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ARTICLES ARTIST #たかくらかずき 2024.09.27

たかくらかずき 特別インタビュー Part2 2Dを超えたデジタルアート表現の可能性

Interviewer: 坂口元邦 

東洋思想や日本仏教を軸に作品制作を行う現代美術家のたかくらかずき氏に特別インタビュー! HOTEL ANTEROOM KYOTOで開催されているart bit展で、出展作品に込めた想いやこだわり、ピクセルアートを始めたきっかけ、そして東洋美術とゲームの関連性について聞いてみた。

HOTEL ANTEROOM KYOTOで、アートとインディーゲームの関係性について語った第1回。続く第2回では、デジタルデータをキャンバス画にする“デジタル絵画”の意義や、2018年に発表されたゲーム『摩尼遊戯TOKOYO』のアーケード版の制作秘話について深掘りしてみた。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

生成AIの個性を絵画で表現するには

坂口 今回、HOTEL ANTEROOM KYOTOで開催されているart bit展には、絵画作品の『涅槃の壺』と『愛染燕子花の壺A・B』という作品も展示されています。この2つの作品はどのようなコンセプトで制作されたんですか?
たかくらかずき 『愛染燕子花の壺A・B』は、2枚のキャンバス画として展示されていますが、実は『涅槃の壺』にも、もう1枚のキャンバス画が存在します。会場のスペースの関係で展示することができなかったのですが、まったく同じ要素を異なる構図や配置で作品にしていて。

たかくらかずき 特別インタビュー Part2 2Dを超えたデジタルアート表現の可能性『愛染燕子花の壺A』(2023)  制作協力/サンエムカラー・ガミテック

坂口 同じ要素を使うことには、なにか意味があるんですか?
たかくらかずき 生成AIを使ってイラストを作成する時、同じ要素のものが4つのパターンになって出てくるじゃないですか。今回の作品は生成AIを使っていないのですが、そんな自動的に作られる複数のパターンを、あえて“手動”で再現できないかなと思い。複数のキャンバス画を並べることで表現してみました。
坂口 それぞれの要素はどのように決めたんですか?
たかくらかずき “壺”というテーマは統一していたので、壺に描かれている柄として、尾形光琳の『燕子花』だったり『涅槃図』みたいなモチーフを持ってきました。また、壺や着物には様々な紋様や柄が欠かせないと思うのですが、それを現代的な文様や記号に置き換えたらなんだろうと考えて、絵文字を入れることにしました。
坂口 手書きの絵画のようにも見えますが、これはキャンバスに印刷しているんですか?
たかくらかずき 京都の印刷会社であるサンエムカラーさんの印刷技術で、キャンバスにUV樹脂を施していて。ぼくはこれを“デジタルペインティング”と呼んでいます。
技法はUVによる凹凸印刷なのですが、あくまでデジタルなペインティングであり、ユニーク作品だと主張することにしていて。
坂口 ユニーク作品だと主張する意義はなんですか?
たかくらかずき アンディ・ウォーホルなどのポップアートのムーブメント以降、印刷物やシルクスクリーンが大量生産のアイコンとしてのみ認識されてしまい、そうではない意図でデジタル作品を作っている人たちは、どうしたら作品の価値を“印刷である”ことから“デジタルである”ことにシフトできるのか、さまざまな試行錯誤を繰り返してきました。
例えば、印刷物に上から手書きで加筆することでユニーク作品であることを担保する方法があったり、「スーパーフラット」のように、まるで印刷のようなツルツルなのに手描きである、みたいな逆転的な価値の出し方があったり。
坂口 同じものを大量に作れてしまう印刷物やシルクスクリーンは、作品のユニーク性をどう担保するかが大きな課題になってきますよね。
たかくらかずき しかし、現代ではデジタルと凹凸印刷でアナログペインティングのような、さまざまなテクスチャが作れるし、NFTと紐づけることで、ユニークなデジタル作品であることも担保できる。音楽における“DTM”が認められた時のように、アートにおいてもデジタルペインティングが“ユニークなピース”として扱われる時代が来ているんじゃないかと思っています。

たかくらかずき 特別インタビュー Part2 2Dを超えたデジタルアート表現の可能性『愛染燕子花の壺B』(2023) 制作協力/サンエムカラー・ガミテック

坂口 『愛染燕子花の壺A・B』には、金箔のようなものも見えますが、これも印刷技術なんでしょうか?
たかくらかずき それはUV印刷をした後に、上から真鍮箔を貼っています。ぼくはPhotoshop上での作業以外は、基本的に業者に外注するようにしていて。キャンバスを張ったり真鍮箔を貼ったりする作業もすべて専門の方にお願いしています。デジタルデータだけを自分で作るというスタンスです。

