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#増田敏也
2024.08.16
増田敏也 特別インタビュー Part4 作品をよりユーモラスにする展示の仕方とは
Interviewer: 坂本遼󠄁佑
パソコンの画面から飛び出してきたような“ドット絵”の立体作品。これは日本の伝統工芸である陶芸の世界において、ピクセルで身の回りにあるものを表現する新たな技法を打ち出した、デジタル陶芸家の増田敏也氏の作品だ。そんなピクセルアートとも関係が深い増田氏に特別インタビュー! 陶芸界の異端児が語った“デジタル”を人間の手で作品にする意義とは。
ついに最終回を迎えた本連載。最後を締めくくる第4回では、関西で生まれ育った“大阪人”のアーティストとしてのユーモアや、デジタル陶芸をよりユニークなものにする作品の展示方法、これから取り組みたい作品やプロジェクトの展望、増田氏にとっての“ピクセル”について語り合った。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)
“大阪人”としてのユーモアセンス
坂本 | 増田さんは大阪府出身とのことですが、自分のことを“大阪人”だなと思うことはありますか? |
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増田敏也 | 大阪人でしかないと思います(笑)それは性格にも出ているし、作品にも表れている。ぼくは、どこか“おもしろ主義”みたいなところがあって、作品のなかに少しユーモアの要素を入れたくなるんです。 |
坂本 | 特に、大阪人らしい要素が出ている作品はありますか? |
増田敏也 | 2022年に、高島屋大阪店で「大阪ええモン展」という展示会が開催されていたんです。その時、ぼくの作品も出展させていただいて。“世界一硬いたこ焼き”というテーマで、たこ焼きをモチーフにしたデジタル陶芸を展示しました。 |
坂本 | まさに“大阪らしさ”ですね(笑) |
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増田敏也 | あと、「旭ポン酢」もデジタル陶芸にしました。 |
坂本 | ポン酢ですか? |
増田敏也 | 大阪の人って、ポン酢に対するこだわりがすごいんです。街中のスーパーに行くとポン酢が何種類もあって、家庭内でもそれぞれ好きなポン酢が違うくらい。ポン酢に対する愛が、ホンマに尋常じゃないんです(笑) |
坂本 | 大阪の人だけ、クスッと笑えるユーモアですね。 |
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増田敏也 | 別に、お笑い芸人になりたかったわけじゃないけど、お笑い芸人の方をリスペクトしているんです。なので、作品にもユーモアのセンスはどうしても入れたくて。 |
坂本 | 他にも、ユーモアを交えた作品はありますか? |
増田敏也 | これはブラックジョークの類だと思いますが、過去に Low pixel CG『クスリのリスク』という作品もありました。これは成人が毎日2錠の薬を飲むと仮定して、1年で飲む薬の数を計算すると730錠になる。1日分ではわからないけど、まとめると相当な量ですよね。そんな薬に対する違和感を“逆さ言葉”のタイトルにして作品にしました。 |
坂本 | 1年かけて1瓶を飲んでいると思うと少し考えてしまいますね。 |
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増田敏也 | 最近、両親の飲んでいる薬が増えてきていて、1年でどれくらい飲んでいるんだろうと考えた時に、もちろん健康のための薬だけど同時にリスクもあるなって。カプセルって言わば“小さな器”であり、陶芸と器は密接な関係にあるので、陶芸作品にしたら面白いんじゃないかなと思いました。 |
空間全体を作品にする展示法
坂本 | これまで多くの展示会に作品を出展されていますが、作品を展示する際のこだわりなどもあるのでしょうか? |
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増田敏也 | 作品のタイプにもよるのですが、できるだけ作品に込めたシチュエーションを再現するようにしています。作品だけをちゃんと見て欲しい時は、ただ展示台にのせていますし、作品にストーリー性がある時は、展示台を使わずに作品を並べたりもしています。 |
例えば、『Eternal life』という作品は、あえて階段型の棚の上に展示しました。これはゲームソフト『スーパーマリオブラザーズ』に“無限1UP”というものがあって。階段でカメの甲羅を踏み続けると、マリオの残機が無限に1UPするんです。 |
坂本 | 懐かしい機能ですね(笑) |
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増田敏也 | よく考えたらすごい設定ですよね。カメって『鶴は千年、亀は万年』と、長寿の象徴として信仰されているのに、それを踏みつけて永遠の命を得ようとするんですよ(笑) |
でも、陶器のカメの甲羅を踏んでも割れてしまうだけなので、永遠の命は手に入れることができない。そういう“虚しさ”もユーモアとして、作品の一部だと考えています。 | |
