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#Shinji Murakami
2024.10.11
Shinji Murakami 特別インタビュー Part1 SPA2024のキービジュアル『Floralroids』ができるまで
Interviewer: 坂本遼󠄁佑
NYを拠点に世界で活躍する現代アーティストのShinji Murakami氏に特別インタビュー! 20代からストリートアーティストとしてグラフィティ作品の制作を始め、現在は8bitゲームをベースにしたアート作品でも知られる今注目のアーティストが語った、ビデオゲームの歴史をポップアートにする意味とは−−。
第3回にわたり the PIXEL magazine 編集長の坂本遼󠄁佑が、現代アーティストのShinji Murakami氏の魅力を探る本連載。第1回では、渋谷のMIYASHITA PARKにあるカフェ「VALLEY PARK STAND」で、SHIBUYA PIXEL ART 2024のキービジュアルになったゲーム作品『Floralroids』の誕生秘話について聞いてみた。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)
sequence MIYASHITA PARKとのコラボ企画第2弾
坂本 | 今回は、渋谷のMIYASHITA PARKにあるカフェ「VALLEY PARK STAND」で、現代アーティストのShinji Murakamiに、インタビューをさせていただいています。本日は、よろしくお願いします。 |
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Shinji Murakami | よろしくお願いします。 |
坂本 | 今、VALLEY PARK STANDでは、SHIBUYA PIXEL ART 2024の企画のひとつとして、「BIT VALLEY, BIT FLOWERS by Shinji Murakami」という展示が行われていますね。 |
Shinji Murakami | 昨年、LED彫刻とゲーム作品の展示をした「Back to the Classics」という企画の第2弾として、SHIBUYA PIXEL ART 2024のキービジュアルにもなった『Floralroids』(2024)のゲーム作品を展示しています。 |
坂本 | 実際にプレイできるゲームの実機だけでなく、ゲーム内に出てくる“花”のパネルが店内に飾られていて、入り口には3Dプリンターで製作されたオリジナルオブジェなども販売されていました。 |
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Shinji Murakami | 実は、カフェ内に設置されているゲーム機を使わなくても、エレベーター横やホテルの客室に置かれているステッカーのQRコードをスマホで読み込めば、ARで『Floralroids』をプレイすることもできるんです。 |
坂本 | 遊び心満載な展示イベントということですね。前回の「Back to the Classics」では、どのような作品を展示されたんですか? |
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Shinji Murakami | 前回は、巨大なLEDパネルに“スマイリー”の5つの表情を映した彫刻作品を展示しました。ちょうどゲームのプログラミングを勉強していた時期だったので、自分でコードを入力した『Emoticons』というゲーム作品も展示して。 |
坂本 | スマイリーの5つの表情は、『Emoticons』に出てくる要素なんですか? |
Shinji Murakami | そうです。画面に表示されるスマイリーが、壁に当たると表情を変える仕様になっていて。表情が変わるたびに『エリーゼのために』という曲の1音が鳴る設定にしました。 |
坂本 | なぜ“スマイリー”をゲーム内で使用しようと思ったんですか? |
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Shinji Murakami | 欧米には、エモティコン(※1)という絵文字の文化があるんです。ある時、普通のスマイリーの立体作品を作っていた際に、向きを横にしたらそのエモティコンと同じ形になるなと思って。 |
大きなスマイリーの画像を横向きにしてパネルに表示させたら、オリジナルのエモティコンになるのではと考えたんです。それで、「ATARI 2600」(※2)という家庭用ゲーム機の要素を加えて、アート作品としてゲームソフトを開発しました。 | |
※1)文字や記号を組み合わせて表情を表現したもの。記号ではなく絵として単独で表現された絵文字。「:)」や「:-/」など。 ※2)アメリカのATARI社が1977年にリリースした家庭用ゲーム機。発売当初は、「Atari VCS」の通称で親しまれていた。 |
坂本 | 確かに、スマイリーのマークを横向きにするだけで、欧米のエモティコンのイメージになりますね。 |
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Shinji Murakami | 自分の好きなモチーフのひとつとして、今でもよくこの“スマイリー”を作品内で使用しています。 |
SPA2024のキービジュアル『Floralroids』ができるまで
坂本 | SHIBUYA PIXEL ART 2024のキービジュアルに、Shinji Murakamiの『Floralroids』のアイコンが使用されていますが、このゲーム作品はどのようにして誕生したのでしょうか? |
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Shinji Murakami | もともとは、SHIBUYA PIXEL ART 2024の企画のひとつとして、巨大なLEDパネルで『Floralroids』をプレイできるという展示を予定していたんです。でも、いろいろと問題があって実現することができなくて。 |
SHIBUYA PIXEL ARTの主催である坂口元邦さんから、ゲームのデザインだけでもキービジュアルとして使用できないかと相談を受けたんです。正直、ゲーム作品がキービジュアルになるか不安だったのですが、デザイナーの奥山太貴さんの協力もあって、イベント向けのビジュアルにすることができました。 | |
坂本 | 最初は、大画面でプレイできるゲーム作品として製作していたんですね。 |
Shinji Murakami | 以前、NYで「Raspberry Pi」という小型コンピューターにエミュレーターをインストールして、大型スクリーンでゲームをプレイできるアート作品を展示したんです。ATARI 2600のジョイスティックを使って、Bluetoothでキャラクターを操作できるようにして。 |
