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ARTICLES ARTIST #Muscat 2024.06.14

Muscat 特別インタビュー Part4 人々の期待に応えることが最大の原動力

Interviewer: 坂口元邦 

弱冠20代という若さで、明電舎「電気よ、動詞になれ。」ピクセルアート篇や、漫画『僕のヒーローアカデミア』の公式動画など、さまざまな企業とのコラボ作品を手がける新進気鋭のアーティスト、Muscat氏に独占インタビュー! 可愛らしい女の子のアイコンに秘められた本当の素顔とは−−。

ついに最終回を迎えた本連載。第4回では、さまざまな企業やアーティストからの依頼が舞い込む、Muscat氏が考える“クライアントワーク”の意義や、新しい作品やプロジェクトに挑戦し続ける原動力を深堀りした。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

初の長時間アニメーションへの挑戦

坂口 最近だと、週刊少年ジャンプの漫画『僕のヒーローアカデミア』の公式動画がYouTubeで話題になっていましたね。
Muscat 『僕のヒーローアカデミア』の39巻の発売に合わせて公開された1時間の作業用BGM動画です。漫画の本編とは別のIFストーリーとして、麗日お茶子とトガヒミコというキャラクターが仲良く遊んでいるところを描きました。

『僕のヒーローアカデミア』ベストフレンドBGM

坂口 特にこだわった部分はありますか?
Muscat 動画を春夏秋冬の4つのシーンに分けていて、最初と最後のシーンの場所が同じ公園になっているんです。でも、最初と最後では2人が成長しているので、時間の流れを感じさせる演出になっていて。
あと、長尺の動画を制作するのは初めてだったのですが、作業用BGMらしい細工も取り入れていて。例えば、最後のシーンでは、公園にある時計の針が少しずつ進んでいたり、雲がゆっくりと流れていたり、あと途中から雪も降ったりしていて、同じような場面の中に小さな変化を加えているんです。
坂口 確かによく見ないとわからない変化ですね。夏のシーンでも、木漏れ日がわずかに揺れていて。かなり手の込んだ作品だと思います。
Muscat 動画のコメントを読んでいたら、「秒針が動いてる!」とか「雪が降ってる!」など、小さな変化に気づいた人も多くいたようで。自分の作品を丁寧に見ていただけて本当に嬉しかったです。

2024年3月に公開された漫画『呪術廻戦』の作業用BGM動画『ドットアニメーション「廻送電車」』

大切なのは熱い心を受け止めること

坂口 このアニメーションも企業の方からの依頼で制作されたんですか?
Muscat ジャンプチャンネルの動画を担当されている方からお声がけをいただいて、全体の構成やストーリーの指示を受けながら制作しました。その頃は、ちょうど「Tiny Griffi」のMVも手がけていたので、他の仕事の依頼は一時的に断っていたんです。
でも、ジャンプチャンネルの担当の方から、どうしても同時期に公開したいとお願いされて。状況がわかっているうえで、熱心にご依頼いただいたことが嬉しくて、その期待に応えたくて受けることにしたんです。
坂口 そういうマインドセットって大事ですよね。仕事を依頼してくれる人は、さまざまな人の中から吟味して自分を選んでくれている。断られるかもしれないとハラハラしながら声をかけてくれた人の心を、しっかりと受け止めて応えられるかで、その後の選択肢も広がってくると思います。
Muscat 私は、仕事をするうえで「期待に応えたい」という気持ちが、創作活動をする原動力になっているんです。もちろん、多くの人に自分の作品を見てもらいたいという想いもあるのですが、やはり誰かの力になれるって一番嬉しいことですよね。
坂口 仕事をするうえで、最も大切なことだと思います。Muscatさんのお話を聞いていて、いろいろな方が仕事を依頼する理由がわかった気がしました。今後もまた仕事の依頼が多く舞い込んできそうですね。
Muscat ありがとうございます。これからも頑張ろうと思います!

Muscat 特別インタビュー Part4 人々の期待に応えることが最大の原動力ドット絵を描く時は、線の調整などがしやすいペンタブレットをよく使用しているMuscat氏。

坂口 対談でも話されていましたが、これからやってみたい仕事はあるんですか?
Muscat やはりゲームの制作はやってみたいですね。でも、どんな仕事でも自分の力になるので、ご依頼をいただける喜びを原動力に、さまざまな仕事をしてみたいです。
また、最近は仕事でドット絵を描くことが多くて、自主制作の作品にかける時間が減ってきているので、もう少し器用に時間を配分できるようになりたいです。他のアーティストの方々を見ていると、個人としての作品を発表しながら、クライアントワークも両立されている方が多いので、そのやり方などを見習っていきたいですね。

Muscatにとってピクセルとは?

坂口 最後に、Muscatさんにとって“ピクセル”とはなんですか?
Muscat 私にとってピクセルは“自分の一部”です。交通事故で受けたケガの後遺症で、筆やペンを使ったアナログな表現方法が上手くできないこともあって。線を自由にコントロールできるドット絵は、自分の身体や嗜好にぴったりと合っていたんです。まさに運命的な出合いでした。
もともとレトロゲームが好きでドット絵を始めたのですが、他の表現方法だったら今みたいに仕事の依頼はいただけてなかったと思います。選んだのが“ピクセルアート”だったからこそ、今の自分があるのではないでしょうか。なので、私にとってピクセルは、もはやツールではなく、自分と表裏一体の関係にあります。

Muscat 特別インタビュー Part4 人々の期待に応えることが最大の原動力


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  • Interviewer: 坂口元邦 the PIXEL代表。SHIBUYA PIXEL ART実行委員会発起人。18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げた。現在は、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークにしながら、「現代の浮世絵」としてのピクセルアートの保管や研究を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想している。