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ARTICLES ARTIST #渋谷員子 #Muscat 2024.06.07

スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Muscat ドット絵対談 Part1

2022年9月に行われたピクセルアーティストMuscat氏と、『ドット絵の匠』こと渋谷員子氏の対談の一部を特別公開!

第1回では、ピクセルアートコンテスト2021で特別賞「渋谷員子賞」を獲得したMuscat氏の作品をもとに、ピクセルアートの特性やアーティストとしてのセンスについて語った。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

“言葉”から生まれるピクセルアート

Muscat よろしくお願いします。今回は、2021年のピクセルアートコンテストで、自分の作品『急がなくても、いつか会えるよ / The day we can meet again』(2021)が、優秀賞の「渋谷員子賞」をいただいたことから、対談という貴重な機会をいただき本当にありがとうございます。
渋谷員子 渋谷のハチ公前広場で人を待つ女の子の動画でしたよね。表現豊かで情緒ある作品だったのを覚えています。今は愛知県在住とのことですが、渋谷にはよく遊びに行っていたんですか?
Muscat 実は、渋谷で遊んだことがほぼなくて。インターネットで渋谷の写真を検索して、いくつかの写真を参考にしながら、自らのイメージをもとに描いたんです。
渋谷員子 そうだったんですね。でも、ハチ公前広場の様子と渋谷の街並みが上手くまとまって表現されていました。

スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Muscat ドット絵対談 Part1『急がなくても、いつか会えるよ / The day we can meet again』(2021)

Muscat 実際に忠犬ハチ公像ある位置から渋谷スクランブル交差点の方を見ても、あんな上手い具合にビルの看板は見えないんですよ。でも、そこは自分のイメージをもとにしているので、さまざまな角度から見える景色と合成させて。
渋谷員子 逆に、渋谷でロケハンをしてから描いていたら、この作品はできなかったかもしれませんね。
Muscat それはあると思います。あえて現地に行かずにイメージだけで渋谷を表現しようとしたことで、さまざまな要素をひとつの作品に取り入れることができました。
渋谷員子 どことなく“日本人”ぽいというか、しっとりと心地良い空気が漂う作品でした。こういう作品を“エモい”って言うんでしょうか。
Muscat “エモい”が一番嬉しい褒め言葉です(笑)
渋谷員子 コンテストなどの“お題ありき”の作品とは別に、自由に創作活動をする時は、どのように作品のアイデアやモチーフの着想が生まれてくるんですか?
Muscat 最初にタイトルを考えてから絵を描いてみることが多いです。作品を通して伝えたいメッセージをまず文字にして、そこからテーマに合った場所やシーンを連想していくんです。
渋谷員子 “言葉”からイメージを膨らませていくということですね。絵を描くアーティストには、少し珍しいやり方かなと思います。私は先にキャラクターを考えてから、作品の世界観やモチーフを膨らませていくことが多いかな。
Muscat 自分は伝えたいメッセージがまずあって、それを伝えるために必要な要素を付け加えていく。そうしていくと、メッセージもより伝わりやすいものに変化してくる。まさに言葉と絵の相互作用のようなイメージです。
渋谷員子 伝えたいメッセージがある、素敵なことですね。
Muscat もちろん要素が増えていくと、最初に伝えたかったメッセージからかけ離れてしまうこともあります。でも、言葉を起点にすることで、自分らしい作品を生み出すことができるんです。

大切なのはアーティストのセンス

渋谷員子 Muscatさんの作品は、一枚絵のものもあるけど、アニメーションの作品も多いですよね。やはり動画の作品を制作するのが好きなんですか?
Muscat どちらかというと、動画作品を制作する方が好きかもしれません。
渋谷員子 Muscatさんの作品を見た時に、“映像から入った人”という印象を持ちました。静ではなくて、動。全体の演出や画角なども視野に入っている。Muscatさんは、そういうセンスを持ったアーティストだなと。
Muscat 昔から写真や動画を撮影するのが好きで、ブイログ(※1)のように自分の活動を映像で記録していたんです。
※1)ビデオブログ(Video Blog)の略称。ブログ形式で日常生活や旅行の記録を写真や動画で公開するウェブサイトのこと。
渋谷員子 それは作品からも伝わってきますね。多くの人に愛される作品って、やはり作者のセンスが輝いているんです。
Muscat 確かにアーティストのセンスって大切ですよね。
渋谷員子 New Adeliesの「モノサシ」という曲のMVで描かれていた教室の風景は、どこかの学校の写真を見て描かれたんですか?
Muscat 「モノサシ」のドット絵は、どこか特定の学校ではなくPinterestやGoogleの画像検索で資料を集めて、これも頭の中のイメージで描きました。

