the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #ヘルミッペ 2022.12.16

Beyond Pixel Art賞 受賞アーティスト ヘルミッペ特別インタビュー ドットで編む、グラフィカルなテキスタイルに込められたメタファー(後編)

Interviewer: 吉野東人 

先日、亀戸アートセンターにて個展『Mix Cell』を開催した、イラストレーター・ヘルミッペ氏の単独インタビューを前編・後編に渡り公開。2017年からシブヤピクセルアートに応募し、2022年のコンテストでは優秀賞に加え、サイコロを使った作品でBeyond Pixel Art賞を受賞。ピクセルアートの領域に留まらず、リソグラフやカセットテープ・モジュラーシンセを用いた音楽制作など、多彩な才能を見せるヘルミッペ氏の創作の源流に迫る。撮影およびインタビューは亀戸アートセンターにて行った。 (文=吉野東人|Haruto Yoshino)

ヘルミッペさんにとってのピクセルアートとは

吉野 コンテストの授賞式でもコメントされていたように、「ピクセルアートをはじめたのはeBoyさんのコカコーラ社のポスターだった」ということですが、そのとき自分のなかでなにがあったのでしょうか。
ヘルミッペ 「ドット絵ってどういうものか」ということが出会ったときは自分のなかではっきりしておらず、詳しくもなかったので、いわゆるクォータービュー(※1)で一般的なパース表現がちょっと特殊な方向になっていて、すべての建築物が一定の形で、三点透視でパースにズレがなく描かれて制作されていて。
※1)立体を縦・横・高さの三軸で区切り、縦軸と高さ軸のなす角と横軸と高さ軸のなす角の大きさが等しくなる二等角投影で形成される立体を平面に描写する方法の1つ。
すごく整理された形や綺麗な線の重なりで絵が構成されていて、形がすごく強く見えるというのが、eBoyさんのドット絵の特徴かな、と思うんです。ストリートカルチャーに近い雑然としたカルチャーをもとにしたキャラクターや行動が描かれていて、それがすごく魅力的で。画面の外の世界が地続きで続いているような印象があり、裏にはなにかがあるんだろうな、という部分に惹かれますね。
吉野 ヘルミッペさんの作品にはストリートカルチャーやファッションコンシャスな雰囲気が感じとれますが、そうした分野からの影響はあるのでしょうか。
ヘルミッペ それはドット絵を描いていたから、そっちに興味がいった感じが強くて。ドット絵自体の要素のひとつに「繰り返し」があって、すごく小さく見ていくとキャラクターでも同じ役割のものを同じ形にしているし、絵のなかでもコピペしても成立するのがドット絵の特徴で。そういう繰り返しを使って絵を豊かに表現するのがドット絵のひとつの特徴ですね。それとは別にドット絵を少ない色━━白や黒で強く描いていくのも手段としてあると思うんですが、それで描いていくときに色を想像させるとか、ミクスチャーを想像させるとか、そういう目的のためにパターンを用いると面白くなるというのがあって。ドット絵をはじめてから、クロスステッチ刺繍(※2)をよくやるようになりました。
※2)糸が×の形にクロスするように刺していく刺繍の技法。4世紀、古代ビザンチン時代のトルコが発祥とされ、その後イタリアからヨーロッパ全土へ広がり世界各国で発展した。
吉野 それらもドット絵からはじまっているということなんですね。
ヘルミッペ そうだと思います。
吉野 ドット絵以前はどういった制作をされていましたか?
ヘルミッペ 大学がメディアアートや映像、サウンドインスタレーションなどをやるような学科だったんです。そのあと映像を学んで映像制作の道に進んで。個人としては、細密画やアクリル絵の具を使ったドローイングを中心に制作していました。和風の風神雷神図ですとか、ちょっとクラシカルなモチーフのものが多かったですね。その後は電子楽器に興味を持って、サーキットベンディングという手法で作品を作っていました。 大学がメディアアートや映像、サウンドインスタレーションなどをやるような学科だったんです。そのあと映像を学んで映像制作の道に進んで。個人としては、細密画やアクリル絵の具を使ったドローイングを中心に制作していました。和風の風神雷神図ですとか、ちょっとクラシカルなモチーフのものが多かったですね。その後は電子楽器に興味を持って、サーキットベンディングという手法で作品を作っていました。
吉野 当時からスマホで描かれていたのでしょうか。
ヘルミッペ 当時は木のパネルに描くことが多くて、いまはタッチがわりとはっきりしたものもありますが、その頃はグラデーションが強く、水彩に近い感じでしたね。色の混ぜかたや解像度も含めて。
吉野 普段ピクセルアートをどういうタイミングで描いていますか?
ヘルミッペ それは、「常に」ですね(笑)
吉野 さすがです(笑)
ヘルミッペ 寝ないで描くとか、寝っ転がって描くとかいろいろで(笑) ピクセルアート をはじめたのは10年ぐらい前で、当時はSNSのTumblerに1日1個gifアニメーションを載せようと描いてたりして。
吉野 途方もない作業ですね。
ヘルミッペ 食事中も描いているので、家族はもう諦めてます(笑)

Beyond Pixel Art賞 受賞アーティスト ヘルミッペ特別インタビュー ドットで編む、グラフィカルなテキスタイルに込められたメタファー(後編)

