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ARTICLES ARTIST #日下一郎 2025.02.14

日下一郎 特別インタビュー Part4 映画化することで見えてきたピクセルアートの新たな魅力とは

Interviewer: 坂本遼󠄁佑 

昨年、約5年の年月をかけて完成した映画『ファイナルリクエスト』。かつて少年誌で連載されていた漫画を原作に、世界初の“フルドット絵”で描かれた長編映画作品は、日本が誇る有名クリエイターたちも多く制作に参加している。そんな『ファイナルリクエイスト』の著者である、マルチクリエイターの日下一郎氏に特別インタビュー! 8bitファンタジーの物語に込めた、ゲーム開発者としての想いとはーー。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

移り変わる“ピクセルアート”のイメージ

坂本 マルチクリエイターである日下さんは、2016年の企画展「ピクセルアウト」にも参加されていますが、作品を出展することになったきっかけはなんだったんですか?
日下一郎 当時は、講談社の漫画雑誌「月刊少年シリウス」で、漫画『ファイナルリクエスト』の連載中でした。
そんな時に、ピクセルアウトの主催だった現代美術家のたかくらかずきさんが、わざわざ自分に声をかけてくださって。漫画『ファイナルリクエスト』のイラストや動画を展示することになったんです。
坂本 漫画『ファイナルリクエスト』を、アート作品として展示したんですか?
日下一郎 そうです。次世代のピクセルアーティストの方々に混じって、ドット絵時代の“ゲーム屋”として、当時の空気感を出せればという想いを込め、漫画『ファイナルリクエスト』の作画などを展示しました。
坂本 他のアーティストの作品を見て、どのように感じられましたか?
日下一郎 やはり「ドット絵でもこんな自由な表現ができるんだ」と思いましたね。

日下一郎 特別インタビュー Part4 映画化することで見えてきたピクセルアートの新たな魅力とは漫画『ファイナルリクエスト』の原案となった企画段階の作品『8bitの戦士』(2001)

坂本 日下さんのなかでも、“ドット絵”に対するイメージは、少しずつ変化しているんですか?
日下一郎 私たち世代にとって“ドット絵”は、子供の頃に遊んだゲームにおける過渡期の表現なんです。でも、今ではひとつのアートジャンルにまでなっている。
かつて、アニメーション映画が誕生した時、「なんで子供の漫画映画を2時間も見ないといけないんだ」と思われていたものが、今では大人も楽しめる映画のジャンルになっていますよね。それと同じことがドット絵にも起きているんです。
坂本 もはやドット絵は、子供だけのものではない、、、。
日下一郎 なので、ファイナルリクエイストの映画版も、今は「ゲームの画面を3時間も見るの?」と思われるかもしれませんが、いつの日かドット絵の映画が当たり前になる時代が来ると信じています。
坂本 日下さんらしい、素敵な夢ですね!

ドット絵にしかないアート作品としての魅力

坂本 今では、アートのジャンルのひとつになっている“ドット絵”ですが、日下さんがドットを打ち始めた頃はどんなイメージを持っていましたか?
日下一郎 世間的には“TVゲームの人気の上に成り立つ稚拙な表現”というイメージが強かったので、今みたいな“アート”という認識は持っていなかったです。
さらに、ポリゴンを使った次世代の3DCGのゲームに注目が集まるようになって、ドット絵はどちらかというと下火になっていました。でも、ドット絵にしかない魅力があるとは感じていて。
坂本 ドット絵にしかない魅力ですか?
日下一郎 そうです。これは手描きの2Dアニメーションにも通づることですが、私はドット絵のことを「工業化された通俗文化による芸術的表現」だと考えていて。再現性が高いので大量生産できる面で工業的、しかも誰でも楽しめるゲームなどに使用されているので通俗的でもある。
一方で、工業的なものや通俗的なものは、芸術と相入れないところがあって。大衆に広く親しまれているものはアートになりにくいんです。

日下一郎 特別インタビュー Part4 映画化することで見えてきたピクセルアートの新たな魅力とは映画内に出てくる女性の身体は、ドット絵で描かれているので、性的なものとしてではなく、純粋な人間の身体として見ることができる

しかし、アニメーションがそうなっていったように、現代ではドット絵が“ピクセルアート”として受け入れられている。そこにドット絵の奥深さがあると思うんです。
坂本 表現できることの幅に制限があるからこそ、作品に面白みが出てくるところも、ピクセルアートの魅力ですよね。
日下一郎 なので、漫画『ファイナルリクエスト』の連載を始める時、実はゲームボーイのような白黒のドット絵にしようと思ったんです。黒色、濃いグレー、薄いグレー、透明色の4階調で漫画を描けないかと。
しかし、実際に4色で描いた漫画を印刷してみると、黒色が潰れてなんの絵だかわからなくなってしまい。そこで、ファミコンの8bitの色数に多少のバリエーションを加えた、わずかな制限のなかで描くことにしました。
坂本 漫画『ファイナルリクエスト』が完成するまでに、そんな隠された誕生秘話があったとは。

