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#mae #吉野
2022.09.02
今、大きな注目を集めている気鋭のピクセルアーティスト mae 特別インタビュー第3回 maeさんとNFT
Interviewer: 吉野東人
ゆず新曲「ALWAYS」でドット絵によるMVを手掛けた、ピクセルアーティストmae氏。 最終回となる今回は、NFT界で注目を集めるmae氏の価値観を掘り下げる。
maeさんとNFT
吉野 | maeさんの作品がNFT界で注目されていること、またどういった経緯でNFT(※1)を始められたかお聞かせください。 |
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※1)Non-Fungible Tokenの略。非代替性トークン。偽造不可な鑑定書・証明書つきのデジタルデータ。ブロックチェーン上で発行・売買される。 | |
mae | 始めた経緯はTwitterで、海外のピクセルアーティストの友人が先駆けてNFTというタグで発信しているのを見たのがきっかけです。「なんだろう?」とふと調べてみたときにデジタルデータを一点物として取引できる仕組みの上でTwitterを運用していたと知って、デジタルアーティストにとって新しい道が一本伸びたような感覚が最初にありましたね。 |
吉野 | 海外のアーティストがSNSを使ってNFT で作品を発表していると認識されたのはいつ頃ですか? |
mae | 去年(2021年)の1月、2月頃で、自分が実際にNFTを始めたのは4月からです。 |
吉野 | では昨年の4月にmaeさんの作品を発表されたということですね。 その2、3ヶ月のあいだにいろいろとリサーチをされたと。 |
mae | そうですね。当時は今より更に海外が主流で、日本語の資料もほとんどありませんでした。その数ヶ月は仕組みを知るための時間や、懸念される問題点や将来性を含め自分がどのような立ち位置でその世界に飛び込んでいくか考える時間でした。 NFTは今でもそのあり方について色々な意見が飛び交っています。 ただ肯定か否定か、ではなくその間をいくような視点をもつことが、今の時代は特に必要だと思っています。なんでも賛成か反対かと主張しあうことは逆に簡単なことなのかもしれません。 個人でできること、できないことはありますが、色々な側面と向き合い、デジタルアーティストとしての可能性を押し広げていきたいなと思っています。 |
吉野 | 4月に初めて出品したのはOpenSea(※2)ですか? |
※2)世界規模のNFTオンラインマーケットプレイス。 | |
mae | Foundation(※3)ですね。 |
※3)同上。 |
碧の光をたどって
(follow the honest light)#pixelart #ドット絵 #indie_anime pic.twitter.com/gsTbIQ8Ofp— mae (@mae_1031_) April 8, 2021
吉野 | 最初に出品した作品の出品額1ETH(※4)の価格設定はどういった意図でしたか? |
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※4)プラットフォームであるイーサリアム内で使用される暗号資産(仮想通貨)。 | |
mae | 周りの作品を見てその市場の相場をとらえつつ、自分がその作品にかけた時間や思いも含めて、挑戦のつもりで決めた記憶があります。 価格設定は答えがなく難しいところでもあるので、色々なことの兼ね合いで決めました。 |
吉野 | 入札があり落札されて2.5ETHだったとき、どういった感情でしたか? |
mae | 初めての経験だったので、どのような流れで取引を進めるかも把握しきっておらず、宣伝もあまりしていないなかで見つけてくださったということで、驚きと嬉しさがありましたね。 |
吉野 | この一枚目の作品からすでにPIXEL IMPRESSIONISMを感じるのですが、当初からPIXEL IMPRESSIONISMを推していたんですか? |
mae | 独自性の強いものを見てほしいということがあったので、手法として他に見ないようなものだとより際立つのではないかという考えがありました。 ピクセルアートの作品自体も当時の市場には少なかったですし、加えてそういった手法で挑戦してみたらどうなるんだろうとわくわくしていましたね。 |
吉野 | 他のピクセルアートと差別化されたというより、デジタルアート全体との差別化をされた、ということでしょうか。 |
mae | そうですね。例えば自分がコレクターだったらそれが気になるか、欲しいと思えるかという客観的な目線をなるべくもって作品のあり方を考えてみることも大事だと思います。 |
吉野 | このNFTデビュー作が2.5ETHで売れてその次に出したのがこの作品ですね。これが7ETHで落札されている。右肩上がりに売り上げが伸びている印象です。 過去一番落札価格が高かった作品はどれでしょうか。 |
mae | Foundationのなかだとその二つ目の作品と、あとはコインランドリーの作品も7ETHで落札していただきました。 |
吉野 | このなかにmaeさんの作品によく出てくる犬がいますね。 出品した作品が値崩れせずに売られていくというように、今、NFTで注目されているということに関してどうお考えでしょうか? |
mae | 自分の作品にとってあまりフィールドは関係ないと思っていて、NFTに寄せてテーマを変えて描いていないですし、軸にあるのは作品を観てくれた人に一瞬でも穏やかな気持ちになってほしいという思いです。 そのうえで作品をコレクトしたいと思ってくれる人がいるなら持っていて欲しいという思いですね。 ほんとうに自分の作品を好きでいてくれる人がいるというのは嬉しいですし、それに見合うように自分も強い思いで描いています。 |
