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ARTICLES ARTIST #tsumichara 2024.02.02

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part1 「DIG SHIBUYA」に込めた想い

Interviewer: 坂口元邦 

シブヤピクセルアートで、2年連続受賞をとげた現代アーティスト/ピクセルアーティストのtsumichara氏に独占インタビュー。第4回に分けてピクセルアートとの出会いやさまざまなアートプロジェクトに込めた想いを紹介する。

第4回にわたりシブヤピクセルアートの主催である坂口元邦がtsumichara氏のアーティストとしての魅力を探る本連載。第1回では、2023年に開催されたDIG SHIBUYAでのアートプロジェクトに込めた想いなどを聞いた。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

渋谷をART×TECHの美術館にするDIG SHIBUYA

坂口 先日は、シブヤピクセルアートと共同で、DIG SHIBUYA(※1)のプロジェクトにご参加いただきありがとうございました!
※1)2024年1月12〜14日に開催された体験型イベント。渋谷の最新カルチャーを体験できるテクノロジーとアートを掛け合わせたプロジェクトが多数参加した。
tsumichara こちらこそ、お声がけいただきありがとうございました。
坂口 改めて今回の作品のコンセプトをお聞かせください。
tsumichara 今回の作品は、宮下パークを行き交う人々に焦点を当ててみました。人々の動きをモーションキャプチャーで捉え、リアルタイムでピクセルのアバターに変換。建物の外壁に映し出される映像と画面モニターを見ながら、踊ったり、飛び跳ねたりすることで、自分のアバターを操作することができます。

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part1 「DIG SHIBUYA」に込めた想い

アバターは、手で「L」のポーズをすると拡大、「V」のポーズをすると上昇する“隠しコマンド”が設定されている。

なぜ宮下パークを会場に選んだのか

坂口 プロジェクトに取り掛かった当初は、別のアイデアも出ていましたよね?
tsumichara 最初は、宇宙から渋谷という街を見た時、ひとつのピクセルになっているというコンセプチュアルな作品にしようと思ったんです。でも、ひとつのピクセルとして考えると、渋谷という街がサイズ的に大きすぎる。それで、街中を行き交う人々に焦点を当てることにしたんです。
坂口 今考えると宇宙からではなく、富士山の頂上から見た渋谷にする手もありましたね(笑)
tsumichara 確かにそうですね(笑)でも、もっとわかりやすくて、多くの人に楽しみながら参加してもらえるプロジェクトにしたかったんです。それで、大通りを歩く人々の動きをアート作品にできないかって考えたんです。

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part1 「DIG SHIBUYA」に込めた想い

イベント当日には、学生のダンサーなどもピクセルのアバターで遊んだ。

坂口 ジュリアン・オピー氏(※2)の人々の動きを描いた作品のようなイメージですか?
※2)イギリスを代表する現代アーティスト。シンプルな点と線で描いたポートレートなどが有名。
tsumichara そうです。ただ、オピー氏の作品では、ミニマルな表現で個性が表されていますが、今回のプロジェクトではあえて単色の荒いピクセルにすることで、より抽象的に人間の動きを捉えました。
坂口 ピクセルで簡略化された人間の姿からは、男女や年齢などの情報は失われる。そうなった時、人々の個性もなくなってしまう。でも、走ったり、踊ったり、飛び跳ねたりすることで、それぞれのアバターに固有の動きが生まれてきますよね。
tsumichara それで大通りから宮下パークに会場を移しました。ダンサーやTikTokerがいる芝生ひろばなら、ただ歩いている人々をアバターにするよりも、新しい表現や遊びが生まれやすいと感じまして。
坂口 実際、多くのダンサーやTikTokerの方々が、ピクセルのアバターを動かしていました。DIG SHIBUYAの“ART×TECH”というテーマに、上手くマッチしていたプロジェクトだと思います。

作品に込めた“渋谷”のイメージについて

坂口 tsumicharaさんは、そもそも“渋谷”にどんなイメージを持っていましたか?
tsumichara 渋谷には“動いているけど、止まっている”という印象がありました。地形的に谷ということもあると思うのですが、多くの人々が行き交っていて流動的なのにどこか抜け感がない。さまざまなカルチャーが混ざり合っている、いい意味で“カオス”のようなイメージです(笑)
坂口 最新の曲が街中で流れているけど、今もアナログなレコードショップが栄えている。ファッションも最先端のトレンドが揃っているのに、古着屋やヴィンテージショップもいっぱいある。まさにハイとローが混在するカオスな状態ですよね
tsumichara そんな渋谷のイメージもあり、プロジェクトの説明文に“共時的”という言葉を使いました。現実世界の人間の動きを捉え、3次元のアバターに変換し、2次元のピクセルアバターとして私たちの目の前に投射する。つまり、人間というひとつの存在が、さまざまな次元で共時的に存在していて…。なんと表現してよいかわかりませんが、矛盾を包摂しながら実在している形が、渋谷という街にしっくりきました。

