the PIXEL MAGAZINE

ARTICLES ARTIST #Muscat 2024.06.14

Muscat 特別インタビュー Part2 コンテストへの出場と憧れのピクセルアーティスト

Interviewer: 坂口元邦 

弱冠20代という若さで、明電舎「電気よ、動詞になれ。」ピクセルアート篇や、漫画『僕のヒーローアカデミア』の公式動画など、さまざまな企業とのコラボ作品を手がける新進気鋭のアーティスト、Muscat氏に独占インタビュー! 可愛らしい女の子のアイコンに秘められた本当の素顔とは−−。

第2回では、シブヤピクセルアートコンテストで2年連続受賞をとげたMuscat氏に、それぞれの受賞作ができるまでのプロセスやこだわり、強く影響を受けたピクセルアーティストについて聞いてみた。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

SNSで知ったシブヤピクセルアート

坂口 Muscatさんは、2021年と2022年のシブヤピクセルアートコンテストで、どちらも賞を獲得されていますが、シブヤピクセルアートとの出合いのきっかけはなんだったんですか?
Muscat 2020年に交通事故でリハビリ施設に入っていて、その時にSNSでピクセルアートの作品をよく見ていたんです。そしたら、ある日から「#シブヤピクセルアート」のハッシュタグが付いた投稿を多く目にするようになって。それで調べてみたら、シブヤピクセルアートコンテストに応募された作品だってわかったんです。
坂口 2020年のコンテストには、なにか作品を応募していただきましたっけ?
Muscat 当時はまだドット絵を描き始めて3ヶ月くらいしか経っていなかったので、あまり自信がなくて作品の応募はしていなかったんです。でも、実は2020年のシブヤピクセルアートコンテストの会場には行っていて。埼玉にリハビリ施設があったので、コンテストの様子を見に行きました。
坂口 当時は、コロナ禍の真っ只中でもあったので、来ていただくには相当な勇気が必要だったと思います。実際にコンテストの会場を見てどうでした?
Muscat コンテストのために制作されたオリジナルの作品が多かったのが印象的でした。会場でさまざまなアーティストの作品を見ているうちに、「次は見る側ではなくて、参加する側になりたい!」って思うようになって。
坂口 2021年は、『急がなくても、いつか会えるよ / The day we can meet again』という作品で賞を獲得されていますが、作品の構想などはどのように考えられたんですか?

Muscat 特別インタビュー Part2 コンテストへの出場と憧れのピクセルアーティスト『急がなくても、いつか会えるよ / The day we can meet again』(2021)

Muscat 確かコンテストのテーマが発表されてから、全体のイメージを考え始めました。
坂口 2021年のテーマは、「シブヤ」「花火」「乗り物」「虹」「空飛ぶ生き物」でしたね。
Muscat それで、作品の舞台を渋谷のハチ公前広場にして、それぞれのシーンに「虹」や「花火」などのモチーフを入れたんです。
坂口 季節が春夏秋冬の順に変わるにつれて、ストーリーも繋がりを持ちながら進んでいく表現が印象的でした。この作品で、特別賞の渋谷員子賞とmae賞を獲得したんですよね?
Muscat そうです。まさか渋谷さんから賞をいただけるとは思っておらず、対談をさせていただくことになり驚きました。

テーマと向き合った2回目の受賞作

坂口 2022年も「まどろむ」という作品で、優秀賞のKlas Benjaminsson賞を獲得されていますよね。この時もコンテストのテーマから全体のイメージを考えたんですか?

