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ARTICLES ARTIST #tsumichara 2024.02.02

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part2 ピクセルアートとの出会い

Interviewer: 坂口元邦 

シブヤピクセルアートで、2年連続受賞をとげた現代アーティスト/ピクセルアーティストのtsumichara氏に独占インタビュー。第4回に分けてピクセルアートとの出会いやさまざまなアートプロジェクトに込めた想いを紹介する。

DIG SHIBUYAでのアートプロジェクトに込めたピクセルアバターの意味や、渋谷という街でプロジェクトを行った意義などを聞いた第1回。続く第2回では、ピクセルアートコンテストに作品を出展した経緯や、ピクセルアートとの出会いを聞いてみた。(文=坂本遼佑|Ryosuke Sakamoto)

シブヤピクセルアートを通した2人の出会い

坂口 tsumicharaさんに初めてお会いしたのは、2020年のピクセルアートコンテストがきっかけでしたね。
tsumichara ぼくの作品をLimited Pixel Art賞に選んでいただいたことが始まりでした。
坂口 2020年はコロナ禍だったので、外出ができない代わりに創作活動に没頭しているアーティストの方も多かったです。でも、tsumicharaさんの作品からは、アートを通して自らを解放しているような、どこか前向きな姿勢が感じ取れました。
tsumichara ありがとうございます。他のアーティストの方々とは、住んでいる場所の違いもあったのかもしれませんね。ぼくは愛媛で生活をしているので、コロナ禍を東京で過ごしていたら、もっと違う印象になっていたかもしれません。

ピクセルアートコンテスト2020の授賞式。

坂口 ピクセルアートコンテストは、どのようなきっかけで応募されたんですか?
tsumichara その頃、iPadを使ったアート作品の制作を始めていて、なにか目標が欲しかったんです。そんな時に、ピクセルアートコンテストの存在を知って。Instagramにハッシュタグを付けて投稿するだけで、エントリーができるシステムに惹かれて応募しました。
坂口 Instagramの投稿からエントリーする仕組みが、応募のきっかけだったんですね(笑)
tsumichara 他のアートコンテストだと、ポートフォリオの提出など、エントリーするまでの作業が多くて。まさか賞に選ばれるとは思っておらず、軽い気持ちで作品をInstagramに投稿しました。
坂口 16×16という限られたピクセル数の中で表現する、Limited Pixel Art部門に応募されたのには、なにか理由があったんですか?
tsumichara それが、当時の自分のベストだったからです。それよりも複雑なピクセルアートは作ることができなかったし、ピクセル数が16×16なら初心者でも簡単に挑戦ができると思いました。
坂口 その時の受賞作を覚えていますか?
tsumichara スケートボーダーを描いた『skateboard』(2020)という作品だったと思います。自分はスケートボードやストリートカルチャーの絵に強い憧れがあって。コンテストのテーマのひとつに「シブヤ」があったので、スケートボーダーをピクセルアートで描くことにしました。
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    Limited Pixel Art賞を受賞した『skateboard』。

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    『skateboard』は、アクリルで描いたキャンバス作品としても制作されている。

“素人”だったからこそできた斬新さ

坂口 その後、2021年のコンテストにも作品を出展されて、優秀賞を獲得されましたよね。
tsumichara 自宅の窓から見える景色を描いた『海』(2021)という作品で受賞することができました。当時、東京から愛媛に移住することを決め、自然の中で釣りを楽しむ毎日を過ごしていて。そんな日常の一コマを描こうと思い、ピクセルアートにしました。

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part2 ピクセルアートとの出会い

『海』(2021)

坂口 青い空が広がる和やかな作品でした。
tsumichara コンテストのテーマに「空飛ぶ生き物」があったので、カモメが飛んでいる海にしたんです。それまでIllustratorで作品を描いていたのですが、『ピクセル百景』(※1)という本でPhotoshopを使った描き方を知って。ニアレストネイバー法など、新しい技法を学びながら取り組んだのが『海』という作品です。
※1)グラフィック社編集部『ピクセル百景 現代ピクセルアートの世界』グラフィック社。ピクセルアートの潮流をまとめた作品集。
坂口 コンテストに出展するまで、ピクセルアートの作品は手がけていなかったんですか?
tsumichara それまでは、iPadでドローイングなどの作品を制作していて。ピクセルアートはまさに未知の世界でした。だから、自分の作品が賞に選ばれた時は、「え、これが?」という感じで(笑)自分でも信じられませんでした。
坂口 tsumicharaさんの作品は、審査員を務めていたピクセルアートのエキスパートたちにすごく好評で。カクカクしたイメージがあるピクセルアートに対して、『海』という作品はどこか柔らかい印象があったんです。そういった斬新さが、受賞の決め手になりました。
tsumichara 自分では新しいことをしているつもりはなくて。素人がプロのまねごとをしていたら、玄人の方々には逆に斬新に見えただけだと思います。正直、自分の中ではイマイチだと思っていたイラストの荒っぽさが、審査員の方々には“柔らかさ”として受け取られていて。そういった解釈の違いも、コンテストの面白さのひとつですね。
坂口 人によってピクセルの質感の見え方が違う。それも、ピクセルアートの特徴なのかもしれません。

