the PIXEL MAGAZINE

ARTICLES ARTIST #ななみ雪 2024.04.20

ななみ雪 特別インタビュー Part2 女の子のイラストを描くコツは“モデル撮影”の想像

Interviewer: 坂口元邦 

自身初となる作品集の発売やふたつの個展の同時開催など、今大きな注目を集めているピクセルアーティストのななみ雪氏に独占インタビュー。全3回に分けて、スナップ写真のような女の子のイラストの誕生秘話や、ピクセルアートのコミュニティに対する想いなどを紹介する。

個展「Recollections」に実際に展示されているドット絵を見ながら、オリジナルグッズや体験型展示に込めたこだわりを聞いた第1回。続く第2回では、ななみ雪氏がピクセルアートに出合ったエピソードや、女の子のイラストに秘められた制作の裏側について迫った。(文=坂本遼󠄁佑|Ryosuke Sakamoto)

ピクセルアートとの出会いについて

坂口 ピクセルアート界隈では、今や中心的な人物のひとりとなっているななみ雪さんですが、ピクセルアートに興味を持ったきっかけはなんだったんですか?
ななみ雪 2019年に「dotpict」(※1)というアプリに出合ったことが、ピクセルアートの存在を知るきっかけでした。ある時、なにか面白いアプリがないかと思って、ぼんやりとアプリストアを眺めていたんです。
そしたら偶然、dotpictのアプリを見つけて。もともと細かい絵を描くことが好きだったので、簡単にピクセルアートを制作できる機能に魅力を感じ、スマートフォンにダウンロードしてみたんです。
※1)ドット絵制作アプリのひとつ。累計400万ダウンロードのドット絵好きのためのコミュニティサイト。
坂口 実際にdotpictのアプリを使ってみてどうでした?
ななみ雪 今ではコミュニティ機能がたくさんありますが、当時はまだ投稿されたイラストに“いいね”をするくらいしかできなかったんです。でも、私のつたないドット絵に、“いいね”をしてくれる人たちがいて。それが嬉しくていろいろな作品を投稿するようになりました。
坂口 最初に描いた作品は、どんなドット絵だったんですか?
ななみ雪 32×32の小さいキャンバスに描いた『すみれ色』というイラストです。まだ未熟な部分も多かったのですが、我ながら「初めてにしてはよく描けてるじゃん」って、完成した時にすごい達成感を得たのを覚えています(笑)

ななみ雪 特別インタビュー Part2 女の子のイラストを描くコツは“モデル撮影”の想像『すみれ色』(2019)

坂口 その時、パレットは他の人のものを借りたんですか?
ななみ雪 パレットは、自分でいちから色を選んで作っていました。
坂口 初めてにしてはと言ったら失礼ですが、形のバランスも取れているし構図なども達者ですね!色の組み合わせ方にも、ななみ雪さんらしさがすでに出ている気がします。
ななみ雪 ありがとうございます!

幼心に覚えた“ものづくり”の楽しさ

坂口 人物の表情や場面の演出など、さまざまな表現方法に長けていらっしゃるななみ雪さんですが、ピクセルアートを始める前から、イラストの勉強をされていたんですか?
ななみ雪 特にイラストの勉強をしていたわけではないのですが、もともと絵を描くことが好きで、趣味としてイラストを描いていました。中学生の頃は、美術部に入って好きな少女漫画のキャラクターの模写などをしていて。

ななみ雪 特別インタビュー Part2 女の子のイラストを描くコツは“モデル撮影”の想像個展「Recollections」の開催に合わせて制作されたカセットテープをモチーフにした作品。

坂口 なにか美術部に入部したきっかけはあるんですか?
ななみ雪 仲のいい友達が入ると聞いて、私も入部しようと思いました。幼稚園生くらいの時から、毎日“お絵かき”をして遊んでいていたので、小さい頃から図画工作が得意だったんです。
坂口 絵以外にもなにか創作活動をしていたんですか?
ななみ雪 アイロンビーズでよく遊んでいて、それは今のドット絵にも繋がっています。あとは、普通のビーズでブレスレットを作ることも好きで、色の組み合わせを見ながら、自分なりのデザインを考えていました。
坂口 幼い頃からものづくりの楽しさに気づいていたんですね。デジタルのドット絵だけで完結するのではなく、さまざまなグッズ制作にも楽しみながら取り組まれている、今のななみ雪さんに結びついている気がします。

ななみ雪 特別インタビュー Part2 女の子のイラストを描くコツは“モデル撮影”の想像“ガラケー”をモチーフにした作品。ドット絵のイラストがアクリル板に印刷されている。