2Dを超えた“デジタル絵画”の表現技法

坂口 作品全体の凸凹とした立体感は、どのようにデータ化しているんですか?
たかくらかずき まずカラーで描いたイラストをモノクロに変換して、手前にあるものほど黒色が強くなるグラデーションにするんです。そして、立体的に浮き上がる部分だけ何度も黒色のインクを重ねていく。すると真っ黒のキャンバス画が出来上がるので、最後に上からそれぞれの部分の色を塗れば完成です。無塗装のプラモデルに塗料で色を付ける感覚に似ていますね。なので、ぼくはこのやり方を“絵画のプラモ”と呼んでいます。
でも、実際に印刷してみないと、どのような出来栄えになるか想像でしかわからない。なので、手書きの筆致のような部分は、凸凹をコントロールするのが難しくて。陶芸家が焼き物を作る時の気分で、試作を重ねながら感覚を掴みました。
坂口 手書きの絵画にはない、デジタルアートならではの作業ですね。
たかくらかずき 「印刷だから量産できる」とか「印刷だから手間がかからない」といった、プリント作品のネガティブなイメージを覆したくて。印刷にしかない表現や技法を模索しています。最近のUV印刷などに使われているインクは、絵画に使われる絵の具と同じくらいの耐久年数のものもあります。そんな印刷技術の進歩も、デジタル作品の価値を高めてくれています。
坂口 そういった印刷に対するこだわりは、いつ頃から持たれていたんですか?
たかくらかずき 2020年以降です。最初は、映像作品を中心としていましたが、次第にデジタル・ペインティング作品もつくるようになりました。作ることを意識しながら絵画を鑑賞していくと、絵を美術館などで見る時、色や形だけでなく“質感"という情報も視覚から拾っているということが重要だと思いました。

たかくらかずき 特別インタビュー Part2 2Dを超えたデジタルアート表現の可能性『涅槃の壺』(2003) 制作協力/サンエムカラー・ガミテック

坂口 作品の質感を想像するんですか?
たかくらかずき そうです。鑑賞者が作品を見た時に、同時にその絵画に触っている様子を想像する。それは作者の筆跡を動的になぞることとも関連している。そんな人間の“質感の想像力”を掻き立てるのも、実物のキャンバス画ならではの要素であり、画像や映像作品との大きな違いでもあります。
坂口 よくたかくらさんは、デジタルデータとは“魂”であり、そこから生まれる造形物は“肉体”であると仰っている。つまり、データという“魂”に直接触ることはできないが、造形作品という“肉体”があるからこそ、物理的に触れることができるということですね。
たかくらかずき 絵画の世界ではそうです。でも、これがゲームの世界になると、私たちの触覚は“コントローラー”になり、キャラクターを操作することで触感を想像することができる。まさに、ゲーム機のコントローラーが、画面の向こう側にある“魂”と、我々の“感覚”を繋ぐ媒体になっているということです。
坂口 ひとえに“質感”と言っても奥が深いですね。

仏教の世界観を2Dで表現したゲーム作品

坂口 アンテルーム京都のフロント横には、たかくらさんの作品『摩尼遊戯TOKOYO』のアーケード筐体も設置されていますね。
たかくらかずき これは、仏教の世界観を題材にした縦スクロールの2Dシューティングゲームで、100円を入れれば実際にゲームをプレイすることができます。
坂口 シューティングゲームで、仏教の世界観を表現したんですか?
たかくらかずき そうです。プレイヤーが“僧侶”になって、木魚の機体に乗り込んで六道巡りの旅に出るストーリーで。木魚から発射される“よしよし”でさまよう魂を救いながら、ステージの最後にいる“観音"や"如来"にお参りします。
坂口 たかくらさんらしい独特の世界観ですね(笑)
たかくらかずき ゲームの目的は、果ての地である“常世”を目指すこと。魂を救うことで“功徳”を積みながら、六道輪廻から抜け出せるように多くのスキル身に付けていくんです。ゲームを繰り返しプレイすることで、どんどん功徳が積めるというコンセプトで製作しました。

たかくらかずき 特別インタビュー Part2 2Dを超えたデジタルアート表現の可能性『摩尼遊戯TOKOYO 神仏習合goddamix』(2018) 制作協力/vitte

坂口 ぼくもプレイしてみましたが、ステージごとにさまざまなトラップがあって、最後までストーリーをクリアするのが難しかったです。また、ホテルのフロント横という一番目立つところに、大型のアーケードゲーム機が設置されていることにも驚きました。
たかくらかずき 実は、第1回のart bit展でも出展していたんです。展示が終わった後、置く場所がなくて困っていたところ、アンテルーム京都のマネージャーを務める豊川さんという方が、「よかったらうちに常設しませんか?」って言ってくださって。ものすごく嬉しかったです!
坂口 最初からアーケードゲーム用として開発されていたんですか?
たかくらかずき 最初は、パソコン用のゲームソフトでした。でも、サッカーゲーム『ウイニングイレブン』のアーケード筐体に、Windowsのソフトを入れて販売している人を見つけて。2画面でプレイできるようにディスプレイを付け加えて、摩尼遊戯TOKOYO用の筐体に改造しました。
坂口 世界にひとつだけのアーケードゲームということですね。
たかくらかずき 摩尼遊戯TOKOYOは、福島で行われた企画展「カオス*ラウンジ新芸術祭2015 市街劇『怒りの日』」のために制作し、はじめは福島のお寺で展示していました。
その後、より遊べるステージを増やして、ちゃんとしたゲームにしようと思い、クラウドファウンディングでたくさんの方に資金を提供していただいて、2018年にsteam版をリリース。2019年に東京で行われたTOKYO2021 美術展「un/real engine ―― 慰霊のエンジニアリング」という企画展の時に、アーケード筐体を作りました。
※1)steam版の『摩尼遊戯TOKOYO』は、現在も公式サイトから購入可能。( https://store.steampowered.com/app/756840/TOKOYO/?l=japanese)

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  • 坂口元邦
  • Interviewer: 坂口元邦 the PIXEL代表。SHIBUYA PIXEL ART実行委員会発起人。18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げた。現在は、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークにしながら、「現代の浮世絵」としてのピクセルアートの保管や研究を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想している。