コンテストの休止発表が生んだ2人の再会

坂口 そんな2021年の受賞から約2年が経った頃、再びtsumicharaさんに出会ったんですよね。
tsumichara 当時は、なにかアートに関係する仕事がしたくて、複数のアート系のコミュニティに属していました。そんな中で、シブヤピクセルアートのことを思い出しまして、インターネットで調べてみたんです。そしたら、坂口さんのnoteの投稿を見つけて。
坂口 2023年6月の投稿だったと思います。それまで6年間継続してきたピクセルアートコンテストを、一旦休止させることをnoteで発表したんです。ピクセルアートの審査基準の曖昧さや、人材不足や資金不足による運営難などが大きな理由でした。
tsumichara 坂口さんの投稿からは、ピクセルアートに対する熱い思いが伝わってきて。読んでいるうちに、心を動かされました。それで、投稿の最後に載っていたアドレスに、「自分にできることがあれば、いつでも連絡をください」ってメールを送って。

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実際にnoteに投稿された記事。

坂口 noteに投稿した翌日くらいに、tsumicharaさんからメールが届きました。すぐに反応があるとは思っていなかったので、非常に驚いたのを覚えています。
tsumichara 実際になにかお手伝いできるとは思っていなかったので、自分も半分ダメ元でメールを送ったんです(笑)
坂口 コンテストの授賞式で少しお喋りをしましたが、tsumicharaさんの経歴や仕事のことなどはあまり知らなかったので、改めてお互いの自己紹介からスタートして。今回のDIG SHIBUYAのプロジェクトにも参加していただきました。

トライアスロンとアーティスト活動の共通点

坂口 tsumicharaさんとの会話の中で、特に印象的だったのが“トライアスロン”についての話でした。
tsumichara どんな話でしたっけ?
坂口 トライアスロンでは、ゴールインするまで倒れてはいけない。逆にゴールしたらバタって倒れるのが一番いいって話が面白くて。自分の限界を常に高めていくことは、アスリートだけでなく、アーティストにとっても大切なことですよね。
tsumichara 本当にそうです。“火事場の馬鹿力”という言葉がありますが、馬鹿力は日常的に使っていると肉体が壊れてしまう。故に、自分の限界を理解し、リソースをうまく配分して、いざという時には最大限の力を出す。逆に、そうでない時にはセーブしながら、力をバランスよく使い切る。それが持久走において一番大切なことです。
坂口 自分で自分をコントロールできるようにするんですか?
tsumichara トライアスロンで全力を出すためには、筋肉と肺をバランスよく鍛える必要があるんです。足の筋肉がないと長く走れないし、肺が弱いとすぐに息苦しくなってしまう。だから、どちらかではなく両方の質をあげていかないといけなくて。
坂口 ふたつのバランスが取れた時、最大限のパフォーマンスができるんですね。
tsumichara そうです。アーティストの場合、これが体力と集中力のバランスになるんです。大きなキャンバスに絵を描くには、それだけの体力が求められる。でも、十分な集中力がないと、長時間かけて絵を描くことができない。だから、適度な休憩を取ることで、集中力が落ちないようにしています。
坂口 そうやって自分の限界を理解しながら、最大限に力を引き出すやり方は、アーティストとアスリートに共通している部分かもしれません。ひとつの作品が完成するまで全力を出し切る。tsumicharaさんらしい取り組み方ですね。

  • tsumichara
  • 坂口元邦
  • Interviewer: 坂口元邦 シブヤピクセルアート実行委員会 代表 SHIBUYA PIXEL ART実行委員会 発起人/The PIXEL 代表 18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げ、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークとしながら、「現代の浮世絵」としての「ピクセルアート」の保管、研究、発展を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想する。