吉野 ピクセルアートをデジタル表現に留めず、フィジカル作品として出力したり、今回もさまざまなメディアを実験的に扱っていますが、そこにはどのような興味・関心があるのでしょうか。
ヘルミッペ 昔から身体を使って絵を描くということに対して欲求が強かったので、誰に見せるとか発表するわけじゃなくても、制作や工作をするということをずっとやっていました。東急ハンズに行って、なにか面白そうなものがあったら買ってきてなにか作ってみる。そういう習慣のなかのひとつでやっているんですが、興味や嗜好としてはコンスタントに続けていきたい、というのが何事にも強くありますね。
自分の考えるデジタルアートの欠点というのが、「同じ環境のまま続けられない」というのがあって。OSやソフトウェアも数年で環境が変わってしまう。「いつか絶対になくなっちゃうんだろうな」と考えながらやるのは、すごくストレスがたまる。なので、いろんな方法、手法を試しているというのはありますね。 たとえ、これが失われてしまっても大丈夫なように。
吉野 デジタルアートにはじまり、カセットテープやモジュラーシンセを用いた音楽、ファッションも含め、ヘルミッペさんを取り巻くカルチャーすべてが作品として展開されているように見えますが、ここに表現の意図や狙いはあるのでしょうか。
ヘルミッペ コンスタントに続けるための自分なりの置換値や答えが、自分のなかからテーマを探すとか、動的に見つかるモチーフや内外的なものだったりするんです。深く考えないと出てこないものがないほうが、コンスタントにできるので。 自然と自分のなかにある要素が制作に結びついていくのかな、と思います。

過去の展示、アーカイブスについて

Beyond Pixel Art賞 受賞アーティスト ヘルミッペ特別インタビュー ドットで編む、グラフィカルなテキスタイルに込められたメタファー(後編)

吉野 2019年の個展、『閉鎖国家ピユピル』についてお伺いできますでしょうか。
ヘルミッペ ドット絵に限らず共に制作をするプログラマーの友人と一緒にはじめました。2018年にNFTをやっていて、面白い表現ができそうだからなにか制作しようということになったのがきっかけで。当時はあまりメジャーなプラットフォームもなかったので、マーケットなしの直接のやりとりでフルオンチェーン(※3)のNFTをやろうと。
※3)ブロックチェーン上に作品のデータを直接書き込むことにより、恒久に近い形でデータを保存することができる方法。
当時作ったNFTは、アートのデータと所有者の情報がぜんぶ同時にパッケージされてブロックチェーン上に置いてあるというものでした。「デジタルデータの所有」をテーマにしていたので、スマホゲームなどで課金しても、サービス終了とともにぜんぶなかったことになってしまうある種の虚しさに注目していて。NFTであれば、「ほんとうに所有した状態」に近いものを作り出せるし、閉鎖国家ピユピルのストーリーが、「辛い現実世界に疲れたら、自分のアバターを買って、実際にブロックチェーン上にある架空の国家に送ると、所有権の移動が起こり自分のコピーも手元からなくなる」というものでした。デジタルデータだけど、「所有権の移動」を経験すると、逆説的に「所有していた感覚」も意識できるんじゃないか、と。
吉野 行為やシステムそのものをアートとして組み込んだ感じでしょうか。
ヘルミッペ そうですね。買った方がそういう体験をしてくれたら、デジタルの所有権を意識してもらえるんじゃないかな、と思って作ったものです。 ドット絵のデータが軽かったので、個人でやるフルオンチェーンには向いていました。デジタルのデバイスを作って、このぐらいのサイズでQRコードが表示できて実際に購入予定のアバターのプレビューができるんです。そのQRコードをウォレットのアプリで読み込むと、自分のもとにアバターがやってくる、というものでした。知り合いのプログラマが意図的にハッキングをして、アバターの姿を書き換えたりだとか、企画として遊びかたを提示する際に、1,000個ぐらいすでに白骨化して死んでるピユピルのアバターを配ったりもしましたね。
吉野 2020年の『密林』についてお話をお聞かせください。
ヘルミッペ 亀戸アートセンターさんにお声がけいただいたのがきっかけで。その頃は世の中の状況がどうであれ、制作を続けていきたいと鬱々としながら部屋にこもって絵を描いている状況でした。部屋に潜んで絵を描いている状態が密林のなかで潜めているみたいな感じがあって。
吉野 プラトーンや、地獄の黙示録みたいに。
ヘルミッペ はい(笑)それで『密林』というタイトルをつけて、いま描けるものを描いていこうと。当時は虫の絵というのがすごく苦手で。こういう虫なんですけど(展示作品を指して)。
吉野 個人的にすごくクールだと思いました。
ヘルミッペ ありがとうございます。苦手なことも自分の画風に取り入れて、苦手なことがなくなったほうが長く続けられると思ったんですね。あとは蝶とか、「形が似てるものの書き分け」をしていくだとか、そういう修行のようなことをしたり。「自分のなかにあるものを、ぜんぶ出していこう」という思いで描いていました。
吉野 先ほどもすこし話題に上りましたが、2021年『New Town Fungus』についてお話を伺えれば。
ヘルミッペ このときは新しい描きかたや新しい印象を与えられることを意識して、かなり色数や描きかたに自分で規制を設けて制作しました。コロナ禍の生活範囲の変化から物事に対する解像度が変わる、ということがテーマだったので。モチーフとしては身の回りにあるものなんですが、描きかたや色使いをあえてリアルじゃないものにしたりすることで、見えかたの違いを感じてもらえるようにしたいという思いがあって。それをどれだけ自分のスタイルで描けるか、ということを主題にしました。

ヘルミッペさんにとってピクセルとは?

吉野 最後にヘルミッペさんにとって、ピクセルとはなんですか?
ヘルミッペ 尖った角です。 どんな画像でも、適した場所に尖った角がいくつかあるとピクセルを感じることができます。

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  • 吉野東人
  • Interviewer: 吉野東人 音楽家/ライター 東京都出身。エレクトリックギターによる多重演奏を主体としたオーケストレーション制作をライフワークとする傍ら、フラメンコ舞踊、アートワーク、文藝誌への寄稿を行うなど、活動は多岐に渡る。 photography by norihisa kimura(photographer)