the PIXEL MAGAZINE

ARTICLES ARTIST #Muscat 2024.06.14

Muscat 特別インタビュー Part1 謎に包まれた若手ピクセルアーティストの素顔

Interviewer: 坂口元邦 

弱冠20代という若さで、明電舎「電気よ、動詞になれ。」ピクセルアート篇や、漫画『僕のヒーローアカデミア』の公式動画など、さまざまな企業とのコラボ作品を手がける新進気鋭のアーティスト、Muscat氏に独占インタビュー! 可愛らしい女の子のアイコンに秘められた本当の素顔とは−−。

第4回にわたりシブヤピクセルアート主催の坂口元邦が、Muscat氏の魅力を探る本連載。第1回では、Muscat氏の作品に“女の子”のキャラクターが多く描かれている理由や、ピクセルアートとの出合いのきっかけになった学生時代の体験などについて語った。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

他業界からも注目を集める若手アーティスト

坂口 本日はよろしくお願いいたします。以前、the PIXEL MAGAZINEで、渋谷員子さんと対談していただいてから約1年半。
今では、漫画『僕のヒーローアカデミア』の公式動画や、アーティストのDE DE MOUSEさんとShin-Skiさんのユニット「Tiny Griffi」のMVを手がけるなど、多岐にわたって活躍されているMuscatさんに、改めてお話を伺いたくインタビューをお願いしました。
Muscat お久しぶりです。こちらこそよろしくお願いいたします。2021年のシブヤピクセルアートコンテストで、特別賞の「渋谷員子賞」を獲得したことをきっかけに、渋谷さんと対談させていただいてからもう1年半以上が経つんですね。
坂口 対談をされた時期と今を比べて、Muscatさんの中でなにか変化したことなどはありましたか?
Muscat ここ数年、ありがたいことに企業の方からも仕事の依頼をいただくことが多くなり、ドット絵への向き合い方や考え方に変化が生まれてきました。
最近は、自主制作の作品が少なくなっているのですが、やはり自己表現としてドット絵を描く時と、仕事としてドット絵を描く時では、頭の使い方がどこか違うんです。作品を通して自分に求められていることを考え、それに少しでも応えられたらという意識で作品を制作しているので。
坂口 個人としての作品とは違う視点で、届ける先の人のことを考えながら、ドット絵を描いているということですね。
Muscat そうです。なにが求められているのかを考えながらドット絵を描くのは、自主制作の作品とは違った楽しさがあります。
坂口 仕事として作品を制作する場合、自己制作にはない“制約”もあると思うのですが、その辺りはどのように受け止められていますか?
Muscat 自分はまだ経験が浅いので、人々に求められる作品のあり方を学ぶ機会として、ポジティブに受け止めています。
私にとってクライアントワークは、挑戦的な意味合いが強くて。自分ひとりで考えていたら思いつかないような表現なども生まれてくるので、さまざまな人の意見を聞きながら自らの表現の幅を広げられる貴重な経験だと思っています。

“Muscat”の由来と女の子のキャラクター

坂口 そもそもなぜ「Muscat」というアーティスト名になったんですか?
Muscat よく聞かれるんですが、実は自分でも覚えていないんです(笑)中学生くらいの時から、ゲームの主人公のネームを決める時に、「マスカット」という名前を使っていて。それが、いつのまにか自分のハンドルネームになっていたんです。
坂口 果物の“マスカット”ですか?
Muscat そうです。当時はカタカナ表記だったんですけど、途中から英字にするようになって。ネコが好きだから“cat”が入っているMuscatとかでもなく、単に音の響きが良かったからとかだと思います。
坂口 そんな偶然できた名前が、今ではピクセルアートの界隈に広く浸透しているんですから、ご自身にぴったり合うアーティスト名だったんでしょうね。
Muscat 今、SNSなどのアイコンに使っている女の子のキャラクターも、マスカットがモチーフになっているんです。
坂口 以前からアイコンとして使用されていましたよね?
Muscat ピクセルアートを始めた頃から使っていています。自分を表すキャラクターをアイコンにした方が、多くの人に認識していただけると思って。実は年に1回くらいのペースで、少しずつ変化を加えているんです。
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坂口 Muscatさんの作品には、SNSのアイコンのキャラクターのような、可愛らしい女の子が描かれていることが多いと思うのですが、なにか意識されている部分はあるんですか?
Muscat これは男性のキャラクターにも言えることですが、私は外見的な特徴からキャラクターの性格を表現することが多くて。それで、髪型のバリエーションが豊富な女性の方が、内面を表しやすいのでよくモチーフにしています。
あとイラストの描き方の解説本を読むと、女性の描き方に関する説明の方が男性に比べて多いこともあって、ドット絵を始めた頃は女の子のキャラクターばかり練習していたんです。そんなこともあり、自然と女の子をモチーフにした作品が増えていきました。