日下一郎 特別インタビュー Part4 映画化することで見えてきたピクセルアートの新たな魅力とは映画『ファイナルリクエスト』のお城のダンジョン

表現を制限することで生まれる自然な動き

坂本 今回、映画版の『ファイナルリクエスト』を制作するにあたっても、なにか表現や演出でこだわった点はあるんですか?
日下一郎 細かいところを表現するために、色数や動きを増やしていった漫画版に対して、映画版ではそれが過剰にならぬよう心がけました。
例えば、一般的なアニメーションだと作画を増やせば、より滑らかなキャラクターの動きを表現できますよね。一方で、ドット絵で描かれたキャラクターは、滑らかな動きすればするほど、どこか不自然な印象になってしまうんです。

日下一郎 特別インタビュー Part4 映画化することで見えてきたピクセルアートの新たな魅力とは一部のシナリオの絵コンテでは、制作陣にわかりやすいようイラストで表現し、後からドット絵の形式に落とし込んでいった

ドット絵のRPGをイメージしてもらえばわかると思いますが、キャラクターが上下左右に歩く向きを変える時、一瞬で行きたい方向に身体の向きが変化しますよね。
坂本 確かに、身体の向きを変えるまでの動作は省略されています。
日下一郎 さらに、喋るときも口は動きません。それがドット絵ならではの、独自の抑制された表現を生み出していた。人形浄瑠璃などと同じで、制限されるからこそ作品の冗漫さが取り除かれ、洗練された表現を際立たせることができるんです。
坂本 なるほど! 言われてみれば、細かい動きをするドット絵のRPGは、あまり見かけないですね。
日下一郎 もちろんそれは主に技術的、コスト的な理由によるものでしたが、今のものにはない味わいがあった。
しかし、大容量のCD-ROMの時代になるにつれ、リップシンクなど過剰な動きによる冗長さが生じ、さらにポリゴンの3DCGが登場するようになってからは、「ドット絵は古い」とばかりに、多くのドット絵職人たちが旧来の表現自体を否定されてしまいました。

日下一郎 特別インタビュー Part4 映画化することで見えてきたピクセルアートの新たな魅力とは大学時代に描いた漫画の1ページ

なので、かつてのドット絵のゲームの魅力を再発見してほしい。そんな願いを込めて漫画『ファイナルリクエスト』を書き始めたんです。
坂本 それで、漫画版のラストシーンでは、ポリゴンで描かれた敵が出現するんですね。
日下一郎 ドット絵を駆逐してしまったポリゴンに対する怒りや憎しみが、あのラストシーンには込められていたんです(笑)
坂本 日下さんの話を聞いてから漫画を読み直すと、最初に読んだ時とは違う視点が見えてきそうです。

日下一郎にとってピクセルとは

坂本 最後に、日下さんにとって“ピクセル”とはなんですか?
日下一郎 私にとってピクセルとは“青春の輝き”です。80年代に至るまでの陰鬱とした日本の状勢のなか、『スペースインベーダー』や『ゼビウス』、『スペースハリアー』などのアーケードゲームの誕生は、子供たちに大きな夢と希望を与えました。
それまで、白い紙に黒いインクで描かれていた漫画やアニメーションに対して、真っ暗な画面に輝くドット絵の映像は、本当に生きているように見えたんです。
坂本 日下さんにとってドット絵は、“懐かしいもの”ではなく“新しいもの”だったんですね。
日下一郎 まさにそうです。今では“ノスタルジー”という言葉と結び付けられていますが、私たち世代にとっては“新時代の象徴”でした。先が見えない時代のなかで、明るい未来への希望を見させてくれた。これまでドット絵にどれだけ勇気をもらったかわかりません。

日下一郎 特別インタビュー Part4 映画化することで見えてきたピクセルアートの新たな魅力とは


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  • Interviewer: 坂本遼󠄁佑 the PIXEL magazine 編集長。東京都練馬区出身。大学ではアメリカの宗教哲学を専攻。卒業後は、出版社・幻冬舎に入社し、男性向け雑誌『GOETHE』の編集や、書籍の編集やプロモーションに携わる。2023年にフリーランスとして独立し、現在はエディター兼ライターとして活動している。