坂本 | 展示する台が違うだけで、作品のイメージも変わってきますね。 |
増田敏也 | 『不安感』という︎の作品も、あえて三輪車を展示台に置かずに、会場にそのまま置きました。これは実際に自分が体験した状況をもとにしていて。ある日、駐車場に三輪車だけが置いてあったんです。 |
坂本 | 近くに親や子供はいなかったんですか? |
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増田敏也 | 三輪車しかなくて人の気配がなかったんです。その状態を見ていたら、なぜかすごい不安感を覚えて。この心情を作品にできたらと思い、当時のシチュエーションを再現する形で、作品を展示会場にそのまま置く形式にしました。 |
坂本 | 展示スペースの空間全体が作品の一部ということですね。 |
増田敏也 | 他にも、展示スペースにドアの形の線を書いて、ドアノブだけ陶芸の作品にしたり。マンションとかの玄関にかかっている傘って、住んでいる人が帰っている気配を象徴するものなので、壁にぶら下げて展示したりしました。 |
増田敏也がこれからやりたいこと
坂本 | 増田さんがこれからやってみたい作品やプロジェクトはありますか? |
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増田敏也 | ここ数年、『質感ノイズ』というシリーズ作品を制作していて、そのバリエーションをさらに増やしていきたいです。陶芸ではよく“釉薬”というガラス質になるものを使うのですが、作品に塗ると全体的につるんとした印象になるので“物質感”が増すんです。 |
でも、ぼくのなかで低解像度の画像って、どこかマットなイメージがあって。“質感がない”ということをキーワードに、デジタル陶芸の作品を制作してきたんです。だから、ぼくにとって釉薬の光沢のある輝きや物質感は“ノイズ”でしかなくて。 | |
坂本 | 増田さんにとっては、あまり好ましくない質感ですもんね。 |
増田敏也 | 人間の手の跡とかもなるだけ消したいし、ぼくにとっての“ノイズ”をできる限り排除してきた。一方で、陶芸をやっていると、どうしても釉薬のことが頭のどこかにあって。自分のコンセプトを破ってまで使う必要があるか悩んでいたんです。 |
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そんな時、音楽を聴いていてノイズが気になったことがあって。音楽や映像などにノイズが入ると、ノイズにばかり意識がいってしまい、本来の音楽や映像がどこかぼやけているような印象になる。どうしても聴きたい音楽ではなく、ノイズにピントが合ってしまうんです。 | |
坂本 | 確かに、騒がしいノイズが入っていると、楽曲に集中できなくなります。 |
増田敏也 | だからこそ、解像度を下げた画像のような自分の作品に、”ノイズ”として違う質感のものを混ぜ込んだら、もっとぼやけた印象になるのではないかと思ったんです。例えば、カクカクしたピクセル状の壺に、指で引っ掻いたような跡を入れて、メタリックな釉薬を塗ったら、その物資的な違和感に意識がいきますよね。 |
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しかも、ぼやけているように見えるだけであって、実際には見る人のピントはちゃんと作品に合っている。そんな視覚的なギャップも、作品の面白さだと考えていて。今までの自分のスタイルに、ぼくにとっての“ノイズ”を掛け合わせることで、新たな表現方法が生まれるのではと創作を続けています。 | |
坂本 | 増田さんの作品も少しずつ変化しているんですね。 |
増田敏也 | これまでぼくの作品は、「陶芸っぽくない」とよく言われていて。なんの素材で出来ているかわかりづらかったんです。でも、釉薬を使うと陶芸らしい質感になるので、陶芸として作品にする意義がまた増えてくる。これからより進化していくと思います。 |
増田敏也にとってピクセルとは?
坂本 | 最後に、増田さんにとって“ピクセル”とはなんですか? |
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増田敏也 | ぼくにとってピクセルとは“新しい日本のアイコン”です。ぼくが考えるピクセルの原点って、やっぱりファミコンの映像でして。任天堂って、ローマ字で“NINTENDO”と表記しても、世界に認知されているくらい日本を代表する企業ですよね。 |
ピクセルも同じように、“FUJIYAMA”や“SAMURAI”、“NINJA”と並ぶ、日本のサブカルチャーになっている。ぼくのデジタル陶芸が“日本らしい”と言われる理由も、そこにあると思っています。だから、海外にもドット絵はありますが、少しずつ日本を象徴する存在になっているのではないでしょうか。 |
- 増田敏也
- Interviewer: 坂本遼󠄁佑 the PIXEL magazine 編集長。東京都練馬区出身。大学ではアメリカの宗教哲学を専攻。卒業後は、出版社・幻冬舎に入社し、男性向け雑誌『GOETHE』の編集や、書籍の編集やプロモーションに携わる。2023年にフリーランスとして独立し、現在はエディター兼ライターとして活動している。