「こっちに視線を向けてください」

坂口 ななみ雪さんの作品の特徴として、女の子のキャラクターを描いたモチーフが挙げられると思うのですが、それぞれの女の子には性格や職業などの人物設定があるんですか?
ななみ雪 そこは見る人に委ねたいので、あえて細かい人物設定を付けないようにしています。もちろん自分でも描き終わってから、性格や個性などを想像するのですが、ただの後付けにしかすぎなくて。最初に思い浮かんだ女の子のイメージをもとに、できるだけ直感でドットを打つようにしています。
坂口 キャラクターの心情なども、あえて決めないようにしているんですか?
ななみ雪 キャラクターの心情や気持ちなども、見る人の想像力に委ねています。あとはイラストのシーンやシュチュエーションも、描き手が勝手に決めるのではなく、各人によって違う解釈をできる方が、作品自体に面白みが生まれてくると思うんです。
坂口 ななみ雪さんが描く女の子のイラストには、どこか見る人の興味を引きますよね。

ななみ雪 特別インタビュー Part2 女の子のイラストを描くコツは“モデル撮影”の想像個展「Recollections」では、“チェキ”を模したポストカードとパネルのふたつの形態で作品を展示。

ななみ雪 女の子のイラストを制作する時は、実際にそこにいるモデルさんを撮っているイメージで描いています。「こちらに視線を向けてください」と、カメラマンになったような気持ちで。そうすることで、少し恥ずかしそうにこちらを向いてくれている感じを演出できるんです。
また、私と彼女たちは深い知り合いではなくて、街中で偶然に出会った女の子にモデルをやってもらっている。そんな状態を想像しながら描いているので、私自身も彼女たちのことをよく知らない。なので、謎めいた女の子たちの姿を見て、「どんな子なんだろう」と想像してもらえたら嬉しいです。
坂口 知らないものを知りたいという人間の心理を上手く使った、ななみ雪さん独自の世界観は見る側の好奇心を掻き立てますね。

キャラクターの服装や髪の毛にまでこだわる

坂口 女の子のキャラクターが来ている服装も、ななみ雪さん自身が選んでいるんですか?
ななみ雪 女の子が着ている服は、実際に通販サイトで販売されているアイテムを見ながら、自分の好みにあったものを取り入れていています。

ななみ雪 特別インタビュー Part2 女の子のイラストを描くコツは“モデル撮影”の想像展示作品は、ななみ雪氏が過去に製作したイラストからセレクト。

坂口 さまざまな作品のファッションに統一感があるのは、そういった理由があるんですね。ある意味、ななみ雪さん自身がスタイリストとして、女の子たちをコーディネートしているということですよね。
ななみ雪 そうですね。自分では少し挑戦しづらいファッションも、イラストの中なら女の子たちに好きな服を着せられる。なので、その日の気分で服装を描き変えてみたり、流行りのアイテムを取り入れたりしています。
坂口 逆に、見る側も着ているファッションから、「学校の帰り道なのかな」とか「週末に遊びに出かけているのかな」と、シーンやシュチュエーションを想像しやすくなりますね。
ななみ雪 作品にいろいろな要素を入れることで、見る人の受け取り方にも違いが生まれやすくなるんです。

ななみ雪 特別インタビュー Part2 女の子のイラストを描くコツは“モデル撮影”の想像会場を入るとななみ雪氏の世界観が目の前に広がる。

坂口 女の子の髪の毛が揺れる細かい動きの表現も見事ですが、髪にもこだわりがあるんですか?
ななみ雪 女の子たちの髪型も、私が好きなものを選んでいて。ピクセルアートで髪の毛を表現するのって難しいんです。1本1本の動きやわずかな光の反射具合など、リアルな髪の毛を描くには技術が必要になってくる。だからこそ、上手く質感などを表現できた時は、その分だけ喜びも大きくて。
坂口 ピクセルアートって、そもそもドットが四角いので、どうしてもカクカクした表現になってしまう。そんなかで、細かい質感までも描こうとする熱意は、ななみ雪さんならではの個性のひとつかもしれませんね。
ななみ雪 なので、ピクセルを綺麗に並べすぎないように意識しています。斜めの線なんかも規則的に並んだ“ピクセルパーフェクト”の方が、見た目もすっきりして気持ちがいいのですが、顔の輪郭や衣服だと無機質な印象になってしまう。あえて不規則に並べた方が、柔らかさや温かみを表現できるんです。
坂口 ドットの並べ方にもこだわりがあったんですね。

  • ななみ雪
  • 坂口元邦
  • Interviewer: 坂口元邦 the PIXEL代表。SHIBUYA PIXEL ART実行委員会発起人。18歳で渡米し、大学では美術・建築を専攻する傍ら、空間アーティストとして活動。帰国後は、広告業界で企業のマーケティングおよびプロモーション活動を支援。ゲーム文化から発展した「ピクセルアート」に魅了され、2017年に「SHIBUYA PIXEL ART」を渋谷で立ち上げた。現在は、ピクセルアーティストの発掘・育成・支援をライフワークにしながら、「現代の浮世絵」としてのピクセルアートの保管や研究を行う「ピクセルアートミュージアム」を渋谷に構想している。