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ARTICLES ARTIST #モトクロス斉藤 2024.11.15

モトクロス斉藤 特別インタビュー Part2 ピクセルアートが時代に受け入れられた理由

Interviewer: 坂口元邦 

秀学社の資料集『美術資料』に作品が掲載されたことや、大塚製薬の「ポカリスエット」の広告を制作したことで、ピクセルアート界隈に新たな息吹をもたらしているモトクロス斉藤氏に特別インタビュー! 全4回に分けて、「Ultimate Pixel Crew(通称:UPC)」や「水曜ドット打つデイ」の誕生秘話、代表的な作品に込められた想いなどを紹介する。

“モトクロス斉藤”というアーティスト名の由来や、ピクセルアーティストの豊井祐太氏の作品との出合いなど、モトクロス斉藤氏の“原点”について迫った第1回。続く第2回では、資料集『美術資料』にドット絵が掲載された理由を、モトクロス斉藤氏の独自の視点で分析してもらった。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)※この記事は2024年5月に取材したものです。

ドット絵の“ちょうどよさ”が資料集に選ばれた理由

坂口 最近では、中学校で使用される資料集『美術資料』に、モトクロス斉藤さんのドット絵が掲載されたことが話題となりましたが、どのような流れで学習資料に作品が載ることになったんですか?
モトクロス斉藤 ある日、「教科書などを出版している会社なのですが、作品を掲載させていただけないでしょうか?」ってメールが来たんです。てっきり、2cm×2cmくらいの小さい画像が載るんだと思っていたんですが、ページのレイアウトを見たら思った以上に大きくて。「で、でけぇ!」って。
坂口 さまざまな作品のなかで、「金魚」という作品が選ばれた理由はなんだったんですか?
モトクロス斉藤 俺が気に入っていた作品だったから、いや出版社が選んだんだっけな。覚えてないです。でも、Xの固定のポストにしてるくらい、自分の中でもキャッチーな作品だったんです。

モトクロス斉藤 特別インタビュー Part2 ピクセルアートが時代に受け入れられた理由『金魚』(2020)

坂口 他にも、ビットマップやベクターの解説、「短時間で作る」というコーナーでは、ドット絵の描き方も紹介されていましたね。
モトクロス斉藤 俺が学生だった頃には考えられなかったです。そもそも『美術資料』という教材が、一般的な現代アートの枠を超えて、サブカルの領域にまで足を踏み入れていて。
自分がまだ高校生だった時代は、イラストの描き方とかが学校の教材には載ってなくて、田舎の本屋で参考書を探して注文していましたもん。でも、その7割くらいの内容が、今の中学校の美術資料集には掲載れている。ちょっと悲しいですよね。こんなに簡単に読めるんだ、いい世の中になったなって思いました。
坂口 さまざまなジャンルがあるなかで、ピクセルアートが選ばれた理由はなんだと思いますか?
モトクロス斉藤 ちょうどよかったんじゃないですかね。緻密な3Dのイラストはもう写真にしか見えないけど、オタクっぽいゲームのグラフィックとかは、教材として掲載するのに少し気がひける。その真ん中の立ち位置に、ピクセルアートがあったんだと思います。
もちろんピクセルアートの知名度が上がってきていることもあるのですが、「このぐらいだったらええやろ!」という、表現よりも精神的なちょうど良さがある気がして、選ばれるべくして選ばれたのではなく、ちょうどいいところにはまった感じですね。
坂口 モトクロス斉藤さんらしい分析ですね。
モトクロス斉藤 なので、他のジャンルに比べてドット絵が突出していたというよりも、ギリギリで掲載の枠に滑り込んだという方が近い気がします。自分たちはまだまだ頑張らないといけませんね。

“失われるコンビニ”の絵に込めた想い

坂口 これまで制作されたドット絵のなかで、特に思い出深い作品はありますか?
モトクロス斉藤 2019年に制作した『コンビニ』という作品です。某コンビニチェーンの店舗を背景にキャラクターを描きました。

モトクロス斉藤 特別インタビュー Part2 ピクセルアートが時代に受け入れられた理由『コンビニ』(2017)