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part1 「DIG SHIBUYA」に込めた想い

ピクセルアバターは、画面モニターにも表示される。

坂口 ぼくも“渋谷”には、どこかフワフワしているイメージがあって。新しいものを生み出すために、古いものを打ち壊してきた歴史があり、どことなく表象的なカルチャーが広がっている。そんな渋谷の“軽薄さ”も、今回のプロジェクトに表れているのではないでしょうか。
tsumichara 確かに、人の姿をピクセルのアバターにすることで、外見の特徴や表情などが失われてしまう。究極まで簡略化された人間の姿は、現代の消費社会を表しているようにも見えます。
坂口 時代と共に街の趣やカルチャーが変化し続けている渋谷。しかし、時には立ち止まって自分たちを見つめ直す必要があるんじゃないか。そんな問いかけをしている作品のような気がします。
tsumichara 絵画や彫刻だと半永久的に作品が残る。でも、人々の動きをリアルタイムでピクセル化するので、その場所や瞬間にしか生まれない表現ができる。そんな刹那的な情緒感も、日本的であり、現代的でもありますよね。

アバターにすることで失われる感情の整合性

坂口 プロジェクトを進めている中で、なにか発見はありましたか?
tsumichara ピクセル化されたアバターは、自分に代わって自分を演じる“化身”なんです。でも、自分の姿がアバターに変換された瞬間、自分とは違う感情を表すことができることに気がつきました。
坂口 自分とは違う感情?
tsumichara 例えば、本当の自分は笑っているのに、頭をさげる動きをすれば、アバターが謝っているように見える。人間の姿を簡略化したアバターだからこそ、本人の感情を除いた動きを表現できるんです。

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part1 「DIG SHIBUYA」に込めた想い

アバターを操作しながら“謝る”動作をするtsumichara氏。

坂口 逆に、心の中では怒っているのに、喜んでいるようにも見せることができますよね?
tsumichara それが非常に現代的だと思いました。LINEのスタンプなんかも、人間の喜怒哀楽を表しているのに、本人は無表情でスタンプを押している。それはアクチュアルな感情ではないんです。
坂口 SNSの誕生によって、人間のコミュニケーションが大きく変わったということでしょうか?
tsumichara SNSの影響は大きいと思います。でも、ぼくらより若いデジタルネイティブな世代にとっては、それが普通のコミュニケーションスタイルなんでしょうね。感情と行為が一致しているということは、すでにもう古い考えなのかもしれません。
坂口 tsumicharaさんらしい考え方ですね。
tsumichara 過去に『IDENTITY CRISIS』(2023)という作品を制作したことがあるんです。メタバースが世の中に知られるようになった頃、ひとりの人間が複数の人格を演じられるメタバースの世界では、アーティストの一貫性やアイデンティティが崩壊してしまう危険性が指摘されていて。

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『IDENTITY CRISIS』(2023)。

坂口 その危険性をどのように表現したんですか?
tsumichara 作品のウェブサイトを開くと、さまざまな表情のアイコンがランダムに配置されるんです。そして、フリーミントでNFT化すると、アイコンの奥にウォレットのアドレスが表示される。アドレスが人間のアイデンティティだとすると、その上に出現するさまざまなアイコンは、整合性をとれなくなった人間の感情を表しています。
坂口 今回のプロジェクトに少し似ている気がします。
tsumichara そうですね。自分の興味の範囲が、「自己矛盾」などにあるからだと思います。作品にすることで、不都合な真実が浮き彫りになる。そんなテーマが、自分の作品には共通しているのかもしれません。

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  • Interviewer: 坂口元邦 シブヤピクセルアート実行委員会 代表 SHIBUYA PIXEL ART実行委員会 発起人/The PIXEL 代表 18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げ、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークとしながら、「現代の浮世絵」としての「ピクセルアート」の保管、研究、発展を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想する。