吉野 | Foundationの場合、SNSのようになっていますよね。 maeさんも買ってくれた人、入札してくれた人のアカウントをチェックしてこういう人なんだ、というのは見ておくと。 |
mae | OpenSeaでもFoundationでもSNSのアカウントをリンクできるので、そこからTwitterで繋がり連絡をとっている方もいますね。 |
吉野 | 今回いろいろとヒントに富んだ情報を伺えたかと思います。 そのなかでも「NFTだから」という部分では作品を作っていないというのはとても大事なお話だなと思いました。 「NFTが稼げるから」「今はNFTだ」といって入ってくる人たちばかりになっているからこそそう思いますね。 |
mae | さっきお話ししたことと繋げると「誰もがアーティストになれる」と敷居が下がって、すぐに自分のアートを発表できるというのは素晴らしいし、それに挑戦している方が増えてきたのはすごくいいことだなと思っています。 ただ、買ってもらうからには責任が伴うことを理解しないといけないとも思います。自分が稼いですぐにやめてしまうのだったら買ってくれた人にも悲しい思いをさせることになるし、それらの想いは作品のいたるところに表れてくると思うので。「自分のために」も大切ですが、やっぱり「相手のために」はなくしてはいけないと思いますね。 |
吉野 | maeさんが始めた当時、PIXEL IMPRESSIONISMというものを言葉として提唱してやっているという方はいなかったのですか? |
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mae | そうですね。作品を発表してすぐ海外の方が「これはまさにPIXEL IMPRESSIONISMだ!」といってくれて、じゃあその名前にしようかなと(笑) |
吉野 | maeさんの作品を観た人が名づけてくれたのですね。 |
mae | はい。そう感じてくれるのならそう名づけようという経緯でした。 ただ枠組みにとらわれたくないとも思っているので、もし「違う」といわれたら「ああ、そっか違うんだ」というぐらいのつもりでいますね。 |
吉野 | ファンのフレーズのなかでいいな、と思って使っているという感じなのですね。 |
mae | 全てがそうではありませんが、名前はあんまり関係ないというか。作品名などにはこだわりますが、枠組みにはこだわっていませんね。枠組みももちろん自分とイメージを結びつけるものとしては大事なんですけど、その型にはめようと思って作品を作っているわけではないですね。 |
吉野 | 良いお話しがたくさんお伺いできたかと思います。 では、Drools&Pixelsシリーズについてお聞かせください。 このプロジェクトはmaeさんのなかでどういった位置づけで始められたものなのですか? |
maeさんのNFTシリーズ『Drool &Pixels』の作品たち。
mae | すべてのことにおいて「やってみたいからやる」といったことが主で、あとからの理由づけなんですけど、楽しみ方が今まで見ていただいた作品とはほとんど違うんです。例えば身につけたりとか、アイコンにしやすいか否かだったりとか。デジタル上での取り扱いが小さなキャラクターの絵と大きな風景の絵だと大きく異なってくるんです。 この5番目のイモムシのキャラクターは、もともと教師時代に自分のキャラクターの「イモくん」としてよく学級だよりに描いていたキャラクターがモチーフです。 |
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吉野 | これがmaeさんの昔のアイコンなんですね。 |
mae | それに近いですね。トレードマーク的なキャラクターでした。 こういうキャラクターを描くのが子どもの頃から好きで。このコレクションもその延長線上にあるので、やっていてすごく楽しいです。 ただNFTとなると責任がともなってくるので、データの品質としてフルオンチェーン(※5)であることだとか、ひとつひとつ手作業で描いていくことだとか、こだわりを詰め込んでいます。 |
※5)ブロックチェーン上に作品のデータを直接書き込むことにより、恒久に近い形でデータを保存することができる方法。 |
最初のピクセルアート作品『evening glow(tells us)』。音楽も自ら手がけている。
吉野 | (並んでいるアイコンを見て)これはイーサリアムですかね? |
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mae | そうですね。それはリクエストがあったので。ペンギン、レッサーパンダ、イーサリアム、ゴジラ ━━ このあたりはすべてリクエストによるものですね。 |
吉野 | これが風神と雷神で。こっちは? |
mae | ブッダですね。 |
吉野 | なるほど。こっちが宇宙飛行士で、エイリアンにUFO。これはキャトルミューティレーションをしているところですね(笑) |
mae | そうですね。 |
吉野 | こっちはプリズムにビーカー。リクエストがあるからこれだけバラエティに富んでいるんですね。この白い犬がいちばん古い付き合いなのですか? |
mae | その犬が軸になっています。その犬がよだれを垂らしているのは、むかしリラックスした様子の絵を描きたいときがあったんですね。そのループアニメーションの中で犬がよだれを垂らしていたらなんかいいなと思って。そこからトレードマークに使ってきて、よだれの特徴を共通させていろんなキャラクターのシリーズにしていったら可愛いんじゃないかなと思い立って描きはじめました。 |