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そんな大型ゲームの展示を日本でもできないかと思ったのですが、実際にゲーム用の大型スクリーンをカフェに設置するとなると、さまざまな課題を乗り越えないといけないことがわかりました。それで、ゲームのモチーフだけでもキービジュアルに使用することにしたんです。 | |
坂本 | そこから「BIT VALLEY, BIT FLOWERS」というテーマには、どのように合わせていったんですか? |
Shinji Murakami | 主催の坂口さんと打ち合わせを重ねるうちに、原作である『Asteroids』(※3)というゲームの“隕石”を花に変えるのなら、プレイヤーである“宇宙船”もジョウロにしようという話になったんです。 |
それで、大きな花の標的を打つたび小さな花に増えていく仕様に変えて。本来は、戦闘機で隕石を撃ち落とすゲームだったものを、ジョウロで花を増やすストーリーに変更することで、「平和とは一体なにか」を問いただす内容にしたんです。 | |
※3)アメリカのATARI社が1979年にリリースしたアーケードゲーム。宇宙船で小惑星を撃ち落とすシューティングゲーム。 |
『Floralroids』の“花”が凸凹している意外な理由
坂本 | 家庭用ゲーム機「ATARI 2600」には、対応するゲームソフトが多く開発されていましたが、そのなかで『Asteroids』というゲームを題材にした理由はなんだったんですか? |
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Shinji Murakami | 実は、以前からゲーム作品を制作するための“アイデア帳”を作っていたんです。過去のゲームソフトのスクリーンショットを集めて、インターネット上のファイルにまとめていて。そこから作品のインスピレーションを得ようと見ていた時、ATARI 2600の『Asteroids』が目に止まったんです。 |
坂本 | まさにゲーム制作のための“スクラップブック”ですね。ATARI 2600の『Asteroids』は、どんなゲームだったんですか? |
Shinji Murakami | もともとアーケードゲームだった『Asteroids』は、アーケードゲーム全盛期の最初のヒット作であり、ゲーム筐体が70000台以上も売れた人気作。1980年代には、ATARI社が家庭用ゲーム機器にも移植しだし、ATARI 2600向けに開発されたゲームソフトは300万個以上も普及しました。 |
坂本 | ゲーム史に残る名作だったんですね。 |
Shinji Murakami | そんな『Asteroids』に出てくる“隕石”を花に変えたら、今回のSHIBUYA PIXEL ART 2024のテーマに合うし、キービジュアルとしての見た目も可愛いのではと思ったんです。 |
坂本 | 『Floralroids』のプログラミングは、Shinji Murakamiさんがご自身でされたんですか? |
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Shinji Murakami | 今回は、“宇宙船”や“隕石”のデザインを変えるだけだったので、自分でもとのゲームソフトのプログラミングを編集しました。 |
坂本 | キービジュアルの動画を一時停止すると、“ジョウロ”と“花”のスプライトが交互に表示されるようになっていますが、どちらかのイラストしか表示されない仕様になっているんですか? |
Shinji Murakami | それは、もともとのプログラミングを反映しているからです。ひとつのラインに2つのスプライトしか表示できないので、自然と表示できるスプライトを分ける必要があったんです。 |
坂本 | ゲーム上の制約のせいで、交互でしか表示できなかったんですね。 |
Shinji Murakami | 他にも、キービジュアルの“花”をもっと綺麗な形にしようと思ったのですが、オリジナルの隕石のコードがバグなのか歪むように設定されているので、どうしても花の形のラインに凹凸が出てきてしまうんです。 |
でも、それもクラシックなゲームの味わいのひとつかなと思い、そのままの形でゲーム作品にすることにしました。 |
キービジュアルとして求められる要素とはなにか
坂本 | 今回、Shinji Murakamiさんの作品をSHIBUYA PIXEL ART 2024のキービジュアルに使用させていますが、実際に『Floralroids』をモチーフにしたポスターやフライヤーを見た時、どのような感想を持ちましたか? |
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Shinji Murakami | ぼくは、これまで24年ぐらい8bitのゲームをテーマに、アート作品を制作し続けてきましたが、自分でも癖のある作風だという自覚はあるんです。なので、ピクセルアートに興味を持った10〜20代の人たちが、自分の作品をメインストリームだと勘違するのではないかと少し不安でした。 |
もっと若手のアーティストにイラストを製作してもらった方が、イベントのコンセプトにも合っているのではないかと思って。しかし、主催の坂口さんからキービジュアルのご提案いただき、デザイナーの奥山さんからイベントグッズの完成図を見せたもらった時、すごく可愛い出来栄えになっていたんです。 | |
坂本 | 自分は、初めてShinji Murakamiさんの『Floralroids』を見た時、キービジュアルにぴったりな作品だなと思いました。最近のピクセルアートのトレンドに合わせるのではなく、かつてのゲームカルチャーの雰囲気を全面に出していて。いい意味で“違和感”のあるイラストだと思いました。 |
キービジュアルとして“収まりのいい”作品だと、見ている側にはしっくりくるのですが、どうしても記憶に残らないところがあって。逆に「なぜ今の時代にレトロゲームなのだろう?」と思わせるくらいの違和感があった方が、キービジュアルとして意味があると感じたんです。 | |
Shinji Murakami | ありがとうございます。制作に関わっていただいたスタッフの皆さんのおかげです! |
- Shinji Murakami
- Interviewer: 坂本遼󠄁佑 the PIXEL magazine 編集長。東京都練馬区出身。大学ではアメリカの宗教哲学を専攻。卒業後は、出版社・幻冬舎に入社し、男性向け雑誌『GOETHE』の編集や、書籍の編集やプロモーションに携わる。2023年にフリーランスとして独立し、現在はエディター兼ライターとして活動している。