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#モトクロス斉藤
2024.11.15
モトクロス斉藤 特別インタビュー Part4 ポカリスエットの広告、そしてこれからのこと
秀学社の資料集『美術資料』に作品が掲載されたことや、大塚製薬の「ポカリスエット」の広告を制作したことで、ピクセルアート界隈に新たな息吹をもたらしているモトクロス斉藤氏に特別インタビュー! 全4回に分けて、「Ultimate Pixel Crew(通称:UPC)」や「水曜ドット打つデイ」の誕生秘話、代表的な作品に込められた想いなどを紹介する。
第3回にわたりモトクロス斉藤氏の作品や活動について語り合った本連載。最終回である第4回では、「ポカリスエット」の広告ができるまでの舞台裏や、モトクロス斉藤氏が考えるドット絵の“懐かしさ”の根源、そしてアーティストとしてこれからやりたいことについて聞いた。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)※この記事は2024年5月に取材したものです。
ポカリスエットのCMができるまで
坂口 |
今年の4月には、スポーツドリンク「ポカリスエット」の広告も制作されましたが、制作期間はどのくらいだったんですか? |
モトクロス斉藤 |
制作の依頼をいただいたのが2月の下旬、実際に作業を始めたのは3月14日から。なので、1ヶ月もない短い期間で、すべてのドット絵を描きあげました。 |
坂口 |
非常にタイトなスケジュールでしたね。 |
モトクロス斉藤 |
でも、SNSなどのネット広告だけでなく、テレビのCMとしても放送されて。駅にある看板広告にも使用されました。 |
坂口 |
ぼくが最初に見たのは原宿駅の看板広告で、初見では誰の作品だろう?とわからなかったのですが、次第に「モトクロス斉藤さんの絵かな」と気が付きました。巨大な看板広告だったので、ドットが大きく表示されているのが印象的で。 |
モトクロス斉藤 |
看板広告にした時のドットの大きさは、いろいろと検証を繰り返しながら決めたんです。ドッターとして、とても勉強になりました。 |
坂口 |
クライアントからはなにか内容の指定などがあったんですか? |
モトクロス斉藤 |
これまでのポカリスエットの広告にあったような“爽やかさ”よりも、ドット絵の空気感みたいなものを表現してほしいと依頼されました。あとは「好きにやってください」といった感じで。もちろん全体の構成や内容は、アートディレクターの方から説明を受けましたが。 |
坂口 |
それぞれのシーンのカットは、どなたが決めたんですか? |
モトクロス斉藤 |
自分がドット絵を打ち始めた時には、すでにモデルの撮影が終わっていたんです。カメラマンのソン・シヨンさん(※1)も、すでに韓国に帰られていて。完成した写真が資料として送られてきたんです。 |
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※1)世界的に活躍する韓国のフォトグラファー。数多くのK-POPアーティストの撮影を担当している。 |
坂口 |
それぞれに場面や背景などは、先に決まっていたんですね。 |
モトクロス斉藤 |
ソン・シヨンさんの写真をもとにドット絵を描いたので、おおよそのイメージは出来上がっていました。だからこそ、大変だった部分も多くて。もとのソン・シヨンさんの写真が、それだけでも十分にカッコいいんですよ。やべぇ、これじゃ俺の色がでねえぞ、、、ってくらい。 |
坂口 |
では、個性に個性をぶつける形で? |
モトクロス斉藤 |
いや、あえて派手な演出は加えませんでした。目立つ見た目のドット絵にしたら、もっとピクセルアートの存在感が立ったかもしれない。しかし、そんなことをしてはいけないと思ったんです。ソン・シオンさんのカッコよさを邪魔せず、自分らしい味わいも表現しなくてはと。 |
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そこで、ドット絵らしい表現と、ドット絵っぽくない表現、そのふたつを組み合わせてみたんです。例えば、海の水面に反射する光の輝きなどは、写真にはないドット絵らしいさとして取り入れています。逆に、学校の窓から女の子たちが顔を出すシーンでは、窓枠などをパースから少しずらして描いて。 |
坂口 |
確かにいい意味で“違和感”がありますね。 |
電車内に掲示された「ポカリスエット」の広告。
モトクロス斉藤 |
窓枠などは直線や直角を多くした方が、ドット絵らしいカクカクした表現になる。だけど、それだと絵としてのカッコよさと両立できていない。どこか違和感があるくらいのバランスで、観る人に不思議な印象を与えようと思いました。 |
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ソン・シオンさんからいただいた写真が6〜7枚あって、そこからドット絵にしやすいものを選んで。ドット絵にしにくいものは、わざとドット絵として成り立たないくらいテクスチャーを重ねたり、写真にないものを想像で描き込んだりしました。 |
坂口 |
具体的に言うと、写真にないものを描いた部分はどこなんですか? |
モトクロス斉藤 |
これも女の子たちが窓から顔を出すシーンなのですが、窓にうっすら陸上部の子たちが走っているところを反射させたんです。他にも道路を走る車の動きなんかも、自分がすべて“演出”として加えました。 |
ドット絵の“懐かしさ”の根源にあるもの
坂口 |