よだれ×犬 の原点の作品『stay home』
吉野 | ループアニメーションの特性とリラックスしたゆるい可愛らしいキャラクターの表現の仕方として「よだれ(Drool)」を選ばれたのですね。 そして低解像度にすることによって、フルオンチェーンができると。 ちなみにフルオンチェーンにすることによってガス代(※6)ってどのくらいかかるのでしょうか? |
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※6)イーサリアム上で取引を行う際の手数料。 | |
mae | 全部手動で一個一個自分でMint(※7)しているのですが、ひとつにつき日本円だと大体1〜2万円ぐらいのときが多かったですね。ガス代の変動によるので一概には言えませんが。 |
※7)NFTを新たに発行、作成すること。 | |
吉野 | そんなにかかるんですか? |
mae | 平均するとそのぐらいだと思います。かなり覚悟がいりますよね。腹を括って、ほんとうに楽しんでもらいたい一心で描いています。 |
吉野 | ものすごい高コストなんですね。ガス代って誰かの懐に入るわけじゃなくて、システムのために蒸発していく費用ですし。ガス代が恐ろしいですね。 |
mae | そうなんですよ。 |
吉野 | 売り切れた場合にどんどん転売されていく、ということもあるのですか? |
mae | そういった例もあります。キャラクターの可愛さを気に入って購入してくださる方も多いので今後どうなるか分かりませんが、色々なパターンが生まれてくると思います。自分としてはそうやってDroolsを一緒に楽しんで、可愛がってくださる方々への楽しみや次の展開をどんどん考えていきたいと思っています。 |
吉野 | これも先ほどの話と同じく、可愛いキャラクターのシリーズを作りたいな、というところでやっているということなんですね。 |
mae | そうですね。この循環がNFTの本当の価値をつくっていくのではないかと思っています。永遠に残ることだけが価値なのではなく、そこにある温もりが刻まれていくことが大切だと思っています。 |
吉野 | NFT の大命題かつNFTの価値の根幹が「永続性」というところになってくるんですけれども、そこに魅力を感じているアーティストがどんどん参入しているという状況において、「永続性の価値」に対するmaeさんの思いがあるのですね。 |
mae | そうですね。言語化するのは難しいところですよね。永遠に続くからそれで価値が担保されるんじゃなくて、自分が熱意をもって一生懸命打ち込んだものが刻まれて、それを誰かに気に入ってもらえることで繋がって。 生き急いで価値そのもののためだけにやってしまうと、逆の循環になってしまう危険がありますよね。 ただ、この辺は色々なスタンスの方がいらっしゃるので言葉にするのが難しいです。 一挙手一投足、なにか言い方を間違えば、違った風に伝わってしまうことがあるので。 自分の言葉が誰かの立場を傷つけていないかを常に考えていますね。 |
吉野 | NFTに対して発信するということに、今どういうことがリスクだとお考えでしょうか? |
mae | 無責任な言葉で誰かを不安にさせたり傷つけたりしたくないという思いがあって、そこが大きいかもしれないですね。 |
吉野 | ポジショントークだったり、それを信じて行動してしまって誰かが不利益を被るようなことに繋がって欲しくないから慎重にしておきたい、ということですね。 |
mae | そうですね。あとは、NFTに対しても色々な考え方があるので。賛成でも反対でもなく、その中間をいきたいと思っています。常に両方の立場に目線をもって最適な考え、繋がる糸口を探していきたいです。 |
吉野 | このインタビューで一貫してmaeさんが「中庸」「中立」でありたいという思いを強く感じます。 |
mae | いくつもの考え方があるとき、「どの考えにも可能性を捨てたくない」という思いがあります。 自分が受け入れがたいことでもすぐに否定するのではなくて、「この人はなぜそれを正としているんだろう?」とか「なんでこの人はこれを描いてるんだろう」とか。アートにはたくさんの種類があるのでなかには自分が理解できないものもあるんですが、そうして最初から否定してしまうと、本来広がる可能性のあった自分の余地もそこでいつの間にか失くなる気がするので。 だから可能性をすべてに見出したいな、と。 |
吉野 | 中立でありたいというよりかは、可能性をできるだけたくさん残しておきたいからこその中立的視点ということですね。 |
mae | そうですね。 |
吉野 | 「可能性を閉ざしたくない」「できるだけどちらかの立場に偏りたくない」といった価値観はどういった経験から形成されたのでしょうか? |
mae | これというのはなく、今までの経験の積み重ねだと思います。色々な考えが世の中には渦巻いていて、みんな自分の意志で自分の思想を形作っているわけですが、実は自分の置かれた状況と経験からある程度答えは自動で算出されているものなんじゃないかと。だとすると、それ自体を疑い、相手の立場を思うことで視点はどんどん広がっていくのではないかと思っています。自分に足りていない部分や、今ある部分もよく見えてきます。 それぞれの人が、もっと自分を自由に表現できるような世の中をつくっていけるといいなあ、と思いますね。 |
- mae
- Interviewer: 吉野東人 音楽家/ライター 東京都出身。エレクトリックギターによる多重演奏を主体としたオーケストレーション制作をライフワークとする傍ら、フラメンコ舞踊、アートワーク、文藝誌への寄稿を行うなど、活動は多岐に渡る。 photography by norihisa kimura(photographer)