニーのアニメーションなどと同じ、実に贅沢な制作現場でしたね。 |
プロの音響制作の方と一緒に、声優さんのセリフを聞きながら、細かい表現などの調整を加えて。自分の頭の中にあるャラクターの声を作っていきました。 | |
坂本 | では、声優さんのセリフに合わせて、それぞれの場面のドット絵を打っているんですね。 |
日下一郎 | なので、重要なセリフが出る場面などでは、声優さんの息継ぎに合わせて、キャラクターが動いているんです。 |
山本兼平さんや、佐々健太さん、新川愛実さんなど、素晴らしい声優さんたちにセリフを入れていただいたので、登場人物の感情をしっかり表現することができました。 |
殺戮の姫・シロテを演じたのは、声優の東城日沙子氏
坂本 | 映画のドット絵は、ひとりで制作されたんですか? |
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日下一郎 | もちろん自分もドット絵を打ちましたが、他にもさまざまなゲームクリエイターの方々に携わっていただいて。「ポケットモンスター」のキャラクターデザインで知られる杉森建さんや、「ロックマン」のコミカライズでも有名なありがひとしさん。 |
メガドライブでカルト的な人気があったゲームソフト『ジノーグ』など、数々の作品を手がけられた中井さとしさんといった、長年のゲーム屋としてのツテを最大活用した、豪華メンバーで映像を作り上げていきました。 | |
坂本 | ゲーム界のレジェンドたちが集結した貴重な作品ですね。 |
日下一郎 | 他にも、ピクセルアーティストのm7kenjiさんにもご参加いただき、ドット絵だけでなく空間のデザインなども担当していただいています。 |
坂本 | m7kenjiさんはどのあたりのデザインを担当されたんでしょうか? |
日下一郎 | 例えば、映画のラストシーンに、ゲームのプログラム領域を舞台にした場面があるんですが、われわれ旧来のゲーム屋では、その抽象的な世界観をうまく表現できないと思い。アーティストであるm7kenjiさんに、背景のデザインを考えていただきました。 |
坂本 | ピクセルアーティストでありながら、ゲームクリエイターでもある、m7kenjiさんならではの技術ですね。 |
日下一郎 | m7kenjiさんは、タイポグラフィーなども得意としている方なので、ゲームのプログラムコードをピクセルアートとしてのデザインにしてもらったんです。物質的でも映画『マトリックス』にでてくるコードみたいでもない、独特なプログラム領域の世界を生み出していただきました。 |
映画化のために作曲されたオリジナルソング
坂本 | 映画『ファイナルリクエスト』の作中には、ゲームのBGMのような楽曲が流れていますが、こちらは専門の音楽家の方が作曲しているんでしょうか? |
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日下一郎 | 実は、作中で流れる楽曲のほとんどは、私が自ら作曲したものなんです。 |
坂本 | 日下さんが作曲されたんですか!? |
日下一郎 | サウンドクリエイターの金子剛さんに、エンディング曲を含めた5曲ほど作曲してもらいましたが、超一流のプロフェッショナルの方なので、予算的にすべての曲をお願いすることができず。私がやるしか他になかったんです(笑) |
坂本 | もともと作曲に興味があったんですか? |
日下一郎 | 若い頃から音楽が好きで、ずっと作曲もしてみたかったのです。でも、ゲーム会社にはプロのサウンドクリエイターの方々がおられるので、当たり前ですが自分で作曲したBGMを使うことができず。 |
一方で、映画『ファイナルリクエスト』なら、オリジナルの楽曲を使うことができる。何度も試行錯誤を繰り返しながら、作品内容に合った曲をコンピューター上で作りました。 |
ECサイトで販売されているスペシャルBOXの特典として制作されたポストカード
坂本 | 一から作曲するのは大変そう、、、。 |
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日下一郎 | 最初は、スーパーファミコンと同じスペックで作曲しようとしたんです。しかし、限られた音の表現のなかだと、自分にはイメージ通りの楽曲を作ることができなくて。 |
最終的には、チップチューンの人工的な電子音と、MIDI音源のアコースティックの響き。その2つを組み合わせることにしました。 | |
坂本 | ひとりで何役もの仕事をやられていたんですね。 |
日下一郎 | でも、それが功を奏した点もあって。映像監督や音響監督などの指示役が複数人いると、どこかで方向性の違いが出てしまう。でも、私がすべての指揮を取っていたので、最後まで一貫性を持って進めることができました。 |
ゲームクリエイターとしての責任
坂本 | 以前、Xの公式アカウントで映画『ファイナルリクエスト』は、“トイストーリーのゲーム版”とは違うと投稿されていましたが、あれはどういった意味だったのでしょうか? |
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日下一郎 | 私が、映画『ファイナルリクエスト』で一番伝えたかったメッセージ、それは「ゲームの世界は、われわれの世界と等価である」ということです。 |
現実世界で生きている私たちと、ゲームの世界で戦っているキャラクターたち、そのふたつの存在には上も下もなく、同じように儚い世界を生きている。その意味をどこまで掘り下げられるかをテーマにしたかったんです。 | |
坂本 | ゲームのキャラクターたちも必死に生きているんですもんね。 |
日下一郎 | なので、彼らに対して「大人になれよ」なんて言っていいわけがない。八百万の神を信じてきた国の人々が、ゲームのキャラクターたちを下に見てはいけないし、ちゃんと敬意を持って接するべきだと思うんです。 |
坂本 | あのXの投稿には、日下さんの“ゲーム愛”が表れていたんですね。 |
日下一郎 | 映画の中で“バグ”に犯された親子の映像が流れるんですが、あれも遊ばなくなったゲームソフトに対する、プレイヤーの“責任”を表現したかったんです。 |
私は、映画『ファイナルリクエスト』のなかで、美しいことだけを描くつもりはなくて。ゲームの世界において、われわれと同様に生きて死んでゆくキャラクターの苦しみを、直に感じ取ってもらえればと思いながら描きました。 |
作中では多くのキャラクターが”バグ”に侵食されていく
坂本 | そんな深いメッセージ性を持った映画だったとは、、、。 |
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日下一郎 | ゲームの世界では生や死というものが簡単に扱われがちで、むしろそれを商品性やファッションにしているんですが、ゲーム屋として自らが生み出したキャラクターの“命”を扱うことには責任がある。 |
かつて、宮﨑駿さんが「たとえ創作上の登場人物であっても、その人生には責任を持て」という意味の言葉を残されていましたが、生死がきわめて安易なゲームだからこそ“命”を扱っているということの意味は、ちゃんと自覚していたいと思います。 |
戦士・アソンテの表情や体型などを記した設定画
- 日下一郎
- Interviewer: 坂本遼󠄁佑 the PIXEL magazine 編集長。東京都練馬区出身。大学ではアメリカの宗教哲学を専攻。卒業後は、出版社・幻冬舎に入社し、男性向け雑誌『GOETHE』の編集や、書籍の編集やプロモーションに携わる。2023年にフリーランスとして独立し、現在はエディター兼ライターとして活動している。