ポカリスエットのCMといえば、やはり若い世代をターゲットにしていると思うのですが、ファミコンなどのレトロゲームをプレイしていない世代に、ピクセルアートが刺さる理由はなんだと思いますか? |
モトクロス斉藤 |
明治時代の写真って、その時代に生きていないのに、どこか懐かしい感じがしませんか? それと同じ現象が起きているのだと思います。 |
坂口 |
確かに懐かしさを感じることがありますね。経年劣化した写真は、色が抜けているし、全体的にもあせてしまっている。その哀愁みたいなものに“ノスタルジー”を感じるのですかね。 |
モトクロス斉藤 |
それもあると思いますが、解像度が低いものに“古い”とか“懐かしい”という印象を持つのかもしれません。例えば、高校の卒業式を思い出しても、断片的にしか覚えてないですよね。クラスメイトの顔もモザイクがかかっているみたいに、ぼんやりとしか思い出せない人とかもいたりして。 |
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そういった人間のぼんやりとした記憶が、ピクセルアートの質感に似ているから、ドット絵を見た時にどこか懐かしい感覚を持つのかもしれません。人間の普遍的な部分と繋がっている気がします。まー専門家じゃないので確証はないですけどね。 |
モトクロス斉藤がこれからやりたいこと
坂口 |
モトクロス斉藤さんが、これからやりたいことはありますか? |
モトクロス斉藤 |
やりたいことはいっぱいあります。でも、一番は自主制作の作品を完成させたいです。ポカリスエットの広告を作れたことは、本当に光栄だしありがたい限りなのですが、広告は自分の作品ではなく企業のもの。仕事として制作したものは、気持ち的にも自分のものにはならないんです。 |
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なので、“俺のもの”と言える作品を作らなきゃと思っています。そのためには、もっとコンテンツ力を磨いていき、自分の絵を描くという軸を持って活動していきたい。俺は仕事をすることが好きなので、どうしても企業の案件や広告に注力してしまう。今後は、自主制作の作品にも力を入れていきたいです。 |
坂口 |
モトクロス斉藤さんにとって、企業とのお仕事は楽しいことなんですか?
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モトクロス斉藤 |
正直、しんどいこともありますが、ガキの頃からも物作りが好きなので、楽しみながらやっています。本当に幸せな人生ですね。大学でも広告デザインを勉強していて、当時はデザイナーになりたかったので、それが今になって違う形で実現した気がします。 |
クラウド人事労務ソフト「SmartHR」PR映像。
坂口 |
自分の持ち味を出しながら、企業がどうしたいのかを汲み取ってドット絵を描いている。アーティストとしてだけでなく、企業の商品や価値を上げるプランナーとしての才能もお持ちですよね。
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モトクロス斉藤 |
それが広告デザイナーの視点なんだと思います。でも、大学時代に友達から「お前の作品は個性が強過ぎて、広告のデザイナーにはなれねぇ、アーティストでしかない」って言われたことがあって。どこか独りよがりすぎるんですよね。 |
坂口 |
確かに、アーティストが前面に出過ぎていたらダメですけど、広告を見た時に誰が作ったかわかる方が、デザイナーとしては優れていますよね。 |
モトクロス斉藤 |
ですよね! そっちのがいいですよね! 俺のドット絵は、誰が描いたかわかりやすいので、 「ドットが荒くて色数が多いぞ、これモトクロス斉藤だな!」って、すぐにわかっちゃうと思いますが。 |
坂口 |
これからは個展の開催などもしていくんですか? |
モトクロス斉藤 |
開催したいとは思っています。自分がやってきた成果として、なにか形に残る作品づくりみたいなことを、俺はまだ達成できていない気がして。常に自分の心というか過去が訴えかけてくるんです。「お前、まだやってねえぞ」って。なので、ひとつの形にするためにも開催したいです。 |
モトクロス斉藤にとってピクセルとは
坂口 |
最後に、モトクロス斉藤さんにとって“ピクセル”とはなんですか? |
モトクロス斉藤 |
なんだろ……。俺にとってピクセルとは“点”です。だって点ですもん。「点」を英語に訳したものが「ピクセル」ですから。
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なにかの記事に、言葉のそのままの意味以外のことは、あまり受け取らないようにしないと、社会でやっていけないって書いてあって。確かになって。自分の理解を超えたものを考えることも大切ですが、まずは書いてあることをちゃんと受け止めないとということで、“点”です。
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Interviewer: 坂口元邦
the PIXEL代表。SHIBUYA PIXEL ART実行委員会発起人。18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げた。現在は、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークにしながら、「現代の浮世絵」としてのピクセルアートの保管や研究を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想している。