Muscat 特別インタビュー Part2 コンテストへの出場と憧れのピクセルアーティスト『まどろむ』(2022)

Muscat 2022年のテーマが「シブヤ」「生まれたて」「ゲームオーバー」「歌舞伎」「バナナ」だったのですが、そのすべての要素を作品に網羅しようと思ったんです。
坂口 確かに、渋谷駅が見える電車の窓がゲームの画面に繋がり、バナナのアイテムやゲームオーバーの表示などの要素も取り入れられていますね。
Muscat あと、渋谷駅の看板がニワトリとタマゴになっていて、それは「生まれたて」を表しています。電車内の広告も歌舞伎の面になっていて。
坂口 反対側の広告は、2021年にコンテストで受賞された『急がなくても、いつか会えるよ / The day we can meet again』になっていて。そういった点も、審査員が高く評価していたのを覚えています。
Muscat そうだったんですね。
坂口 コンテストのテーマに忠実に向き合っていて、過去の作品との時間的な繋がりも組み込まれている。そういった点が審査員の心を動かしたのだと思います。2022年のコンテストは素晴らしい作品が多くて、審査員の議論も白熱したため結論を出すのが大変でした。
Muscat その議論に自分の作品が関わっていただけでも、細かいところをこだわった甲斐がありました。
坂口 2021年の『急がなくても、いつか会えるよ / The day we can meet again』と、2022年の『まどろむ』とでは作品の取り組み方で、なにか違いなどはあったんですか?
Muscat 2022年は、Adobe After Effectを作品制作に使い始めた頃だったので、練習もかねて動きの大きな作品にしたのを覚えています。あと、ゲームの要素を取り入れた作品を制作するのにハマっていた時期でもあったので、シューティングゲームっぽい演出も加えてみました。

Muscat 特別インタビュー Part2 コンテストへの出場と憧れのピクセルアーティストシブヤピクセルアートコンテストで受賞者に贈られたトロフィー。

坂口 女性のキャラクターの髪の毛や足にはあまり影などが入っていないので、全体的にフラットで平面的に見える一方で、電車の手すりには光の反射や微妙な曲がり具合が緻密に描写されていて、座席シートのテクスチャーの質感なども再現されている。人と物を対比して表現することで、作品全体にコントラストのようなものが際立つ面白さがありますね。
Muscat そういった細かい箇所に気づいてもらえると嬉しいです。作品へのこだわりって、基本的に自己満足だと思っているので(笑)
テクスチャーの質感や遠近感などの表現は、何度も作品を描きながら経験を積み重ねることでできるようになってくるので、今になって過去の作品と比べると少しずつできるようになっていますね。

憧れのアーティストはUPC

坂口 Muscatさんが特に影響を受けたアーティストの方はいるんですか?
Muscat 絵作りに関しては、圧倒的にUPC(※1)の方々の影響が大きいです。YouTubeの「水曜ドット打つデイ」の配信も聞いていて、いつもドット絵の描き方を勉強していました。風景を描く時にパースを使い始めたのも、UPCの方々の作品を見てからです。
※1)ピクセルアーティスト集団「Ultimate Pixel Crew」の略称。APO+氏、モトクロス斉藤氏、せたも氏の3名から構成されるピクセルアート制作チーム。
坂口 確かにMuscatさんの作品は、どこかUPCの方々の作品に似ていますね。
Muscat いい意味でドット絵っぽくないというか。自分はレトロゲームが好きでピクセルアートを始めたので、ドット絵には少し荒っぽい表現のイメージがあったんです。もちろんゲームによって、さまざまなスタイルがあるのですが。
でも、UPCの方々の作品を見た時に、その繊細なタッチや空間の演出にびっくりして、いつしか憧れを持つようになりました。もちろん、今でもピクセルアーティストとして非常に尊敬しています。
坂口 UCPの方々は、空間全体の演出や構造づくりが見事ですよね。空間にキャラクターを合わせると、自然とストーリーが流れだすような。Muscatさんの空間の演出や立体感だけでなく、アニメーションの効果的な使い方なども、UPCさんからの影響なんですか?
Muscat そうですね。あえて輪郭線を描かない表現など、ドット絵のスタイルをそのまま取り入れさせていただいています。
坂口 そんなところにも影響があったなんて初めて知りました。

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  • 坂口元邦
  • Interviewer: 坂口元邦 the PIXEL代表。SHIBUYA PIXEL ART実行委員会発起人。18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げた。現在は、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークにしながら、「現代の浮世絵」としてのピクセルアートの保管や研究を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想している。