the PIXEL MAGAZINE

INTERVIEW ARTIST #tsumichara 2024.02.05

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part4 その日、その時、その場所…

Interviewer: 坂口元邦 

シブヤピクセルアートで、2年連続受賞をとげた現代アーティスト/ピクセルアーティストのtsumichara氏に独占インタビュー。第4回に分けてピクセルアートとの出会いやさまざまなアートプロジェクトに込めた想いを紹介する。

第3回にわたりtsumichara氏の作品や経歴を紹介してきた本連載。最終回である第4回では、多くのtsumichara作品に共通する“公共性”の問題や、“その日、その時、その場所”を作品にするアーティストとしての独自性を深掘りした。(文=坂本遼佑|Ryosuke Sakamoto)

ひとつのキャンパスを共有所有する「BANANA X」

坂口 2020年と2021年にピクセルアートコンテストで賞を獲得しているtsumicharaさんですが、今もピクセルアートの作品を制作されているんですか?
tsumichara コンテストに出展した作品以外にも、“渋谷”や“スケートボーダー”などのピクセルアートの作品を制作しています。また、ペインティングの作品ですが、『BANANA X』(2022 - )もピクセルアートをモチーフにしています。

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part4 その日、その時、その場所…

『BANANA X』(2022 - )

坂口 『BANANA X』のモチーフにピクセルアートを使ったのはなぜですか?
tsumichara 2019年のアート・バーゼル・マイアミで、現代アーティストのマウリツィオ・カテラン氏(※1)が壁にバナナを貼った作品『Comedian』を、web3のコンテクストで批評したのが『BANANA X』という作品です。そのため、“デジタル”という要素をピクセルのバナナにすることで表現しました。
※1)イタリアの現代アーティスト。彫刻やインスタレーション作品で有名。
坂口 それでドットが使われているんですね。
tsumichara あと『BANANA X』は、キャンパスを59区画に分けて、それぞれNFTに紐づけているんです。59個のNFTを分割販売することで、1つのキャンバスを複数人で所有できる“共有持分権”を付与するために。それで、キャンパスを分断した時に、1区画だけでもアート作品っぽさが出るようピクセルアートにしました。

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part4 その日、その時、その場所…

59区画に分断されたバナナ。

坂口 1つのキャンパス作品を59人で所有できるということですか?
tsumichara 特に購入制限を設けていませんが、1人につき1区画で所有するのであれば、最大59人まで所有することが可能です。また、NFTの所有者は無料のチャットツール「Disocord」でやり取りすることができ、共有持分権にはアートコミュニティの“会員権”のような役割もあるんです。ゆえに、NFTを他の人に売却する時は、メンバー内で協議する必要があるんです。
坂口 アート作品を通してコミュニティを形成する。これも一種のインターネットいう空間に作られた“パブリックアート”ですね。

その日、その時、その場所で生まれる『KAZE PROJECT』

坂口 tsumicharaさんの作品には“公共性”だけでなく、今回のDIG SHIBUYAのプロジェクトのような“その時”や“その場所”でしか生まれない作品が多い気がします。それもtsumicharaさんの作品の特徴なのでしょうか?
tsumichara それも特徴のひとつかもしれません。『みんなの空間 ~We are what we do~』というプロジェクトも、愛媛県の特定のスポットに行った人たちが、写真を撮影することで増えるリングをアート作品にしました。
坂口 アートが生まれる“場所”も作品の一部ということでしょうか?
tsumichara そうかもしれません。自分は『レッドボール・プロジェクト』(※2)や『ラバーダック・プロジェクト』(※3)のような、パブリックな“場所”の空間をアートの一部にした作品が好きなんです。沖縄県で製作した『KAZE PROJECT』(2022 - )も、その時に、その場所で流れる“風”をアート作品にしました。
※2)カート・パーキシー氏が立ち上げたゴム素材の巨大なボールが世界各地を移動する周遊型パブリックアート。
※3)フロレンタイン・ホフマン氏の周遊型パブリックアート。“世界中を旅する巨大アヒル”として広くに知られている。

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『KAZE PROJECT』(2022 - )

坂口 “風”をアート作品にしたんですか?
tsumichara 沖縄の3箇所にセンサーを置いて、風の流れを3Dで観測するんです。そうするとセンサーの動きがXYZ軸に数値として記録に残る。それを2次元のグラフィックにして、実際にある共同売店などの建物にイラストを描きました。

現代アーティストtsumichara 特別インタビュー Part4 その日、その時、その場所…

センサーで解析された風の動きのグラフィック映像。

坂口 確かにそれは“その場所”の“その時”に流れる風にしかできない作品ですね。
tsumichara すべての瞬間は、2度と訪れることがない1回限りのもの。だからこそ、その瞬間に流れる風をイラストにして、その場所に残すことに意味があるんです。それは、現地の人々にとって日常のワンシーンであり、誰かにとっての特別な瞬間でもあります。
坂口 面白いですね。同じようなプロジェクトを渋谷や原宿など、全国規模でやってもらいたいです。

風の動きを測定する実際の映像。

tsumicharaさんにとってピクセルとは?

坂口 最後にtsumicharaさんにとって、ピクセルとはなんですか?
tsumichara ぼくにとってピクセルは“結節点”です。ピクセル自体は光だから質量がない。そういう意味では、この世のものでありながら、この世のものではないみたいなところがあって。現実の世界とデジタルの世界を繋ぐ入り口みたいな存在だと考えています。

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  • Interviewer: 坂口元邦 シブヤピクセルアート実行委員会 代表 SHIBUYA PIXEL ART実行委員会 発起人/The PIXEL 代表 18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げ、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークとしながら、「現代の浮世絵」としての「ピクセルアート」の保管、研究、発展を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想する。