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#たかくらかずき
2024.09.27
たかくらかずき 特別インタビュー Part1 “壺”の文化に見る東洋文化の源流
Interviewer: 坂口元邦
東洋思想や日本仏教を軸に作品制作を行う現代美術家のたかくらかずき氏に特別インタビュー! HOTEL ANTEROOM KYOTOで開催されているart bit展で、出展作品に込めた想いやこだわり、ピクセルアートを始めたきっかけ、そして東洋美術とゲームの関連性について聞いてみた。
第4回にわたりシブヤピクセルアート主催の坂口元邦が、現代美術家のたかくらかずき氏の魅力を探る本連載。第1回では、たかくら氏が考えるアートとインディーゲームの関係性や、昨年から“壺”をテーマにしたシリーズ作品を制作している理由、今年のart bit展の作品に対する想いについて語った。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)
東洋美術の視点で見るインディーゲーム
坂口 | 今回は、京都のホテル「HOTEL ANTEROOM KYOTO」で、現代美術家のたかくらかずきさんに、インタビューをさせていただいています。本日はよろしくお願いします。 |
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たかくらかずき | よろしくお願いします。 |
坂口 | 今、アンテルーム京都では、企画展「art bit - Contemporary Art & Indie Game Culture #4」が開催されていますね。 |
たかくらかずき | 現代アートとインディーゲームを組み合わせた展示会です。インディーゲームの祭典「BitSummit」の開催に合わせて企画されたもので、ぼくもアーティストのひとりとして参加しています。今年は、作品の展示だけでなくメインビジュアルも担当しました。 |
坂口 | 第4回のテーマは「2D or not 2D」ということですが、平面(2D)表現に関してなにか意識されたことはありますか? |
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たかくらかずき | ぼくはチームラボの代表を務める猪子寿之さん(※1)が提唱した、「超主観空間」という概念に興味を持っています。これは東洋美術とビデオゲームについて考える時に、非常に興味深い繋がりを見出すことができる考え方です。 |
しかし、“超主観空間”をコンセプトにしているチームラボは、アート界で無視されていることが多い気がしていて。そこに大きな問題を感じていました。 | |
※1)日本の実業家。2001年にアートコレクティブ「チームラボ」を設立し、2018年には「チームラボボーダレス」と「チームラボプラネッツ」を開館。世界各地でアート展を開催している。 | |
坂口 | “超主観空間”とはどういうことですか? |
たかくらかずき | まずは、具象でありながら“透視図法”ではない描かれ方がされている作品です。“透視図法”とは、そもそも教会や彫刻、舞台などの背景として“そこに本物があるかのように”描かれることを前提とした騙し絵的な技法で。 |
ある視点から見た時に、空間と絵画の境界線が消失してしまうような、圧倒的なリアルさを発揮できる反面、鑑賞者や空間とのベストな関係性が限定的になっています。 | |
坂口 | 西洋美術は、カメラのレンズから覗いた視点ということですね。 |
たかくらかずき | そうです。一方で、山水画などの古典的東洋美術ではまず、“本物そっくりに見せる”という要素よりも“象徴化”や“見立て”の要素の方が強い。かなり概念的な絵画なんです。 |
そのおかげで、特定の視点からの鑑賞に特化するというような“だまし絵的”な制限が存在せず、むしろ絵画が絵画として空間そのものと溶け合うような効果を生み出します。絵が“絵としての風景”そのものになってしまう。空間に“中心”がないので、自由な空間認識が可能になるんです。 | |
例えば、日本の伝統的な絵画作品である“襖絵”などは、奥から手前に向かって複数の平面的な“レイヤー”を重ねている状態なので、鑑賞者の移動に合わせてどこまでも横方向に世界を繋げていくことができます。 | |
坂口 | その”超主観空間”とゲームは、どのように関係しているんでしょうか? |
たかくらかずき | 『スーパーマリオ』や『星のカービィ』の世界って、画面上の背景が“横スクロール”で動きますよね。これは山水画や襖絵にあるような、東洋的視点が影響したものだと考えています。そんな東洋美術とゲームの関連性をより深く掘り下げたいと思い、今回のart bit展に参加させていただきました。 |
“壺”に刻まれた東洋文化の源流
坂口 | 多くのゲームクリエイターやピクセルアーティストが参加されているart bit展ですが、たかくらさんはどのような作品を展示されているのでしょうか? |
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たかくらかずき | 立体作品の『百万回生きた壺』(2023)のほか、絵画作品の『涅槃の壺』(2023)と『愛染燕子花の壺A・B』(2023)を展示しています。昨年から“壺”をテーマに作品を制作していて、そのシリーズのひとつとして出展しました。 |
坂口 | “壺”をテーマにした理由はなんですか? |
たかくらかずき | 昨年、台湾を訪れた時、台北の国立故宮博物館に行ってみたんです。国立故宮博物館には、古くからの中国大陸文明の仏像や焼き物が、たくさん展示されていました。 |
中国大陸の山水画などの文化は、日本美術に大きな影響を与えている。例えば、九州で発展した“有田焼”の図柄は、中国絵画のような派手なものが多い。壺の絵柄になって大陸や朝鮮半島から日本にいろいろな絵が渡ってきたと考えると、とても面白いなと思ったんです。焼き物や壺は中に物を入れるだけではなく、表面に絵を入れて大陸から運ばれてきたと考えました。 | |
坂口 | 立体作品の『百万回生きた壺』は、どのような作品なんですか? |
たかくらかずき | 『百万回生きた壺』は、平面に組んだブロックに絵柄をUV印刷して、バラバラにしてから壺の形に組み立て直しました。壺の中にはプロジェクターが設置されていて、天井にこの壺を地面に叩きつけて割る映像がループで流れるんです。 |
坂口 | せっかく組み立てた壺を地面に叩きつけて割るんですか? |
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たかくらかずき | 陶器の壺だったら一度割れてしまうと割れ目が残ってしまう。でも、ブロックの壺なら、何度でも組み立て直せばもと通りに復元できる。これは“デジタルデータ”に近い構造だと思ったんです。デジタルデータというのは、復元や破壊といった時間の感覚を操作可能なものにするという特徴があると思うんです。 |
坂口 | 確かに“再現性”という点では共通しています。 |
たかくらかずき | あとは、中国の現代美術家であるアイ・ウェイウェイさん(※2)の『漢時代の壷を落とす』という作品にもかけていて、壺を地面に叩きつけて割るシーンをあえて映像として取り入れてみました。 |
※2)艾 未未(Ai Weiwei)。中国出身の現代美術家。表現領域は、彫刻、建築、キュレーティング、写真、映像など多岐にわたる。現在は、思想家や批評家としても活動している。 | |
坂口 | 立体作品から平面の映像が映し出される点も、今回の「2D or not 2D」というテーマにぴったりと合っている気がします。 |
- たかくらかずき
- Interviewer: 坂口元邦 the PIXEL代表。SHIBUYA PIXEL ART実行委員会発起人。18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げた。現在は、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークにしながら、「現代の浮世絵」としてのピクセルアートの保管や研究を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想している。