坂口 なぜコンビニを背景にしたんですか?
モトクロス斉藤 ちょうどそのコンビニチェーンがなくなるというニュースを見たんです。自分にとって馴染みのあるコンビニといえば、そのチェーンが出していたお店。なので、幼少の物心が付いた頃に、初めて認識したコンビニがなくなることに、どこかもの寂しさを感じて。
普段だったら、コンビニなんてどこにでもあるし、どこのチェーンのお店かなんて気にならない。そんなコンビニの存在が、なんか可哀想に思えてきたんです。コンセプチュアルな作品にしようと描いた作品は、この作品が初めてでした。自分でも奇跡の出来栄えだったな。
坂口 モトクロス斉藤さんの想いが、作品に表れてきたんでしょうね。
モトクロス斉藤 でも、ぶっちゃけ共感してほしくて描いた部分もあって。コンビニの電飾の色を見て、同じような気持ちになる人がいるのではと思い。実際、ドット絵を見て「寂しいですよね」と反応してくれた人たちもいました。自分と同じような思考を持った人がいるんだと感動したのを覚えています。
坂口 なんの変哲のない日常風景にちょっとした変化があって、その時の自分の気持ちがドット絵に表れている。それを見てわかる人もいれば、わからない人もいる。その絶妙さも作品の魅力のひとつな気がします。
モトクロス斉藤 ただ、このドット絵を制作してから、ドットを打つスピードが遅くなりました。コンセプチュアルな作品は“量産”ができないんですよ。
坂口 “量産”ですか?
モトクロス斉藤 見たものや想像上のものをただ描くぶんには、なにも考えないで描けばいいので、1日くらいあればできるんです。やろうと思えば、いくらだってドット絵を描ける。
でも、なにも考えずに描いたものは、自分の想いが込められていないので。なんていうのかな、作品…?にはならない。練習としてならいいのですが、作品にしようという意識がそこにないんです。
坂口 モトクロス斉藤さんの創作活動の根源にある核心的な部分ですね。
モトクロス斉藤 と言っても、自分のことをアーティストだとは思っていないので、どこまで俺の想いが作品に表れているかは謎ですけどね。基本的に、いろいろなものを継ぎ合わせたパッチワークのような思考なので、どちらかというと“主張”というより“提案”に近いです。

モトクロス斉藤 特別インタビュー Part2 ピクセルアートが時代に受け入れられた理由

坂口 ぼくはアーティストが制作する作品の“強度”は、3つの要素で構成されると考えているんです。1つ目はアーティスト独自の視点・見方、2つ目は描きたいものを表現する画力やスキル、そして3つ目は作品を生み出す動機。でも、独自の視点は日常生活の“発見”の連続のなかで育まれるし、画力は練習をしながらスキルを身につければ上達していく。
しかし、動機だけはアーティストの内的なものなので、その人に内在している意識や想いが、具体的な形で表れないと作品にならない。自分のことをしっかりと理解して、なぜこの作品を作りたいのかを明確にしていく。その結果として、作品のコンテクストが浮き彫りになってくるので、モトクロス斉藤さんのドット絵には、表現したいという意思が強く込められているのだと思います。
モトクロス斉藤 ありがとうございます。

楽曲制作とピクセルアートの共通点

坂口 ピクセルアート以外に、さまざまな楽曲も制作されていますが、音楽活動はいつ頃から始められたんですか?
モトクロス斉藤 楽曲制作はドット絵よりも先に取り組んでいました。大学を卒業して企業に入社した頃、疲れて家に帰ってきてやれることが、iPhoneで曲を制作することで。学生時代もDJとして活動していたんですが、インターネットに自作の曲を投稿し始めたのは、社会人になってからですね。
坂口 ドット絵と楽曲制作には、なにか共通点があるんですか?
モトクロス斉藤 かつては楽曲の音程や展開など、技巧的な部分にこだわっていてんですが、ここ数年に制作した曲は、精神的なものを再現している作品が多いです。
俺は、90年代のヒップホップやディープハウス、ファンクやジャズなどのジャンルが好きなんですが、その場の空気感の作られ方とかに興味があって。どうやって音が収録されて、どうやって編集されているのか、そしてどのように音が劣化していったのかを分析しながら、さまざまな音ができる工程をエミュレートしてく。それはピクセルアートにも通じています。
坂口 すごくディープな音楽の楽しみ方ですね。

モトクロス斉藤 特別インタビュー Part2 ピクセルアートが時代に受け入れられた理由モトクロス斉藤氏のアトリエは、1/3がピクセルアート、2/3が楽曲制作のスペース。

モトクロス斉藤 自分が気に入った風景や、記憶に残っているシーンをドット絵にすることは、楽曲にその場の空気感を込めることと同じことだと思うんです。もちろん音楽に関しては素人なので、技術が追いついていない部分もありますが、自分が感じたことを形にしていく点においては、ピクセルアートと楽曲制作は似ている気がします。
坂口 ぼくはモトクロス斉藤さんの楽曲を聴いた時に、ピクセルアートと同じ居心地の良さを感じたんです。ドット絵の手触り感みたいなものと、楽曲のメローな感じが繋がっていて、心地のいいビートを刻んでいる。どちらの表現にも共通する要素だと思います。
モトクロス斉藤 嬉しい言葉ですね。
坂口 モトクロス斉藤さんは、自作のドット絵と楽曲を個別に制作されていますが、両方を組み合わせようとは思わなかったんですか?
モトクロス斉藤 「組み合わせたほうがいいよ」とよく言われるんですが、それぞれ別個に始めたものなので、一緒にしようとは思わなかったです。組み合わせられたらいいなと考えたこともあるんですが、自分のなかで上手く組み合わさるビジョンが見えなくて。俺は音楽で食っていける人間でもないので、無理に合わせるのなら、今は単体の方がしっくりくるんです。

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  • 坂口元邦
  • Interviewer: 坂口元邦 the PIXEL代表。SHIBUYA PIXEL ART実行委員会発起人。18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げた。現在は、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークにしながら、「現代の浮世絵」としてのピクセルアートの保管や研究を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想している。