渋谷員子 細かいパーツを描き込むのは大変じゃなかったですか?
Muscat 大変でした。特に全体の画角の調整などが。
渋谷員子 教室って机とか窓の“直線”が多いから、綺麗に見えるように線を引くのが難しいですよね。
Muscat そうなんです。空間のパース(※2)を取ってから描いたんですが、どうしても出来上がった絵に納得がいかなくて。ドットがより綺麗に見えるように、最終的にパースから少しズラして調整をしました。
※2)パースペクティブ(Perspective)の略称。建物の外観や室内を立体的に表した図やイラスト。
渋谷員子 そういったところにも、アーティストのセンスが表れる。ピクセルアートって正確に描写しても、どこか絵として違和感が生まれてしまうことがあって。暗い影が入り過ぎちゃったり、全体の見栄えが悪くなっちゃったり。逆に色数を減らして、カクカクのままにした方が綺麗に見えることもあるし。
Muscat 荒い描写の方がいい時もありますよね。
渋谷員子 その点では、Muscatさんの作品は、影の入れ方が上手いと思いました。カーテンに影を入れないことで、人物にスポットが当たっていて。ピクセルアートって、あえて“やらない”という選択肢を持つことも大切で。要素を足すだけでなく、不必要なものを減らすことに振り切ることで、作品が綺麗にまとまっていくんです。
Muscat 自分は、キャラクターの髪の毛とかに、あえて影を入れないようにしています。細かいディテールを描き込むことで、作品がよくなることもあるんですが、色数を増やし過ぎない方がいいこともあるので。
渋谷員子 作品のテーマやストーリーに合わせて、本当に必要な要素かどうか判断していくことが重要ですね。さまざまな要素を削ぎ落としても、伝えたいものは表現できるので。
Muscat 本当にそうです。

ピクセルアートの特異性について

渋谷員子 『不要な事なんて、ひとつも無かったよ / All I gave up is necessary』(2021)という作品を見て気になったのですが、棚の上から2番目ある水槽にいるのは金魚ですか?
Muscat そうです!

スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Muscat ドット絵対談 Part1『不要な事なんて、ひとつも無かったよ』(2021)

渋谷員子 ただの長方形なのに“金魚”ってわかる。このシンプルさ、最高ですよね。
Muscat 自分でも気に入っている部分です。
渋谷員子 この金魚は高解像度で描いちゃうと、面白さが失われてしまう気がします。
Muscat そうだと思います。最近は、自分の作品も解像度が少しずつ高くなってきているんですが、そうすると自然と気になる点が増えてきてしまうんですよね。
渋谷員子 最終的に誰のために描いているのかわからなくなりません?
Muscat そうなんです(笑)でも、自分のメッセージを伝えるために作品を制作しているので、見た人にメッセージが伝わらないと意味がなくて。
渋谷員子 それはMuscatさんが、言葉から作品づくりをしているからかもしれませんね。細部の描きこみにこだわってしまうと、Muscutさんの伝えたいメッセージが薄まってしまいそう。
Muscat 自分はもともと絵を描いていたわけではなくて。大学も美術系の学部ではなく、経済学部を卒業しました。でも、昔からクラシックなゲームが好きで、そのイラストを真似したいと思ってドット絵を描きはじめました。
渋谷員子 ドット絵は、普通のイラストを描くのとは少し違いますもんね。
Muscat そうなんです。自分はイラストを描くのが得意ではなかったので、水彩画やデッサンを模写するのは難しいけど、ファミコンのサイズのドット絵であれば自分でも真似できるのではと考えて。
渋谷員子 他にもドット絵の作品は、なにか制作されていたんですか?
Muscat ゲームの模写のほかに、写真とドット絵を合成したイラストなども制作していて。出来上がった作品をTwitter(現:X)に投稿していました。
渋谷員子 そこがMuscatさんのアーティストとしての出発点?
Muscat そうです。それから他のアーティストの方々の作品もTwitterで見るようになって。ゲームのスプライトのようなイラストだけでなく、日常風景を切り取ったものやポートレートなど、ピクセルアートにはさまざまな作風があることを知りました。
渋谷員子 今は、人物や風景を描いた作品も多いですよね。
Muscat 最初は、ゲームを模したドット絵ばかり描いていたのですが、やはりイラストの描き方を学ばないと、いい作品を生み出せないことに気がついて。結局、YouTubeの解説動画や参考書を見ながら、絵の描き方を勉強するようになったんです。そしたら、他のスタイルでもドット絵を描いてみたくなって。いつしか作品の幅が広がっていきました。
渋谷員子 他の人の作品を見ることは、アーティストとして画力を上げるための勉強でもあると思います。

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