ピクセルアートとの出会いのきっかけ

坂口 Muscatさんがドット絵に興味を持ったのはいつ頃なんですか?
Muscat 子供の頃からゲームが好きで、なかでも“レトロゲーム”でよく遊んでいたんです。親のスーパーファミコンが家に残っていて、最新のものより安く手に入るゲームソフトが多かったので、よく昔のゲームカセットを買ってプレイしていました。
坂口 20代の人だと少し珍しい気もします。
Muscat 珍しいですかね?(笑)そんな親の影響もあり、昔のゲームソフトをパソコンでプレイできるリメイク版なども遊んでいて。ドット絵に親しみがあったんです。

Muscat 特別インタビュー Part1 謎に包まれた若手ピクセルアーティストの素顔Muscat氏の自宅にある棚には、「スーパーファミコン」や「ゲームボーイアドバンス」など、さまざまなゲーム機のゲームソフトが並んでいる。

坂口 それで自分でもドット絵を描いてみようと思ったんですか?
Muscat そうです。父親が看板広告を制作する仕事をしていたので、IllustratorやPhotoshopが自宅のパソコンに入っていて。初めは写真の加工をするためにPhotoshopを使っていたんですが、そのうちにゲームのキャラクターを見ながら、真似してドット絵を描いてみようと思ったんです。
坂口 お父さんが看板広告の仕事をされていたということですが、Muscatさんの作品の構図や見せ方などは、お父さんの影響も大きかったんですか?
Muscat 父親とはあまり仕事の話をしたことをないのですが、ガラスシートを貼ったりする仕事をしていたので、いつの間にか影響を受けていた部分はあると思います。
坂口 Photoshopでドット絵の真似をし始めたのは、何歳ぐらいの時だったんですか?
Muscat 当時は、まだ中学生くらいだったと思います。特に、イラストを描くのが好きだったとかではないのですが、ドット絵なら絵を描くのが下手でも人の作品を真似しやすいので、趣味のひとつとして遊んでいた感覚です。
その頃は、自分の作品を制作するというより、スマートフォンのホーム画面を自分でカスタマイズしたくて、ホーム画面のアプリのアイコンを好きなキャラクターにするために、その素材づくりにドット絵を打っていました。
坂口 そこから本格的にピクセルアートを描き始めたんですか?
Muscat 本格的にドット絵を描き始めたのは、それから数年が経った2020年の頃です。ちょうどその時期に、自動車の事故でケガを負ってしまい、リハビリ施設に入ることになったんです。
坂口 それは大きな事故だったんですか?
Muscat 地方のニュース番組に取り上げられたくらいの規模でした。でも、事故にあった時の記憶がなくて。病院に運ばれる時に、自分で状況などを話していたらしいのですが、ぼんやりとしか覚えていないんです。はっきりと記憶に残っているのは、ベッドに寝ている状態からで。
その後、埼玉のリハビリ施設で療養することになったんです。リハビリの期間中は、暇な時間にSNSでドット絵の作品を見ていることが多くて。次第にピクセルアートに憧れを持つようになったんです。それで、自分でもドット絵を描いてみたいと思って、自作したものをSNSに投稿するようになりました。
坂口 その頃は、どのような作品を制作していたんですか?
Muscat 当時は、写真を加工してドット絵と現実の風景を合成した作品を制作していました。写真の上にドット絵のキャラクターを描くだけなら、背景を描かなくていいので、絵を描くのが苦手な自分でも取り組みやすくて。
あと、自分にはどこか“逆張り精神”みたいなものがあって(笑)多くの人が描くような“王道”のピクセルアートではなく、自分なりのスタイルで描きたかったんです。それで、写真とドット絵を合成した作品ならあまり見たことがなかったので、自分らしいオリジナリティが出るかなと思って。
坂口 そうやってMuscatさんの独自のスタイルが形成されていったんですね。

  • Muscat
  • 坂口元邦
  • Interviewer: 坂口元邦 the PIXEL代表。SHIBUYA PIXEL ART実行委員会発起人。18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げた。現在は、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークにしながら、「現代の浮世絵」としてのピクセルアートの保管や研究を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想している。